Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第46話 テロリストの巣窟となる街
前回の話はこちらから
https://note.com/malaysiachansan/n/nfe2b11e6c0d0
この話は2019年まで遡る。マレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、この日取引先との会合でスバンジャヤという街に来ていた。このスバンジャヤはクアラルンプール西方にある衛星都市で、首都圏の中で最も人口密度が高いエリアの一つとしても知られている。またサンウェイ大学やモナッシュ大学といった著名大学が立ち並ぶエリアでもあり、大勢の学生たちがこの街には住んでいる。
さて午前の打ち合わせを終えた氷堂は小腹が空いてきた。それでお気に入りのレストランへ足を運ぶことにした。実はスバンジャヤの一角には小さなアラブ人街があり、そこにはアラブ料理レストランが軒を連ねている。これらのレストランは店主も店員もアラブ人であるため、ここでは本場顔負けのアラブ料理を堪能する事が出来る
お店に入った氷堂はメニューを広げると、お店の看板料理である「マンディ・ラム」を注文した。
日本人には馴染みがないかもしれないが、「マンディ」とはイエメン東部が発祥の料理で、中東のアラブ人にとっては国民食的な存在だ。この料理だが、最初に羊をボイルして軟骨まで柔らかく煮込む。その後それを取り出し、今度はオーブンに入れて蒸し焼きにする。最後はフレッシュトマトと唐辛子を使用したソースを添えて、細長いバスマティ米と一緒に楽しむ。シンプルでありながら手の込んだ料理であり、その味わいは絶品だ。
さて氷堂が食事を楽しんでいると、急に店内がざわついてきた。すると1台のパトカーが店の前に泊まり、中から数人の警官が降りてきた。そして警官は店主に色々と質問をしており、何やらにメモを取っている様子だった。そして5分程すると、警官は挨拶もせずに店を去っていった。
その様子を見た氷堂は店主に尋ねてみた。
「何か事件でもあったんでしょうか…」
急にお客から話しかけられた店主は少し驚いた様子だったが、すぐに気を取り直して氷堂に答えた。
「いやぁ、実はこの数日、色々あって本当に大変だったんですよ…そういえば、お客様は時折ご来店頂いていますよね。お顔を覚えています。」
店主は氷堂の事を覚えてくれていたらしい。それもそのはずだ。アラブ料理店に好んで通う日本人など相当少ないのだから。。
氷堂も答える。
「はい、私はここのマンディ・ラムが大好きです。実は私も仕事で中東には行くのですが、本場顔負けの味わいですね。あ、はじめまして。私の名前はリツと申します。」
それに対して店主も答える。
「リツさんですか、かっこいい名前ですね。私はマリックと言います。実はですね…ここだけの話なんですが、うちの常連でエジプト人の若者がいましてね、彼は週に1回くらいは店に足を運んでくれていたんですが、その彼が先日警察に逮捕されたんです。何よりも驚いたのはその容疑で、なんと彼は国際テロリストの一員だった様なんです。いやぁ、私もびっくりしました。それで最初は私達も彼らとの関係を疑われて大変だったんですよ。」
その言葉を聞いて氷堂は絶句してしまった。スバンジャヤは人こそ大勢いるが、総じて平穏な街並みで、マレーシアの中でもかなり治安の良い事で知られている。そんな街の片隅の小さな店に、テロリストが潜んでいたなど信じ難かったからだ。
それで氷堂はマリックに更に詳しく話を聞いてみる事にした。テロリストたちの実態を知ってみたかったからだ。しかしその後氷堂が耳にしたのは、常識では考えられないほど高度化したテロリストたちの国際ネットワークだった。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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