見出し画像

「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第26回 日本の生活保護制度は手厚いのか?

 2022年4月、厚生労働省は生活保護受給額の区分である「級地」の見直しを行う事を発表しました。現在生活保護の級地は6つありますが、それを3つに整理する作業が行われる様です。この措置により、受給額が減少する人が出てくる事も懸念されており、支援団体からは抗議の声も上がっています。
 
 このように日本では、生活保護は常に議論の対象となってきました。生活保護受給者が「怠惰な生活している」と非難を受ける事もあれば、逆にそれを審査する行政側も、「受給基準にかなっているのに門前払いしている」と非難される事もあります。このような賛否両論が産まれている状況を鑑みても、日本の生活保護制度が過渡期に入っている事は明らかであり、この制度の在り方や持続性に関して、より深い議論をしなければならない段階になっていると言えるでしょう。
 
 ではどうすれば生活保護制度の実態を知る事ができますか?この点で統計は雄弁です。統計は嘘をつきません。統計を調べれば、日本における生活保護制度のこれまでの推移について知る事ができます。それは現在の実態を明らかにするとともに、将来の課題についても浮き彫りにしてくれる事でしょう。
 
 しかし日本の統計だけを見ても余り意味がありません。世界の統計も調べる必要があります。特に2000年代以降はグローバル化が急速に進み、仕事で海外へ出て行く人、また海外から仕事で入ってくる外国人も増えました。このような移民の世界的な増加は、各国の生活保護制度にも強い影響を与えています。例えば外国人も生活保護の対象とみなす国がある一方で、別の国ではローカルの人達のみが受給できる仕組みになっています。更に言えば、生活保護制度自体存在しない国も少なくありません。とりわけ失業率と生活保護には密接な関係がありますから、こういった海外の現状を調べる事で、世界における日本の正確な立ち位置を理解する事ができます。故に世界の統計を調べる事は重要なのです。
 
 とはいえ統計だけでは見えて来ない分野もあります。それは実際の「生の声」です。生活保護費は多すぎるでしょうか?それとも少なすぎますか?また行政の対応は適切なものでしょうか?こういった質問に対する答えは、残念ながら統計には現れません。「生の声」を聞いて初めて理解できます。特に生活保護受給者は世間から叩かれやすく、大きな声を上げる事が難しいので、一般の人たちは意識して耳を傾けなければ、彼らの声は聞こえてこないでしょう。それでこういった生の声を聞く事は非常に肝要な事と言えます。
 
 この点で私は海外で会社を経営していますが、海外の生活保護制度の善し悪しも良く見てきました。海外で生活保護を受けてきた各国のローカルの人達の事も知っていますし、就業支援を経て社会復帰できた人を弊社でも受け入れています。このような場合、会社とNPOなどが密接に連携する必要があり、そういった貴重な経験もさせて頂いています。こういった経験もしていますので、日本と海外の生活保護制度を俯瞰する上で、私は有利な立場にいます。
 
 それで今日は、「日本の生活保護制度は手厚いのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本の生活保護制度のこれまでの推移と現在の実態を調べます。次に海外の統計を通して、日本の生活保護制度が海外のそれと比較してどのような立ち位置にあるのかを確認します。最後に私自身の海外での経験を交えながら、日本における生活保護制度の在り方について考察を述べていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

ここから先は

7,118字 / 8画像
マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?