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JCGデータから平成最後のメタゲームを振り返る ~ミッドレンジロイヤル編~【Shadowverse】

1. はじめに

 前回の記事ではSTR環境最初の1ヶ月ほどの環境を、デッキタイプ間の相性という大枠でとらえ、4つの時期に分けてみたり、今後の展望をいくつか整理してみたりしました。特にシーズンを4つに分けたものは今回以降の記事でも登場の機会が多いと思いますので、一度おさらいをしておきましょう。
 前回の記事からそのまま引用しますので、覚えているかたは流し読みで問題ありません。

① 3月末〜4月上旬:ミッドR, ミッドNcが多数派で開幕
 環境初期は ミッドR > ミッドNc > 蝙蝠V > 聖獅子B という使用数の並びでスタート。多数派のミッドR, ミッドNcに並ぶ勝率を出していた蝙蝠Vの使用率が次第に伸び始める。

② 4月中旬〜下旬:ミッドNcと蝙蝠Vの勢力図逆転
 不利対面である蝙蝠Vの増加に伴い、ミッドNcの勝率・使用率が①期に比べて低下。逆に有利対面であるミッドR・蝙蝠Vの増加を受けて聖獅子Bの使用率は着々と上昇。

③ 4月末:蝙蝠Vと聖獅子Bの勢力逆転
 GW + RAGE直前で環境速度が早い。とにかく早い。ますます数を増したミッドRと、急増を見せる聖獅子Bを前に勝率を落とした蝙蝠Vの使用率が一気に低迷。ミッドRの使用率は上がり続けたため、依然使用率・勝率を伸ばし続けた聖獅子Bだが、期間終盤はミラーマッチの増加と、仮想敵である蝙蝠Vの激減によるものか、勝率に陰りが見え始める。

④ 5月頭:安定期?
 勝率頭打ちの影響か、聖獅子Bの使用率が微減。使用率に関してはそれ以外の3デッキはほぼ横這いだが、③期から通して蝙蝠Vが相当数減少したため、勝率面ではミッドNcが再浮上。

 今回はこの時期区分を用いながら、ミッドRのデッキの立ち位置や、デッキにおける採用カードの違いなどを細かく掘り下げていきたいと思います。今回は統計分析で詰めきらずに、少なからず私見を交えているため、やや客観性の低い箇所もありますが、ご容赦ください。

2. ミッドレンジロイヤルの全体像と立ち位置

平均BO3勝率:52.69%, 母数:2797
グラフと勝率50%を示す補助線が交わらない……。

 改めて、今回のテーマであるミッドRですが、今期のJCGローテーション大会においては環境初回大会を除いて、使用率1位をキープし続けました(※ 《幽霊支配人・アーカス》を採用しているデッキをすべてアーカスネクロマンサーに分類した場合、4月上旬の間はアーカスネクロマンサーが使用率1位)。BO3勝率も1度として50%を下回ることがなく、押しも押されぬ強デッキの立ち位置を確立していたと言えるでしょう。
 ミラーマッチの勝率は全体では50%に収束するため、マクロレベルでの勝ち越しを維持していたのは、他デッキとのマッチアップを制し続けたことを意味しています。ミッドRに明確な優位を取れるデッキが聖獅子Bを含め、少なくとも環境内で十分な数までは台頭してこなかったということになります。

 さて、たった今「ミラーマッチの勝率は全体では50%に収束する」と述べましたが、この "全体では" という部分が肝で、今環境において、最もミラーマッチが発生するデッキタイプであった以上、「如何にして "自分は" ミラーマッチで大きく勝ち越している状態に持ち込むか」。これがBO3でミッドRというデッキを選択する多くの競技プレイヤーにとって、好成績を狙ううえでの大きなテーマになっていたことは想像に難くありません。
 そしてミラーマッチに限った話ではありませんが、勝率アップに寄与するものとして、プレイングの研鑽と並んで重要なのがデッキ内容の調整であり、今環境のミッドRにおいても、様々なデッキのスタイルを目にすることができました。

 ここでは、実際のカード選択の中でも、個人差が出やすかったもの・勝率に影響があったと思しきものに焦点を当てて見ていきます。各採用候補カードに対して、おそらく多くのプレイヤーがメリット・デメリットを評価して採否を判断されていると思いますが、実際のマクロレベルでは、メリット・デメリットのどちらがより顕在化する環境だったのか。そういったことも勝率の推移からある程度推し量れるため、ここからはカード選択段階での長所短所の見積もりを再検討、あるいは答え合わせするような感覚で読み進めていただくと面白いかもしれません。

 それでは早速、ミッドRの採用カードについて見ていきましょう。

ミッドRの勝利数を目的変数とした重回帰分析(変数減少法)の結果。有意な結果こそ出ているものの、決定係数があまりにも低い。要はほとんど何も分かっていない。

 上の表はミッドRに採用される主要カードのうち、ある程度採用枚数に個人差が出るカードについて行った統計分析の結果となります。
 これが意味するところは、《魔導狙撃士・ワルツ》《ホーリーナイトベア》は採用枚数を増やすほど勝率が落ちる、いわゆる"積み損カード"だということです。ただし、いずれも勝率に与える影響は誤差と言っていいレベルの小ささであり、加えて、あくまでカード単体にフォーカスした分析結果に過ぎません。40枚という決められた枠の中で、他のカードとの組み合わせ・枚数比次第でパフォーマンスが変動する可能性まで考慮すると、結局は集計期間を通して共通するほどの"積み得 / 損カード"はほぼなかったと言えます。

 とはいえ、ここで言う"積み得 / 損カード"とは前述のとおり、「採用枚数を増やすほど勝率が上がる / 下がる」カードのことを指すのであって、「特定採用枚数の時だけ勝率が高い / 低い」カードや、「枚数によらず、採否が勝率に影響している」カードについて分析するには手法が適していません。

 というわけで、代わりにヒートマップを出してみました。

ミッドRの主要カードのうち、採用枚数にある程度個人差があるものに関する、採用枚数ごとの勝率ヒートマップ。括弧内の数字は該当するデッキ数です。ミッドR全体の平均BO3勝率(52.69%)を基準に、勝率が高いほど暖色、低いほど寒色の色分け。グレーは該当数が極端に少ないものになります。

 とりあえず、特定の枚数で勝率が顕著なカードがいくつか見つかってひと安心です。
 2コストフォロワーはいずれも、枚数による勝率のばらつきが大きく、他にも「不採用 or 1枚採用」や「2枚 or 3枚」といった2択で判断が割れていたカードについても、その多くでどちらかの選択に優位性が認められそうな結果となっています。
 ただし、このヒートマップもやはり集計期間全てを通じてのものであり、環境の推移による勝率変化を捉えきれていません。そのあたりをはっきりさせるため、上のヒートマップで気になるカード群について、時系列を交えてもう少し詳しく見てみましょう。

3. 採用の分かれた2コストフォロワー

 ミッドRに採用される2コストフォロワーは、ほぼ確定枠の《空の指揮官・セリア》《月の刃・リオード》以外では、上のグラフにまとめた5種類が主だった候補だったようです。

 まずは、分かれた中では最も採用率の高かった《簒奪の従者》から見ていきましょう。

「お前のものは俺のもの」どころか「それはもとより俺のもの」と、デフォルトの所有権ごと簒奪しに来るポスト・ジャイアニズムの使い手(ポスト・ジャイアニズムって言いたいだけ)。
グラフに関しては折れ線がBO3勝率、棒が使用数。採用枚数のそれぞれについて、該当数が極端に少ない回は欠損値として、前後の有効値の平均を代用しています。

 このグラフによれば、集計期間を通して常に5割前後の採用率があったようです。
 採用枚数ごとの勝率に注目すると、2枚採用構築が最もアベレージが高く、0枚・3枚採用の構築はシーズン後半では、見るからに成績を落としています。特に0枚採用に関しては 4/21からの勝率低下が顕著で、これは冒頭で振り返った4つ区切りの集計期間のうち、ちょうど②と③の境目にあたります。

もう一回ぺたり。今後、"①期"のような表現が出てきたら、この区分けだと思ってください。

 ③期の一番の特徴は蝙蝠Vの激減と聖獅子Bの急増であり、このことから、対蝙蝠Vでは不採用でかまわず、対聖獅子Bでは採用のほうが望ましいという《簒奪の従者》の立ち位置が浮かび上がってきます。
 推測になりますが、対蝙蝠Vでは初期攻撃力の低さ(=ライフプレッシャーの低さ)が仇となり、逆に対聖獅子Bでは《スカイセイバー・リーシャ》の登場により、ALT期までのようなアグロプランではなく、盤面勝ちを狙うプランが太くなった変化に、《楽園の聖獣》《天象の風・ペトラ》を牽制できる《簒奪の従者》の役割が合致して、勝率に結びついたのではないでしょうか。

 次に、《キャノンスマッシャー》についてです。③期から急速にシェアを広げたこのカードですが、実は勝率の動きという点では、《簒奪の従者》との共通点が少なくありません。

・ 2枚採用の構築が高い勝率で安定
・ 4/21以降(③期以降)、不採用・3枚採用の構築で勝率が低下
などなど

 そのため、こちらもシンプルに「対蝙蝠Vでは不要。対聖獅子Bでは役割大」といきたいところなのですが、このカード、3枚採用構築の勝率が①~②期を通して、目に見えて上がっています。シーズン前半の一貫した動向として、特筆できるのはやはり蝙蝠Vの増加になるため、《キャノンスマッシャー》のエンハンス時の横展開は対蝙蝠Vで有効に機能していたことが予想されます。
 では、③期以降における不採用構築の勝率低下をどう説明するのかという話になりますが、③期のもう1つの特徴であるミッドRの増加に焦点を当てて考えるのが妥当なように思います。リソース問題との付き合い方や、《高潔なる騎士・レイサム》起動後のライフレース展開などは特にミッドRミラーマッチで顕著に意識されるポイントであり、その両者に1枚である程度まで回答してくれる《キャノンスマッシャー》の採否は、ミッドRミラーマッチがますます増加した③期以降の明暗に関わっていたのではないでしょうか。
 ちなみに、聖獅子Bが数を減らした④期には、不採用構築の勝率も回復しており、対聖獅子Bでの役割が大きいという認識は概ね間違っていなさそうです。

 続いて、《マジックディーラー・エルネスタ》について見てみましょう。

 自分の手札の1枚を強制的に入れ替えるという、癖の強い効果を持っていますが、《白翼の戦神・アイテール》以外に目ぼしいドローソースを持たないミッドRでは、キーカードへのアクセス向上というユニーク寄りの役割で採用されることがあります。4月上旬のうち、およそ②期(4/6〜)あたりからは継続して一定割合での採用が見られました。
 勝率面で特に大きな変動が見られるのは4月中旬、やはり聖獅子B台頭の③期頃となっており、ここまで見てきた《簒奪の従者》《キャノンスマッシャー》とは異なり、採用している構築側の勝率が落ちています。【疾走】持ちなど、デッキ内の枚数が限られているカードにアクセスする手段としては魅力的なこのカードですが、手札消費の激しい横展開ムーブに際しては、もともと高バリューカードを狙うことの多い手札入れ替え効果があまり噛み合っておらず、「対聖獅子Bでは盤面勝ちプランのほうが太くなったのではないか」という仮説と照らしても、矛盾しない勝率低下と言えるでしょう。
 逆に①~②期においては、採用構築のアベレージが非常に高く《簒奪の絶傑・オクトリス》や【疾走】持ちなど、特定のキーカードを引けるかどうかが勝率に及ぼす影響の大きい、対ミッドNc・対蝙蝠Vで活躍の場が多かったと言うことができそうです。

 ここからは採用率の低い2枚についてです。まずは《オースレスナイト》ですが、ヒートマップ上ではかなりのアベレージを見せています。

 ただ、好カード発掘かと思いきや、そうそう上手くはいかないようです。グラフによれば、4月後半からは大幅に採用率を落としており、ヒートマップに表出した高勝率のほとんどは①~②期、すなわち聖獅子B急増前の環境で稼がれたものであることが分かります。シーズン前半に多く見られたミッドNcや蝙蝠Vに対しては、盤面展開が有利を生みやすかったものと思われます。
 このカードが対聖獅子Bにおいても同様に機能してくれるのであれば、直近の環境でも実は活躍のチャンスがあるカードということになりますが、果たしてどうでしょうか。先ほどから、対聖獅子Bでは「盤面勝負のほうが優勢」というようなことを何度か検討してきていますが、このカードは横展開には貢献するものの、トレード性能があまり高くありません。例えば《キャノンスマッシャー》と比較してみても、

・ 2コストでの運用に限られるため消耗が激しく、《安息の狂信者》などによるリソースへのダメージは《キャノンスマッシャー》よりも大きくなりやすい
《オースレスナイト》単体では2/2サイズのフォロワーが出ないため、《楽園の聖獣》や《天象の風・ペトラ》による裏目の大きさが異なる

などといった、盤面でのアドバンテージを奪い合ううえでの特有のリスクが存在します。そのため、《キャノンスマッシャー》の環境内での立ち位置がいい中、あえて役割の近い《オースレスナイト》のために枠を割くべきかどうかは、慎重な判断を要すると言えそうです。もちろん、《スカイセイバー・リーシャ》の効果を起動できるという、《キャノンスマッシャー》にはないメリットもあるので、即座に採用候補から外れるわけでもなく、直近の環境で通用するかは、データ上は良くも悪くも未知数のカードとなっています。

 それでは、最後に《ホーリーナイトベア》について見てみましょう。

 このカードは4月中旬以降の採用が目立ちます。そのため、対ミッドNcでの有効性は分かりませんが、対蝙蝠Vや対聖獅子Bにおいては、ヒートマップやグラフを見るに、あまり強い役割を持てていないと判断できます。
 《ホーリーナイトベア》採用の主な理由として考えられるのは「《スカイセイバー・リーシャ》《黄昏の刃・ナノ》を【守護】裏に隠せる」ことですが、聖獅子Bはもとより豊富なスペルによる除去に加え、今環境で採用を増やした《アサルトプリースト》の存在により、【守護】の影響を受けにくいデッキタイプです。ミラーマッチでも、ネックになってくる《白刃の剣舞》に対しては十分な耐性があるとは言い難く、単体でのパフォーマンスに重点が置かれた他の2コストフォロワーに比べて安定しない環境になったことが、《ホーリーナイトベア》採用に関しては、逆風として作用しているような印象を受けました。

4. 1枚採用するかどうかで個人差が出たカード

さっきは比較対象が全て2コストだったから採用率順に並べただけで、本来はコスト順に並べたかったという話

 さて、次は1枚採用、いわゆる"ピン挿し"をするかどうかで議論が分かれていたカードについて見てみましょう。

 まずは《マーセナリー・ルシウス》です。採用率こそ高くありませんが、シーズンを通して一定割合の採用が見られます。2枚採用の構築もありますが、4月以降かなりの少数派であるため、「1枚採用するかどうかで個人差が出た」という扱いにしています。

 ヒートマップではピン挿しがすこぶる優秀な勝率を出していますが、グラフを見るに、安定感にはやや難ありといったところでしょうか。もっとも、母数が少ない以上、大多数のプレイヤーが選択している不採用構築に比べて勝率推移の振れ幅が大きくなるのは当然のこととも言えます。
 さて、ピン挿し構築の勝率推移についてですが、不採用構築と比較して勝っている時期 / 負けている時期のそれぞれが、これまで多用してきた4つの時期区分でうまく整理することができません。この推移をきちんと説明するには、実は他のカードに登場してもらう必要があるため、ここでは一度保留とさせてください。

 というわけで、続いて《真紅の穿光・ゼタ》について見てみましょう。

 採用率に関しては、③期から伸びを見せ、ミッドRを持ち込むプレイヤーのおよそ2割がこのカードを投入していたようです。
 ②期以前は母数が非常に少ないため、やはり勝率の振れ幅が大きく、分析は難しそうですが、ある程度の数がいる③期以降については、概ね不採用構築よりも高い勝率を記録しており、ミッドR・聖獅子B環境での活躍が窺えます
 《白翼の戦神・アイテール》による《簒奪の使徒》サーチを邪魔してしまうため、賛否の分かれていたカードですが、一方でミラーマッチ中盤における相手の体力4以上のフォロワー(特に《簒奪の使徒》)への対応力や、対聖獅子Bにおける【守護】の突破 + 終盤の《不滅の群青・ベアトリクス》の決定力などは独自の採用メリットとなっています。勝率推移を見ると、③期以降はこうしたメリットが《簒奪の使徒》サーチを阻害するデメリットを上回っていたと言えそうです。

 さて、この章最後のカード、《舞い踊る刃・ディオネ》です。

 こちらもシーズン通して一定割合での採用が見られたカードですが、残念ながら②期以降、その勝率は芳しくありません。ミッドNcが相当数存在した①期では明確に高勝率をマークしているため、《永遠の花嫁・セレス》に対する除去手段、そして時間制限のあるマッチアップでの終盤の押し込みなど、このカードの強みが存分に発揮されていた様子は想像できます。
 それが②期から低迷し、③期以降50%を割り込む勝率となってしまった原因はいくつか考えられますが、やはり大きいのは環境内における"リーサルずらし"の頻度ではないでしょうか。10PPで6点を出せるこのカードですが、2回攻撃という特性上、本体のスタッツは3/3と非常に頼りなく、プレイしたターンに勝利できなければ、相手に盤面を明け渡すことになってしまうデメリットを抱えています。例えば【守護】を貼られたら。あるいは【ドレイン】でリーサル圏外に逃れられたら。《舞い踊る刃・ディオネ》はリーサルの手段として見ると、《空の指揮官・セリア》《ドラゴンナイツ》など他のリーサル要員に比べて、このような"リーサルずらし"に極端に弱いです。
 この特徴を踏まえてみると、②期は長期戦にもつれ込めば《姦淫の翼》で大幅な回復を狙ってくる蝙蝠Vが顕著に増加した時期、そして③期は《平和の紡ぎ手》《救済の聖獅子》《アサルトプリースト》《聖騎士・ヘクター》と最大で12枚もの【守護】を搭載できる聖獅子Bの急増に加え、やはり【守護】の多いミラーマッチも増えた時期ということで、このカードが非常に活躍しにくい環境だったと言うことができそうです。特に対聖獅子Bについては、アクセラレートを考慮しても、4という数字が大きな意味を持つこのマッチアップにおいて、痒いところに手が届かなかった様子が想像できます。

5. 2枚採用か3枚採用かで個人差が出たカード

 続いて検討したいのは、採用はほぼ確定していたものの、その枚数に個人差が現れたカードについてです。

 まずはSTD期からの定番カード、《クイックブレーダー》についてです。3枚採用が一般的なカードではありますが、4月中旬から徐々に2枚採用の構築も、その割合を伸ばしていきました。

地味に集計する時に《抜刀する執行者・タージ》と合算しないといけない曲者

 勝率に関してはヒートマップ・グラフの両面において、2枚採用の構築に軍配が上がっています。そして、2枚採用構築のほうが勝率が悪くなっている4/14~4/28については、用意してある4つの区分に綺麗に当てはめることはできませんが、実は蝙蝠VがTier 2内でトップシェアを誇っていた時期とちょうど一致します。

忘れた頃に再びぺたり。あまりにも手抜きな画像加工……。

 相手ライフを詰めることが特に重視される対蝙蝠V戦ですが、8コストで《高潔なる騎士・レイサム》をプレイするゲーム展開がそこまで多くないため、最初から【疾走】を持っている《クイックブレーダー》の役割もより大きくなっていると考えられます。
 また、2枚採用構築の勝率推移が《マーセナリー・ルシウス》1枚採用構築の勝率推移とどことなく似た動きをしていたため、気になってグラフを起こしてみました。

《クイックブレーダー》2枚採用構築における《マーセナリー・ルシウス》1枚採用率のグラフ。ルシウス単体のグラフももう一度貼っておきます。

 お前か!!偶然で済ますのはちょっと難しいくらい、グラフの特徴が一致しました。どうやら《クイックブレーダー》2枚採用構築、ならびに《マーセナリー・ルシウス》1枚採用構築の勝率推移に関しては環境よりも、そのデッキが両カードを 2 : 1 の枚数比で採用していたか否かが、より大きな影響を与えていたようです。
 これらのことから、対蝙蝠V以外のマッチアップでは、《クイックブレーダー》を3枚採用するよりも、《クイックブレーダー》2枚と《マーセナリー・ルシウス》1枚を採用する形のほうが勝率面で優位にあったと言うことができそうです。やはり早急に相手ライフに圧力を掛ける必要がない場合は、進化権やリソースの温存に繋がるチャンスを作れる《マーセナリー・ルシウス》の長所が活きやすい環境だったということでしょうか。
 何はともあれ、先程棚上げした《マーセナリー・ルシウス》ピン挿し構築の勝率推移の背景も、これで無事説明ができました。

《クイックブレーダー》2枚+《マーセナリー・ルシウス》1枚の組み合わせ採否と、③期以降のBO3勝率との関係を見る単回帰分析の結果。やはり決定係数が低いが、有意に正の相関があることは断言できる。

 補足的ではありますが、上の表は序盤で少し出てきたのと同系統の統計分析の結果です。こちらでもやはり勝率に与える影響はかなり小さいと出ていますが、勝率に好影響が出るということ自体は統計的に断言できる結果となりました。

 さて、《クイックブレーダー》《マーセナリー・ルシウス》のカップリングについて熱く語ってしまいましたが、忘れてはいけません。この章は本来「2枚採用か3枚採用かで個人差が出たカード」について検討する章です。ちなみにあと4枚控えています。
 ということで、引き続き見ていきましょう。お次は《白と黒の決闘》

 この章で扱う他のカードに比べて、そこまではっきりと採用枚数が二極化しているわけではありませんが、②期以降、2枚採用・3枚採用のシェアが特に顕著なため、こちらで扱っています。割合で言えば3枚採用の構築が最もポピュラーですが、2枚採用も全体の3割前後で推移しており、比較的個人差が大きいカードだと言えそうです。
 勝率に関しては、ヒートマップ上では2枚採用の構築が優勢です。ただし、3枚採用の構築に比べて大幅に勝率が高いわけではなく、かつ、母数が少ないため振れ幅が大きかった①期の影響が大きそうな様子も、グラフから窺えます。②期以降のアベレージは2枚採用構築・3枚採用構築でほぼ互角となっており、ここまで見てきたカードの中では初めて、1枚分の自由枠と言うことができるかもしれません。

 続いて検討するのは、今期のミッドRの代名詞とも言える《白刃の剣舞》です。

わあ棒グラフが真っ赤。

 ヒートマップでは2枚採用の構築のほうが高勝率を出していたので、念の為グラフ化してみましたが、やはり《オースレスナイト》の親戚でした。②期以降、非常に多くのプレイヤーが3枚採用をよしとしており、③期以降にいたっては、2枚以下の採用数を選ぶプレイヤーは絶滅危惧種となっています。
 また、2枚採用構築が一定数存在していた①〜②期においても、その勝率推移は3枚採用構築に比べて振れ幅が大きく、ヒートマップ上での2枚採用構築優位も、グラフから読み取れる2回の大きな勝ち越しによるものではないかという疑念は払拭できません(③期近辺から2枚採用構築の勝率グラフが高止まりしているのは、母数が極端に少ないため欠損値扱いの回が続き、ギリギリ有効な母数が存在していた 4/14 時点の勝率を参照して、グラフが描画されているためです)。
 このカードに関しては正直、確認の意味合いが強かったことは否めないので、これで終わりとして次のカードを見ていきたいと思います。

  というわけで、続いてのカード《簒奪の絶傑・オクトリス》です。

 こちらは②期以降、採用枚数を2枚とするか、3枚とするかで二極化が見られます。2枚採用構築は次第にその割合を減らしていますが、③期以降もおよそ1割のプレイヤーが2枚採用という選択を取っています。
 では勝率はというと、ヒートマップ・グラフともに3枚採用構築のほうが良好と言えるでしょう。特に蝙蝠Vの増加が特徴の②期以降、3枚採用構築の成績は安定して2枚採用構築を上回っており、もはやお家芸とも言える《フラウロス》の【ラストワード】簒奪が今期においても、その重要性を損なっていない様子が窺えます。蝙蝠Vが激減し、聖獅子B・ミッドRの増加が見られた③期に入ると、3枚採用構築は僅かに勝率を落としますが、50%を割り込んだり、連続して2枚採用構築より低い勝率を記録することもありませんでした。推測になりますが、《白刃の剣舞》の追加によって【エンハンス】効果のバリューがさらに上がった今期、ミラーマッチにおける重要性も以前より増しており、次第にミラーマッチが増えていく環境の中、3枚採用した《簒奪の絶傑・オクトリス》がその勝率を下支えしていたものと思われます。

 とうとう本稿で扱う最後のカードまでたどり着きました。今期のミッドRの中核をなす1枚、《スカイセイバー・リーシャ》です。

 「中核をなすカードなのに2枚しか採用しない択があるのか」という声が聞こえてきそうですが、実際に2枚採用構築がそこそこのシェアになっていた時期があります。グラフからも分かるとおり、ちょうど②期の間になります。再三になりますが、②期は蝙蝠Vの増加に特徴づけられる期間です。対蝙蝠Vのこのカードは、

《狂恋の華鎧・ヴィーラ》進化に綺麗に対応できない場面が多い
《黄昏の刃・ナノ》は攻撃力の低さと、蝙蝠Vの除去手段の豊富さで有効に機能しにくい
《トワイライトソード》を打ち込めるほどのロングゲームにはなりにくい

など、持て余し気味になってしまう要素も持ち併せているため、枚数を抑えるという流れが生まれたのではないでしょうか。
 実際に、②期~③期頭頃は3枚採用構築よりもかなり高いアベレージを誇っており、ヒートマップ上での2枚採用構築優位も、ここに起因しているものと思われます。ただし、本格的に聖獅子Bが増加してきた③期中盤以降は母数の減少による振れ幅増大もあるとはいえ、大きく勝率を落としており、「対聖獅子Bでは《スカイセイバー・リーシャ》が要」という一般認識を裏付けるような推移となっています。「直近の環境では3枚としつつも、今後再び蝙蝠Vが増加してきたら1枚削ることも視野に入れておく」という認識が向いているカードなのかもしれません。

6. まとめ

 ここまでで合計13種類、ミッドRで採用が分かれたカードについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。少なくともマクロレベルでは、各採用カードに時期的な向き不向き、ひいては対面デッキの向き不向きがあったことが伝われば幸いです。

グラフや統計分析と私見をもとに本稿で推測した、採用候補カード群と各デッキの相性関係をやっつけで表にまとめてみました。あくまでマクロベースなので、個人の体感とはズレがあるかもしれません。是非そのズレの原因がどこにあるのか、言語化にチャレンジしてみてください。きっと自分なりの環境理解が進むと思います。

ちなみに本稿の内容を踏まえてデッキを組むとこうなります。汚い……。あくまで各カード単体の勝率にフォーカスして組まれているので、実際はシナジーを意識した枚数比など、改善の余地が多数あります。

 こうして振り返ってみると、今シーズン覇権を握っていたミッドレンジロイヤルですが、どのカードにもそのカードならではの長所と短所があり、シーズンを通して本当に高勝率を維持するには、環境の変化を敏感に察知して上手く対応できるカードを採用するなど、たえずデッキ内容を調整し続けることが求められていたように思います。プレイングの難度はもちろん、デッキ調整に至るまで本当に底の知れないデッキで、まだまだ研鑽を積んでいきたいですね。

  以上でミッドレンジロイヤル編は終了となります。次回は聖獅子ビショップ編を予定していますが、今回と違って事前の書き溜めがないので、投稿までに少しお時間をいただくかもしれません。それではまた、次回の記事で。

おまけ

 「2. ミッドレンジロイヤルの全体像と立ち位置」で載せたヒートマップ上に記載があった(=採用数に多少なりとも個人差があった)カードのそれぞれについて、本稿で分析に用いた、採用枚数別の使用数・勝率推移グラフをまとめました。ご自由にお使いください。

スライド形式、全17ページ。ヒートマップ同様、コスト順に並んでいます。

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