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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第8回 日本のインバウンドは復活するのか?

 2019年、日本には外国人観光客が溢れていました。例えば東京の秋葉原では外国人が闊歩し、平日の富士の裾野に行けば、日本人よりも遥かに外国人の方が大勢いました。人の記憶は薄れていくものですが、これは今から僅か2年前の出来事です。しかしご承知の通り、2020年初頭からは新型コロナウイルスの影響でインバウンドの観光客が激減します。そして大規模な入国制限が施行され、日本のインバウンドは凍結される事になりました。

 その後の観光地の凋落はご承知の通りです。これまで大勢の外国人観光客が訪れていたエリアは閑古鳥が鳴く様になり、その後多くのホテルや土産物店が潰れました。そしてその中で日本を支配した世論が、「もうインバウンドに頼るのは止めよう」というものでした。これまでインバウンドは日本の観光政策を牽引してきましたが、今後は国内観光にも力を入れて、有事の際に困らない様にしようというものです。

 無論、この考え方自体は正しいと言えます。日本には世界屈指の観光資源があり、日本国民であっても行った事がない観光地は無数にあるでしょう。もし国民自身が更に国内旅行にお金を費やすなら、観光業界は一層盛り上がるに違いありません。その事に異論の余地はありません。しかし一方でインバウンドは2019年まで、とてつもない勢いで伸長してきました。そしてその伸長は国の基幹戦略の一つとなり、日本経済全体にも大きな影響を及ぼしてきました。

 この点に関してある人はこういうかもしれません。「インバウンドなど、GDPの1~2%程度に過ぎず、これがあろうがなかろうが大きな影響はない」と。確かにこの主張は一見理にかなっているように思えます。しかしこの考え方には重要な視点が欠落しています。それは「何故これまで日本政府がインバウンドに注力してきたのか」という視点です。インバウンドがGDPのたかだが1~2%程度の価値しかないものであれば、ここまで日本政府が力を入れる必要は無かったはずです。ではこれまで長きにわたり日本政府がインバウンドに注力してきたのは何故でしょうか?それは日本政府が考える2050年頃までの超長期計画と関係があります。日本政府は今後の超長期的計画の中で、インバウンドが外貨獲得の貴重な手段となり、それによって雇用を創出していくという指針を立てています。この指針を無視して、目先だけの問題に焦点を当てて、インバウンドの必要性の有無を語る事はできません。

 これを知る上で統計は雄弁です。過去の統計を見るならば、日本のインバウンドがどれだけ伸長してきたかを知る事が出来ると共に、現在のインバウンドが抱える問題も炙り出す事ができます。加えて日本だけの統計を見ても余り意味がありません。当然ですが、訪日観光客がいるという事は、日本に来たいと思っている外国人がいるという事です。日本のインバウンドビジネスは世界のインバウンドビジネスの中でどのような立ち位置にいるのでしょうか?こういった点を世界の統計から分析する時、日本のインバウンドが進むべき道筋も知る事ができます。

 併せて統計だけでなく、「生の声」も有用です。なぜ外国人は日本に来たがっているのでしょうか?訪日外国人が考える日本の魅力とは何なのでしょうか?こういった「生の声」を聞く時、インバウンドの実態が更に明らかになります。この点で私は複数の国に跨る会社を経営している事から、様々な国の外国人と日常的に接点があります。その多くが日本に旅行へ行った経験があり、再び行きたいと考えている人たちです。私はこういった「生の声」を聞く事ができるという点で、この問題を俯瞰する上で有利な立場にいます。

 それで今日は、「日本のインバウンドは復活するのか?」というテーマでコラムを書いていきます。最初に観光庁などの統計を通して、これまで日本のインバウンドがどのように推移してきたかを振り返ります。更に2020年から始まった新型コロナウイルスの影響で、そのインバウンドがどの程度の影響を被ったについても考えます。更に世界の統計を通して、日本のインバウンドの現在の立ち位置や魅力について理解を深めると共に、今後日本のインバウンドが進むべき道についても考察していきたいと思います。長文ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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