ショーロク!! 7月前半ー4
4.女子部屋潜入大作戦
初日は清川、クリちゃんと3人部屋でホテル泊だった。
ベッドが二つある部屋に補助ベッドが置かれていて、本来2人部屋(ツインというのか)に無理やり3人泊まれるように仕立て上げられていた。
フロア全体を貸し切りにしており、男子部屋と女子部屋の境目に教員が泊まる部屋が2つあった。
キシモトは随行の中で唯一の男性だったので、きっと一人で寝ているのだろう。うらやましい。
オレたちはというと、3人で泊まるはずの小さな部屋に大体6~7人集まって、ゲームやらトランプやらをしていた。
まだ携帯ゲームもスマホもない時代である。アナログに楽しむしかなかったのだ。
案の定、すぐに遊ぶのに飽きたオレたちは、イタズラを考え始めた。
部屋の中の設備は大方試してみたのだが・・・
部屋の冷蔵庫は空になっていたし、電話は不通、テレビまで映らないように設定されていた。
個別風呂は一応シャワーが出たので、熱湯風呂をしようという意見も出たが、温泉がすでに熱湯風呂のようなものだったので、賛成票は少なかった。
「とりあえず窓伝いに行けるとこまで行ってみる?」最初に誰が言ったかは分からない。
イタズラに使えそうなものはもはや窓の外しかなかった。
オレたちのいる部屋からだと女子部屋まで行くには最低でも5つ部屋を超えないといけない。ここは3階なので、落ちても死にはしないだろうが、さすがに遠すぎる気がする。
女子部屋から一番近いのは3組の第一グループ、マグロたちがいる部屋だった。
「とりあえず、あいつらの部屋にいこうか」
キタンがそう言ったので、オレたちはぞろぞろと後に続いた。
「な、何だよ!君たち!?」
予想通り、こんな日でもマグロたちは参考書なんて読んでいやがった。キャラがぶれなくて結構なことだ。
面白かったのは、こいつらでさえ3人部屋に似たようなメンバーで6人も集まっていたことだ。他クラスの連中ももれなくメガネだった。
こいつらは普段皆で喋っている様子はないのに、いつの間に仲良くなっていたんだろう。不思議だ。同族相親しむ。小6の、いや人間のおかしな習性である。
「気にすんなって。こっちはこっちで勝手に遊ぶから」
などと言いながらオレたちはジャンケンをして、最初に誰が行くかを決めようとした。
「ちょ!僕たちの部屋で勝手なことをするなよ!」
マグロ以外は基本的にオレたちを無視するのに、こいつはしつこい。近寄ってきて『ジャンケン』の掛け声を聞いたので、反射的にマグロまで右手を出した。グーだった。
「おお!マグロの一人負けや!」ブーヤンが叫んだ。
「な、なに?だから何なんだよ!」
うろたえるマグロにオレたちは自分たちがしようとしたことを説明した。
「な、何たるハレンチな!」
女子部屋に窓伝いに侵入すると教えると、マグロは顔を赤らめた。オレたちはそのワードセンスに失笑した。
ハレンチって・・・ちょっとこうなると、からかいたくなってくる。
「最初に行った奴が部屋から女子のパンツを持ち帰ることになってんねん」と言ってさりげなくウィンク
「そうそう、成功したらヒーローでしばらく王様扱いする予定やってん!」
「マグロならできると思うわ」
「あ~!オレも最初の一人になりたかったなあ!」
口々に話を寄せてきてくれた。
マグロはそれを聞いているうちに、ちょっとずつ気分が高揚してきたようだ。
「そ、そんな大役なら、僕にふさわしいかも知れないねえ」
オレたちは笑いをかみ殺しながら、ひきつる顔でマグロをその気にさせた。
5分と経たぬうちにのせられたマグロは窓の外に出ていた。
こいつ、本当はけっこうアホなんじゃないだろうか・・・
最初の女子部屋までは2つの先生部屋を超えていかないといけない。
頑張れマグロ!落ちてもオレたちは責任取らん!
「危ないと思ったら戻って来いよ!」
外に出たもののへっぴり腰のマグロを見ると、けっこうオレたちは不安になった。
本来ならたいして難しい作業ではないのだ。ぶっちゃけ学校でも似たようなことをしょっちゅうやっていた。
窓の外に何もない学校と違って、こちらのホテルの窓にはしっかりと柵が施されていて、隣の部屋までの柵との距離は1メートルちょっとくらいだった。
ほぼ手すり状態だし、足を入れる柵の隙間も十分だ。落ちる心配は少なかった。むしろ、オレたちが心配していたのは教師部屋を通り過ぎるときに誰かに見つからないかということだった。
センセーたちは廊下に出て2人一組体勢でオレたちの様子をうかがっている。これは事前調査で明らかだ。
引率は3名いたので、残りの一人が巡回だったり、風呂に行ったり、部屋でくつろいだりしているのだろう。
カーテンを閉めてくれていたらいいが、テレビでも見ていたらおそらくアウトだ。
オレたちならどの先生と目が合っても「失礼しやした~」などと言ってやり過ごせるが、一番手はマグロである。
パニクって落っこちないとも限らない。
窓の柵にしがみついたマグロにセンセーたちと目が合っても落ち着くよう伝えたところ。
「だだだだ大丈夫だよ!」
と返ってきた。全然大丈夫そうじゃないし。
オレたちは窓から身を乗り出してマグロの背中を見つめた。
マグロは意外と運動神経がいい方なので、最初こそビビっていたが、いったんコツをつかむと、なかなかのスピードで先生部屋を超えていき、あっという間に女子部屋までたどり着いた。
「おお!あいつ、マジですごいぞ!」
「ちょっと俺、感動したわ!」
などとオレたちは口々に叫んだ。
マグロは女子部屋の窓をコンコンとノックした。
遠目で分からなかったが、カーテンは開いたようだった。その後、あからさまに叫び声が聞こえて、次にカーテンが閉まる音がした。
「よくやった!」
「マグロ!帰って来い!」
オレたちは教師部屋を意識して、小声ながらに大声ぽくという訳の分からない感じでマグロに声を届けようとした。
マグロはしかし、オレたちの意思に反してこちらを振り向きもせずにその次の部屋へと歩を進めていった。
同じように叫ばれてカーテンが閉まる音。そのやり取りが二回ほど続くと、暗がりの中でマグロの姿はもう見えなくなった。
どんどん奥へ進んでいったのだ。自分を入れてくれる女子部屋を求めて・・・ちょっと怖いな。あいつ、何マジになってるんだ。
オレたちはいったん部屋にもどった。
「あいつ、根性あるよな」
「いや、でもそろそろ腕が限界ちゃうか」
「今、3つ目か4つ目の女子部屋やろ」
「誰か入れてあげんと、あいつ落ちよるで・・・」
オレたちは顔を見合わせた。
そして大きくうなずく。
マグロ救出計画発動である!!
「先生!!湯が止まれへん!」
廊下に出てまずクリちゃんが叫んだ。
監視担当はキシモトと1組の担任のエミちゃんこと中山恵美先生だった。
中山先生はまだ20代だ。お尻が大きくて、夏のプールではケツ肉が水着からはみ出す。去年までは面白いと思っていたその姿を今年は早くエロい目で眺めたいと思う自分がいる。夏が待ち遠しい。
話がそれた。
二人の先生はすぐに騙されて、クリちゃんの招いた部屋へ入った。
二人が入ったのを見て、キタン、ブーヤン、テッつんの3人がドアを押さえた。
「むお!お前ら!しょうもないことを!」
中から風呂場で叫んでいるような小さな音量でキシモトの叫び声が響く。クリちゃんも援軍に加わったが、4人で必死に押さえてもきつそうである。何だかんだでキシモトとは言え、大人の男なのだ。
思わずオレも加勢に行こうかと思った。しかし、だ!
「何してんねん横っち!俺たちのことはいいから早く行け!」
と、キタンが叫んだ。おお、何か映画みたい!
キタンがカッコつけたことに触発されたのだろう、他のメンバーも口々に叫んだ。
「ここは任せろ!」
「成功を祈る!」
「・・・うーん、うん!そうそう!」
最後はブーヤンだ。
たぶん、カッコいいセリフが思いつかなかったのだろう。
オレはそのノリをしっかり受けて
「ありがとう!お前らのことは忘れないぜ!」
と言いながら胸を3回たたいて、涙をふく真似をした。
「バカなことしてないで早く行こうよ」
雰囲気をぶち壊す発言をしたのは清川だ。こいつは、まったく・・・
結局、ここから6つ先の部屋が3組の女子部屋なので、直接オレたちが乗り込んで窓を開けさせようということになったのだ。
オレは腐っても学級委員だし、清川は半分女子みたいなもんである。
この二人なら何とか部屋に入れてもらえるだろうという、皆の判断だった。
廊下を走るとあっという間に3組の女子部屋にたどり着いた。
「良子ちゃん!いる~?」
最初に声を出したのは清川だった。あれ?良子って小笠原の名前だよな?何でこいつ、ここに小笠原がいるって知ってるんだ?
いつか投稿がたまったら電子書籍化したいなあ。どなたかにイラストか題字など提供していただけたら、めちゃくちゃ嬉しいな。note始めてよかったって思いたい!!