JCGデータから平成最後のメタゲームを振り返る ~デッキ相性編~【Shadowverse】
1. はじめに
RAGE 2019 Summer 予選大会、お疲れさまでした。見事ファイナリストに名を連ねた8名におかれましては、おめでとうございます!GRAND FINALSの熱い戦いが今から楽しみです。
さて、数多くの熱戦を特等席で見させていただいたばかりで、いまだ興奮冷めやらぬ中ではありますが(この章を予選翌日に書いているため)、RAGE予選までの平成最後の環境を振り返ってみたいと思います。……環境に数日令和入ってるけど気にしない。
今回のSTR前期はメタゲームの変遷が比較的はっきりとしている一方で、デッキ内容の個人差が目立つ環境でもあり、採用カードの選択、そしてその枚数といった細やかなこだわりが勝率に結びつきやすい環境だったようです。どういうことか、投稿を分けて説明していきたいと思います。予定としては今回の「デッキ相性編」のほか、主要4デッキを4回にわたって順番に掘り下げていくつもりです。途中で力尽きないことを祈っていてください。
なお、説明の論拠として、時々、統計分析の結果を表形式で載せています。あくまで論拠であり、本論を読み進めるにあたって必ずしも必要ではないので、専門的で分かりづらいなどあれば、適宜読み飛ばしていただきたく思います。また、概ねスマートフォンからの閲覧にも耐えうるとは思いますが、グラフや表に関しては、PCから見ていただいた方が快適かもしれません。
2. デッキごとの使用率
というわけで、今回はデッキ間相性という、メタゲームの大枠から見ていきたいと思います。
こちらのグラフはSTR実装からRAGE予選大会のデッキ登録締切までの間の、JCG Shadowverse Open ローテーション予選大会における各デッキの使用率の推移を示したものです。集計対象は全17大会、8704デッキ。使用率が極端に低いデッキなどはグラフから省略しています。
また、ネクロマンサーのデッキタイプについては、《飢餓の絶傑・ギルネリーゼ》の採否によってデッキリストの他の箇所にも変化が生じやすかったため、便宜上《飢餓の絶傑・ギルネリーゼ》を採用しているものをミッドレンジネクロマンサー、採用していないもののうち《幽霊支配人・アーカス》を採用しているものをアーカスネクロマンサーというように分類しました。
このグラフから、RAGE直前期には概ね
Tier 1:ミッドレンジロイヤル(以下ミッドR)
Tier 2:聖獅子ビショップ(以下聖獅子B), 蝙蝠ヴァンパイア(以下蝙蝠V), ミッドレンジネクロマンサー(以下ミッドNc)
Tier 3:その他
という分布となっており、Tier 1の採用率がTier 2の2倍近くで推移していたことがうかがえます
(※ ここで"Tier" はデッキの強さではなく、流行度を意味します)。
また、ほぼ不動だったTier 1に対し、Tier 2内ではおよそ2週間スパンで、
ミッドNc ⇒ 蝙蝠V ⇒ 聖獅子B
と流行りが変化している様子が見てとれます。
こうしたことから、使用率という観点では、今環境は「Tier 2の3デッキを中心にメタゲームが形成されていた」と言うことができそうです。
3. デッキごとのBO3勝率
次に、デッキごとの勝率について見てみましょう。上のグラフは、先ほどの使用率のグラフと同じ条件で、Tier 2以上の4デッキについて、BO3単位での勝率を計算して図示したものです。
いずれのデッキも、4デッキ中最高勝率を出している時があり、アベレージも低くありません。あえて特徴を挙げるなら、以下のようになるでしょうか。
・ ミッドR
… 勝ち越しが継続しており、振れ幅が極端に小さい
・ 聖獅子B
… 振れ幅が大きいが、RAGE直前期には高めのアベレージに収束
・ 蝙蝠V
… 長らくミッドRに追随する安定した推移だったが、4月下旬からじりじりと勝率を落とす
・ ミッドNc
… 緩やかにアベレージを落とし続けたものの、RAGE直前に再度上昇傾向
整理すると、勝率の側面では「ミッドR, ミッドNc, 蝙蝠V環境」から「ミッドR, 聖獅子B環境」への推移が、RAGE予選までの大きなメタゲームの流れということになります。
「ミッドR, ミッドNc, 蝙蝠V環境」も厳密にはミッドRの横のデッキが ミッドNc ⇒ 蝙蝠V と推移しているため、BO3勝率の変化は使用率推移とほぼ同じだと言えるでしょう。
4. マッチ相性からメタゲームの推移を読み解く
スライド形式、全6ページ。スマートフォンからの閲覧にも概ね耐えうるとか言ったのはどこのどいつだ。
こまごまとしているため、しっかり読みたい方はブラウザそのものを拡大するか、全画面推奨。すぐ後に要約した図を用意してあるので、難しければ読み飛ばしてください。
こちらのスライドは、先ほどグラフにした各デッキの使用率・BO3勝率の推移をもとに行った統計分析の結果と、そこから推測される各デッキ間相性について記したものです。
結構一足飛びの推論をしているので、学術的な信頼性はあまりありません。「データ的には多分こうだろうな~」程度に考えていただければ幸いです。
やり方が知りたい、あるいは議論したいというかたは気軽にコメントやDMを飛ばしてください。
小難しい話はいいから結論を!というかたはこちらの相関図をご覧ください。
統計的な信頼性が高いほど、矢印の色が濃いです。
・ ミッドR:ミッドNc, 蝙蝠Vに有利、聖獅子Bに不利
・ 聖獅子B:ミッドR, 蝙蝠Vに有利、ミッドNcとは五分
・ 蝙蝠V:ミッドNcに有利,、ミッドR, 聖獅子Bに不利
・ ミッドNc:聖獅子Bと五分、ミッドR, 蝙蝠Vに不利
非常に大雑把ではありますが、JCGではこのような相性関係があったと言うことができそうです。
最終的に、聖獅子Bが主要4デッキの中に不利対面を持たない、かなりいい立ち位置についたように見えます。ただし、トップクラスの勝率を出しているのは、有利対面であるミッドR・蝙蝠Vの母数が相当数ある時に概ね限られており、ミラーマッチの増加や仮想敵の減少を受けてアベレージがどう変化するか、今しばらく注視が必要と言えるでしょう。
また、あくまでマクロレベルでの相性関係なので、個々の対戦についてはデッキリストの調整や、プレイにおけるノウハウ次第で、上図とは異なる相性関係になる可能性がある点にはご留意ください。
ここまで整理したうえで、もう一度JCGにおける使用率推移、並びにBO3勝率推移のグラフを見てみましょう。使用率の推移によって大きく4つの期間に分けてみました。
① 3月末〜4月上旬:ミッドR, ミッドNcが多数派で開幕
環境初期は ミッドR > ミッドNc > 蝙蝠V > 聖獅子B という使用数の並びでスタート。多数派のミッドR, ミッドNcに並ぶ勝率を出していた蝙蝠Vの使用率が次第に伸び始める。
② 4月中旬〜下旬:ミッドNcと蝙蝠Vの勢力図逆転
不利対面である蝙蝠Vの増加に伴い、ミッドNcの勝率・使用率が①期に比べて低下。逆に有利対面であるミッドR・蝙蝠Vの増加を受けて聖獅子Bの使用率は着々と上昇。
③ 4月末:蝙蝠Vと聖獅子Bの勢力逆転
GW + RAGE直前で環境速度が早い。とにかく早い。ますます数を増したミッドRと、急増を見せる聖獅子Bを前に勝率を落とした蝙蝠Vの使用率が一気に低迷。ミッドRの使用率は上がり続けたため、依然使用率・勝率を伸ばし続けた聖獅子Bだが、期間終盤はミラーマッチの増加と、仮想敵である蝙蝠Vの激減によるものか、勝率に陰りが見え始める。
④ 5月頭:安定期?
勝率頭打ちの影響か、聖獅子Bの使用率が微減。使用率に関してはそれ以外の3デッキはほぼ横這いだが、③期から通して蝙蝠Vが相当数減少したため、勝率面ではミッドNcが再浮上。
5. メタゲームの今後の展望
このように、今期は整理してみると意外なほど素直に、「勝てるデッキが使用率を伸ばし、後追いでそれをメタるデッキが台頭する」の繰り返しが起きていただけだということが分かります。環境スタート時からトップシェアのミッドRが大幅な不利対面を持たなかったために、その牙城が崩れず、Tier 2 間だけで綺麗なメタゲームが形成された点は少し特徴的かもしれません。
そのため、今後起こりえる展開は大きく「Tier 2間でメタゲームが循環する」「Tier 1に変化が生じる」「新デッキが環境に割り込む」という3つのパターンのいずれか、あるいはその複合で考えることができそうです。
① Tier 2間でメタゲームが循環する
一番現行の体制が続くパターンで、このパターンを辿るかどうかの鍵は聖獅子Bが握っています。
集計期間終盤、聖獅子Bの成績は陰りを見せました。これが本当にミラーマッチの増加や蝙蝠Vの減少、すなわち有利対面の割合低下によるものだった場合、聖獅子BはミッドRにはなれません。聖獅子Bのシェアが増えれば、対聖獅子B不利の蝙蝠Vが減少し、結果有利対面が減って勝率を落とした聖獅子Bも使用率を下げる……といった形のシーソーゲームになることが予想されるためです。
また、これの派生形として、もともと聖獅子Bに対して不利な立ち位置にはないミッドNcが対聖獅子Bに構築を寄せだすと、
聖獅子B増加 ⇒ ミッドNc増加 ⇒ 蝙蝠V増加 ⇒ 聖獅子B増加……
のTier 2 三竦み体制に移行する可能性も少なくありません。
② Tier 1に変化が生じる
逆に集計期間終盤の勝率低下が環境によるものではなく、たまたまだった場合、多少の有利対面減少はものともせず、聖獅子Bが高アベレージを維持することになります。
そうなると聖獅子Bの使用率も伸びやすく、Tier 1に食い込んでくるケースが十分に考えられます。その場合、ミッドRが聖獅子Bに対して不利なため、聖獅子B増加でミッドRの使用率が落ちて、聖獅子B最多のまま環境が推移する「聖獅子B 単独Tier 1環境」か、有利対面であるミッドRの減少を受けて聖獅子Bの勝率も停滞し、ミッドR・聖獅子Bがお互いの使用率に影響されながら睨みあう「ミッドR・聖獅子B Tier 1環境」のどちらかにシフトしていく可能性が高いと言えるでしょう。
どちらのパターンに進むかは、やはり聖獅子Bの勝率がどれだけミッドRの使用率に依存しているか次第です。
③ 新デッキが環境に割り込む
いつだって、新しいデッキは環境を一変させることがあります。RAGE予選でも、《天喰らう異形》採用のコントロールOTKエルフや、アーティファクトネメシス、機械軸のデッキなどが可能性の片鱗を見せていました。
「俺自身がトワイライトソードになることだ」
―― エンシェントブレーダー・ダイン
解説中に危うく立ち上がるところでした……
既存のデッキタイプに、これまでとは異なるカードが採用された結果、マッチアップ相性が変化するということもありえるでしょう。練りこんだ自信作のデッキで環境に一石を投じるのは、やはりTCGの醍醐味の1つですよね。
とはいえ、そうした新デッキが環境に与える影響は、そのデッキが台頭する前の統計情報からは推し量ることができないため、こればかりは予測が立ちません。あしからず。
一応、パターンとして考えやすいものを1つあげるなら、対聖獅子不利がマクロレベルでは明らかになったミッドRに対して、もう1つメタデッキが練り込まれることで、BO3におけるミッドR 2タテ戦略が流行するなどはありえるかもしれません。その場合、②のパターンと複合してTier 1に変化が生じる可能性も濃厚です。
6. おわりに
何か気の利いたことでも言って締めようかとも思いましたが、本来一本で各デッキ概観までやりきる予定だったのを分割した形なので、締める気分でもなければ、そもそも気の利いた言葉が思い浮かびませんでした。次回以降、分析の密度も上がっていきますので、今回はゆるっと終わらせてください。
というわけで、また次回の記事でお会いしましょう。