Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第51話 中国に占領された海辺の街
前回の話はこちらから
https://note.com/malaysiachansan/n/nbbb99b9b33af
この話は2018年12月まで遡る。マレーシアのポートクランでコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、一本の電話を受け取った。スマホの画面を見ると、発信者は「アレックス」と書かれていた。ちなみにアレックスは香港にある氷堂の親会社・フェータイル社(仮名)のCOOで、時折電話を掛けてきては無理難題を押し付けてくる。今日も嫌な予感がした氷堂であったが、仕方なく電話に出ると、彼は開口一番こう言った。
「ご無沙汰しています。リツさん。お元気にしていますか?事業は順調に推移している様ですね。ところでカンボジアのシアヌークビルってご存知ですよね。カンボジア最大の港湾都市であり、有名なビーチリゾートでもあります。」
どうやら氷堂の予感は的中した様だ。しかしお構いなしにアレックスは話を続ける。
「そのシアヌークビルですが、近年は中国企業による進出が相次いでいます。これが凄いんですよ。中国の会社が無数の不動産開発を請け負い、資材から重機まで、何から何まで中国から運んで来ます。更にですね、労働者まで連れてきてしまうんです。これを我々は冗談で『スーパーチャイナタウン構想』と呼んだりしています。」
氷堂は「スーパーチャイナタウン」という言葉を聞いて寒気がした。それで氷堂もアレックスに答えた。
「アレックスさん、朝から目の覚めるような話をありがとうございます。シアヌークビルに関しては、私も取引先から中国企業の進出が相次いでいるという噂は聞いていました。それで一体私に何をしろと言うんでしょうか?」
さっさと用件を言ってほしかった氷堂は開き直ってアレックスに尋ねた。するとアレックスも答えた。
「では単刀直入にお伝えしましょう。現在中国本土からシアヌークビルへのコンテナが不足しています。そこでリツさんの会社にもご協力頂きたく、電話させて頂きました。」
「中国」という言葉を聞いて氷堂はためらった。中国本土にある中国企業は概ね問題ないのだが、在外にある中国企業はかなりトラブルが多いのだ。例えばコンテナが予定通りに返却されなかったり、支払いが滞ったりする事はザラだ。「可能なら断りたい」と心の中で考えた氷堂であったが、その考えを遮るようにアレックスは話を続けた。
「まぁ乗り気でないのは十分に理解できます。しかしですね、リツさんの会社は我がフェータイル社の子会社です。そして我が社の大株主は中国の国営企業です。その国営企業から来ている案件を、リツさんが断れると思いますか?」
アレックスは氷堂の弱みを良く分かっている。実際アレックスはこうやって、自分の会社が扱いたくない面倒な案件を氷堂にいつも投げてくる。しかし氷堂の会社がフェータイル社の子会社である以上、氷堂は彼の言う事を聞くしかない。そもそも氷堂の会社の売上の大半は、業界大手でもある親会社のフェータイル社から依頼された案件だ。単なる子会社の社長に過ぎない氷堂に、選択の余地はないのだ。
それで氷堂は言った。
「分かりました。では私の方で対応させて頂きます。」
それに対してアレックスも言った。
「さすがリツさん。頼んだ甲斐がありました。それでは後ほど詳細をメールしますので、可能な限り早くシアヌークビルへ向かってください。宜しくお願いします。」
そう言うとアレックスは一方的に電話を切った。そして氷堂はカンボジア・シアヌークビルへの出張の準備を始めた。しかし氷堂が現地で実際に目にしたものは、想像を遥かに超える中国の影響力と、中国マフィアが幅を利かせた事による急激な治安の悪化だった。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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