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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第24話 新手の麻薬密輸取引の裏側

前回の話はこちらから

https://note.com/malaysiachansan/n/n16cb772adfbc

 この話は2019年某日にまで遡る。この日、氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は社員のケヴィンとアイリーンと一緒に、仕事帰りに夕飯を食べに行く約束をしていた。ケヴィンは40代のインド系マレーシア人で、港湾の現場責任者として働いている。非常に真面目で部下からの信頼も厚く、家族思いのナイスガイだ。一方のアイリーンは20代前半の中華系の女性で、氷堂の会社の経理や総務全般の業務を行なっている。彼女は中国語と英語が堪能で、仕事も非常にできる女性だが、とても気が強く、社長にも臆することなく意見を言ってくるので、氷堂は性格的には彼女の事を苦手に感じていた。そんなアイリーンだが、最近彼氏と別れたらしく、随分と落ち込んでいた。それを慰めるために計画されたのが、今回の食事会だった。

 3人が向かったのは、氷堂の会社から車で10分ほどの場所にある、レストラン・ポートヴィレッジだった。

第24話 レストラン ポートヴィレッジ

 このレストランでは、生簀に泳いでいる鮮魚を選んで、それを調理して貰う事ができる。特にここで有名な料理はナマズだ。ナマズと聞くと日本人では拒否反応を示す人も少なくないが、中華料理では一般的な食材だ。特にこのポートクランは、クアラルンプール市内を流れるクラン川と、マラッカ海峡が当たる泥炭地帯に位置しており、非常に質の良いナマズが採れる場所としても知られている。席に着いた3人はビールを注文すると、このナマズ料理を含めて、前菜からメインディッシュまで10品以上注文した。そしてテーブルは注文した料理で溢れるほどになった。

第24話 ナマズ

 一卓には乗り切らないほどの量の料理を注文し、それらを会話と共に楽しむのが中華系マレーシア人の流儀だ。目の前に並んだ素晴らしいご馳走を前に、氷堂とケヴィン、そしてアイリーンは食事を楽しんだ。そして話は段々とアイリーンの失恋話に発展していった。アイリーンは彼氏と4年も付き合って結婚も夢見ていたが、最近彼氏の浮気が原因で別れたらしい。その話に愛妻家であるケヴィンは真剣に耳を傾け、彼女に同情し、真摯にアドバイスをしていた。そして時間が経つにつれ、アイリーンもケヴィンもビールを飲む量が増えていき、最後は白酒(バイチュウ)というアルコール度数が60度近くあるお酒を飲み始めた。中華系もインド系も非常にお酒が強い人たちが多いのだが、彼らもご多分に漏れず、延々とお酒を飲み続けていた。そして店を出る頃には夜11時を回っていた。

 一方の氷堂はお酒を一滴も飲まなかった。氷堂自身もお酒はかなり強い方だが、2人を車で自宅まで送る必要があったからだ。そして彼らを送り終えた後、時計を見ると深夜12時を過ぎていた。「ようやく家に帰える」。そう思った時、氷堂は異変に気付いた。カバンに入れておいたはずの家の鍵が見つからないのだ。そしてすぐにその理由を思い出した。氷堂はレストランに向かう前、港湾の現場に立ち寄った。その際にカバンをひっくり返してしまい、カバンの中身が全て地面に落ちてしまった。残さず拾ったつもりだったが、恐らく家の鍵だけは拾い損ねてしまったに違いない。それで氷堂は仕方なく、港湾の現場に戻る事にした。こうして現場に戻る頃には、深夜1時を回ろうとしていた。

 さてポートクランの港湾は24時間体制で稼働しているのだが、それはあくまで船が着岸し、荷下ろしをするまでの範囲だ。陸側で行うコンテナの仕分け作業などは、朝8時~夕方6時までが既定の時間となっており、それ以外の時間は殆ど稼働していない。そのため深夜の港湾には、どこまでも続く暗闇のコンテナ置き場の中に、黄色に光るガントリークレーンだけが映る、何とも幻想的かつ不気味な光景が広がっている。

第24話 夜のガントリークレーン

 ようやく氷堂は自社のコンテナ置き場に辿り着いた。ポートクランの港湾では数万個というコンテナが整然と並んでいるが、会社ごとに区画が分かれている訳ではない。一般の人では、どこからどこまでが各会社の区画なのかを理解するのは不可能だ。しかし氷堂を始めとした港湾事業者は、その区画が頭に入っている。氷堂は自身の区画で車を停め、カバンをひっくり返したと思われる場所を探してみた。無論周囲にライトなどは殆どなく、真っ暗闇の中なので、自分の携帯電話のライトを頼りに当たりを付けた。すると地面に小さく輝く物体を見つけた。間違いない。自分の家の鍵だ。鍵を見つけた氷堂は大いに安心した。これで家に帰る事ができる。そして氷堂は再び自分の車へと向かっていった。

 しかしその時だった。50mほど離れたコンテナの区画から、何やら小さな青白い光が見えた。そして同時に喋り声も聞こえた。氷堂は確かに誰かがそこにいる事を悟った。しかし時計を見ると、間もなく深夜2時になろうとしている。こんな時間帯に陸側で作業をする事は、港湾当局からも認められていない。どう考えても怪しかった。そう感じた氷堂は、その声のする方向へと、一歩一歩足音を殺しながら慎重に近づいていった。だが氷堂のこの好奇心が、新手の麻薬密輸取引の現場に出くわす大事件に繋がるとは、まだこの時点では想像すらできていなかった。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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