Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第71話 アフリカの貧困の背後にあるもの
前回の話はこちらから
https://note.com/malaysiachansan/n/n31681951ebde
この話は2023年まで遡る。マレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、この日、サウジアラビアのジッダにいた。ジッダはサウジアラビア第二の都市で、旧市街は世界遺産に認定されている。またメッカへの入り口に位置することから、毎年巡礼の時期には200万人以上のムスリムが世界中から押し寄せる都市として有名だ。
ところで氷堂がジッダにいるのは、当然ながら巡礼のためではない。氷堂は毎月のようにジッダを訪れているのだが、それはジッダ港にクライアントがいるためだ。ジッダはその優れた立地から、サウジアラビアの商業首都と呼ばれている。実際ジッダは紅海の玄関口に位置し、ヨーロッパ・アジア・アフリカの貿易の要衝となっている。その中心を担うのがジッダ港で、4つのターミナルに62のバースが設置され、その面積は12.5平方キロメートルに及ぶ。
さて氷堂は今回、クライアントからの紹介でフェデラル社(仮名)という会社とアポイントメントを取っていた。このフェデラル社はブルンジ人とサウジアラビア人が共同で設立した会社で、主にブルンジからヨーロッパへのコーヒーの輸出を生業としている。また近年は取引量が増えており、コンテナ不足に悩まされていた。その中で紹介されたのが氷堂の会社だった訳だ。
約束の時間にオフィスへ向かうと、フェデラル社の社長ミシェルが自ら氷堂を出迎えた。ミシェルは黒人で身体が非常に大きく、身長は190cm、体重は優に100kgを超えていると思われる。その外見だけでも威圧感を感じるほどだ。するとミシェルは言った。
「はじめまして。リツさん。この度は時間を割いていただき、本当にありがとうございます。我々もリツさんの会社からコンテナを貸していただけるとお聞きし、大変嬉しく思っています」。
ミシェルの声は太く、アフリカ特有の英語訛りが非常に強かったが、強面な外見とは裏腹に、物腰は非常に柔らかく、温厚な性格が口調からひしひしと伝わってきた。それで氷堂も言葉を返した。
「こちらこそ貴重な機会をいただき、心から感謝しています。弊社はポートクランとジッダ港を拠点としていますが、その繋がりでミシェルさんの会社とも取引できる機会に恵まれました。そして今回ブルンジからドイツへ向けて運ぶのは、コーヒー豆と聞いています」。
氷堂の言葉に、ミシェルも反応する。
「その通りです。実はですね、ブルンジは有名なアラビカ種のコーヒー豆の産地で、その品質は世界屈指と言われています。現にヨーロッパの有名店で出されるスペシャリティコーヒーでは、ブルンジ産の豆が使われることも多いんですよ」。
ブルンジが素晴らしいコーヒー豆の産地とは、氷堂も噂には聞いていた。それで言葉を返した。
「それは素晴らしいですね。でもそんなに美味しいなら、結構お値段も高いのではないのでしょうか?」
するとミシェルは少し考え込む様子を見せた。そして言葉を選ぶように、ミシェルは続けた。
「確かにその通りです。それこそブルンジ産のコーヒーをヨーロッパのカフェで飲めば、1杯10ユーロ近くする店もあるでしょう。ただですね…そのお金は国民には落ちないのです。ご存じかもしれませんが、ブルンジは世界で2番目に貧しい国と言われており、病気や栄養失調により、毎年数えきれないほどの死者が出ています。これもこの国の悲しい現実です」。
そう言うとミシェルは天を仰ぎ、大きく息を吐いて俯いた。ただミシェルの言葉を聞いて、氷堂はブルンジという国に興味が湧いてきた。そう言えばブルンジに対しては、日本もODAで多額の援助をしているはずだ。なぜコーヒーという素晴らしい産業があるにもかかわらず、貧困から抜け出せないのだろうか。何が足枷になっているのだろうか。それを知りたいと思った氷堂は、ミシェルの話にさらに耳を傾ける事にした。しかしその後に氷堂が知ることになったのは、アフリカを掌握し続けたい先進国の傲慢と、それに翻弄される国民の悲しい現実だった。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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