「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第90回 リモートワークの未来は明るいのか?
2024年9月、米国オンライン通販大手のアマゾンは、リモートワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド勤務の廃止を発表しました。コロナ禍を経て、アマゾンは社員の出勤形式を対面からリモートワークに切り替えていましたが、その後、リモートワークは週2日まで縮小されていました。今後は、社員は週に5日、オフィスに通勤する従来の形式に戻ることが求められています。
このリモートワーク廃止の流れは、アメリカだけではありません。日本も同様です。例えば2023年2月21日、日本を代表するIT企業であるGMOグループは、これまでの「週3日出社・週2日在宅勤務」という原則を見直し、原則オフィス勤務を求める方針転換を打ち出しました。この目的に関してGMOは、「全てのパートナーがオフィスで顔を合わせて勤務することで、これまでよりもさらにコミュニケーションを円滑化させることができる」と述べており、オフィス勤務のアドバンテージを強調した形です。
このようにコロナ禍で広がったリモートワークも、時間と共にオフィス勤務と併用するハイブリッド形式になり、最近はそのハイブリッド形式も終えて、オフィスに完全回帰する企業が増えつつあります。これが現在の世界の潮流であり、この流れは今後も止まらないものと予測されます。
一方でリモートワーク特有のベネフィットも少なからずあります。例えばITエンジニアの業界においては、求人の募集要項にリモートワークを加えないと、優秀な人材を確保しづらい状況が生じています。また社員をリモートワークの環境で働かせることにより、オフィスの面積を縮小でき、それにより固定経費の削減に成功している企業もあります。このようにリモートワークには、長所と短所が存在するため、その価値を評価する際には、バランスの取れた見方が必要です。
ではどうすれば良いですか?この点で統計は有用です。日本の統計を調べれば、コロナ禍の前後でどれだけの企業がリモートワークを導入したか、そして現在ではどの程度の企業がオフィス勤務に戻したのかを理解できます。このように全体を俯瞰すれば、リモートワークの功罪に加えて、日本企業が抱える構造的な問題点も明らかになるかもしれません。それ故に統計は重要です。
ただ日本の統計だけでは不十分です。海外の統計にも着目する必要があります。リモートワークの普及、およびその後の縮小は、欧米だけでなく、新興国にも見られる全世界的な傾向です。一方でリモートワークであれば、自国内だけでなく、世界中から社員を集めることが可能なため、特にIT業界などでは採用を有利に進められるというメリットもあります。確かにグローバル化によって世界は繋がっている訳ですから、海外の統計を調べることも大切と言えます。
一方で統計からは見えて来ない分野があります。それは実際の現場の「生の声」です。リモートワークを行っている社員の中には、「リモートを継続して欲しい」という声が根強く見られます。「リモートワークだから家事や育児と両立できた」と訴える人たちもおり、彼らには彼らの生活があるのも事実です。逆に経営者の苦悩も存在します。リモートワークによって生産性が落ちたと感じる経営者は大勢おり、それが昨今のオフィス回帰にも繋がっています。このように社員には社員の、経営者には経営者の悲喜こもごもがあり、それらは統計から見えて来ず、彼らの声に耳を傾けて、初めて理解できるものです。ですから「生の声」は重要です。
この点で私は海外でコンテナリース会社を経営していますが、コンテナリースには「物流」としての役割と同時に、節税対策の「金融商品」としての側面も持ち合わせています。そのためコロナ禍においても、当然ながら港湾で作業をする人たちはリモートワークなどできず、毎日現場に足を運んでいましたが、一方で金融商品を設計する部門の人たちの間では、かなりの程度リモートワークが進んできました。このように業界内においても、両者の状況を観察してくることができたため、リモートワークの現実を語る上で、私は確かに有利な立場にいます。
それで今日は「リモートワークの未来は明るいのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本企業のリモートワークの導入状況を俯瞰します。次に海外の統計を通して、世界におけるリモートワークの潮流を考察します。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の問題点を浮き彫りにすると共に、「ビジネスパーソンがより稼げる就業環境」について、具体的な提言を述べたいと思います。将来的に転職を考えている方や、会社の生産性に問題意識を持っている方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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