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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第88回 日本の地方創生は本当に可能なのか?

 2024年10月4日、石破茂首相は所信表明演説を行いました。その中で首相は「地方こそ成長の主役です」と述べて、地方創生を日本の経済政策の要に置く方針を明らかにしました。具体的には、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、地方創生の交付金を予算ベースで倍増することを目標としています。
 
 振り返れば、内閣府特命担当大臣として、「地方創生大臣」の役職が置かれたのは2015年でした。この初代大臣が石破氏であり、来年でちょうど10周年に当たります。石破氏にとって地方創生は極めて思い入れが深く、また政治活動の源泉でもある訳ですから、首相に就任した暁には、この分野に最注力するのも十分理解できます。
 
 しかし現実にも目を向ける必要があります。この10年間を振り返れば、地方は創生どころか衰退の一途を辿ってきました。日本全国で過疎化が進み、限界集落の数は増え続けています。また多くの市町村では転出が転入を常に上回っており、大都市圏への一極集中が加速しています。このような環境の中で、「本当に地方創生は可能なのか」と改めて考えるのは有用な事でしょう。
 
 ではどうすれば地方創生に関して、日本の実態を理解できますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、日本の地方の過疎化がどれだけ進んでいるのか、またこれまで地方創生関連の予算がどれだけ付いて、どの程度の効果があったのかを理解できます。それは今までの地方の歩みを教えてくれると共に、現在の日本が抱える構造的な問題も明らかにしてくれるかもしれません。それゆえに統計は重要です。
 
 ただ日本の統計だけでは不十分です。海外の統計にも注目する必要があります。都市への一極集中は日本だけの問題ではなく、世界中で見られる事象です。そして諸外国の中には、日本よりも問題が遥かに深刻化している国もあれば、逆に首尾よく対処できているように見える国もあります。これらの事例を比較考慮するならば、日本が抱える問題の特異性をより鮮明に理解できるでしょう。
 
 しかしながら、統計からは見えて来ないものもあります。それは実際に暮らす人たちの「生の声」です。当然のことですが、地方には地方の、また都市部には都市部の悩みがあります。日本の地方では高齢化がどんどんと進んでいますが、一方で農業や漁業などの一次産業を支えているのも地方の高齢者です。逆に都市部には若者が集まって来ますが、社会保障費は年々上昇し、稼いでも稼いでも、税金や社会保険料で手取りが伸びないという嘆きも存在します。このようなそれぞれの言い分は、統計からはなかなか見えて来ず、当事者の話を聞いて初めて理解できるものです。ですから「生の声」は重要です。
 
 この点で私自身も地方出身で、生まれ故郷は過疎化が進み、それを止める事が全くできていません。そして両親や親戚は現在もそこに住み続けているので、衰退する地方の実情を垣間見ることができています。一方で今私が住むマレーシアにおいても、過疎化および都市への一極集中は社会問題になっています。マレーシアでは日本のように地方にインフラの予算を大きく割かないため、その深刻度は日本を遥かに超えていると言っても過言ではありません。こういった現実を目の当たりにしていますので、「生の声」を聞くという点でも、私は確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本の地方創生は本当に可能なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、過疎化が進む地方の実情や、地方創生関連の交付金の推移を俯瞰します。次に海外の実例を通して、諸外国がこの問題にどのように対峙しているのかを考えます。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の地方創生の課題を探ると共に、「地方が生き残るにはどうすれば良いのか」について、考察と提言を述べたいと思います。地方在住の方や、地方出身の方には特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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