Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第70話 日本の相続税法の落とし穴
前回の話はこちらから
https://note.com/malaysiachansan/n/n5111a94f1668
この話は2022年まで遡る。マレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、この日、クアラルンプール市内のモントキアラという地域にいた。モントキアラはマレーシアで最も外国人が多く住むエリアの一つであり、多くの外資系企業の駐在員や外交官がこの地域には居住している。当然ながら日本人の数も非常に多く、たくさんの日本料理店が軒を連ねている。ちなみにモントキアラは公共交通機関が発達しておらず、車を持っていないと行くことが難しいエリアである。それゆえに貧民層は少なく、比較的治安が保たれている地域とも言える。
さて氷堂がここに来た目的は、友人のリュウジが日本から移住してきたからだ。2人は共に香港で働いていた時期があった。当時、氷堂は大手コンテナリース会社の社員として、リュウジは日系物流会社の現地採用の社員として、忙しい毎日を送っていた。二人の間に仕事上の付き合いはほとんどなかったが、なぜか気が合ったこともあり、日が昇るまで夜な夜な飲み歩いた仲だった。またリュウジは投資が趣味で、その頃から香港株や上海株にのめり込んでいた。その後、リュウジは同僚の日本人女性と結婚し、子どもが産まれたのを機に日本に戻った。香港よりも日本の方が子育ての環境として良いと判断したためだ。それ以降、2人は疎遠になっていた。リュウジに会うのは実に8年ぶりだ。
氷堂が待ち合わせ場所のカフェで待っていると、リュウジは時間ピッタリに現われた。氷堂とリュウジは同じ歳だが、その出で立ちは180度異なっていた。リュウジはTシャツにハーフパンツ、そして真っ黒に日焼けした肌を露出させていた。また髪の毛は茶髪で、耳が隠れるほどの長さまで伸ばしていた。一方の氷堂は仕事の合間にモントキアラまで来たこともあり、スーツ姿で、しかも髪の毛は禿げ上がっていた。同じ日本人とは思えないほど、二人は不釣り合いな格好をしていたが、一旦会話が始まれば、そんな空気はどこかへ吹き飛んでしまった。リュウジは言った。
「いよいよMM2H(※マレーシアのリタイアメントビザ)の承認が下りて、こっちへ引っ越してくることになったよ。コロナの間は移民局の手続きがストップしていたから、どうなることかと思ったけど、ようやく一段落だね。今は俺だけが来て、来月には妻と娘が合流する予定なんだ」。
リュウジは昔と変わらず飄々としていた。氷堂も言葉を返す。
「それは良かったね。でもまさかリュウジがマレーシアに引っ越してくるとは、思ってもみなかったよ。だってリュウジは子育てのことを考えて、香港から日本に戻ったでしょ」。
氷堂は疑問に思っていたことを尋ねてみた。するとリュウジも答える。
「本当にその通りだよね。自分でもまた海外で生活することになるとは思わなかったよ。実はさ、ビットコインで少しばかり資産が出来たんだけど、日本の法律、特に相続税法が本当にクソでね。子供の将来のことを考えたら、国外に移住せざるを得なかったんだよ」。
そう言うとリュウジは爽やかな笑顔でアイスコーヒーを飲み干した。ただ氷堂は疑問に思った。リュウジは日本をこよなく愛していたはずだ。そのリュウジが、相続税の仕組みが原因で海外移住をせざるを得なかったと言っている。一体日本の税制の何が問題なのだろうか?それを知りたいと思った氷堂は、リュウジの話にさらに耳を傾ける事にした。しかしその後に氷堂が知ったのは、社会情勢に追いつかない時代遅れの税制と、骨の髄まで吸い尽くそうとする国税の執念だった。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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