笑顔のおもいで
かりんちゃんはもうすぐ5才になる女の子です。近所でも評判の笑顔がとっても可愛い子。
そんなかりんちゃんには一つだけ苦手なものがあります。お家の玄関に飾ってある写真です。どんな写真かって言うとね。
今よりずっと小さい頃のかりんちゃんを抱いたひいおばあちゃんを、お父さんやお母さん、ばあばやじいじが取り囲んでいます。ひいおばあちゃんは、病院のベッドでパジャマを着て座っています。みんな泣いているのにかりんちゃんとひいおばあちゃんだけは怒っているように見えるのです。
かりんちゃんが最初にその写真に気がついたのは3歳のときでした。玄関の靴箱の棚に置かれている、その写真のひいおばあちゃんが何だか怖く感じてしまったのです。
あれからかりんちゃんは、その写真をちゃんと見られなくなりました。何度もお母さんに「違う写真に取りかえようよう」というのですが、お母さんは「この写真がいいのよ」と言うだけなのです。
そんなある日、かりんちゃんのお友達がお家に遊びに来ることになりました。大変!あの写真を見られてしまう。
「お母さん、今度こそあの写真を違う写真にかえてよ」かりんちゃんは必死でお願いしました。
お母さんは、ふうっとため息をついて話し始めました。
「かりんちゃんが何でイヤなのか、お母さんには分からないけどね…」
かりんちゃんは、1才になるまでほとんど笑ったことがない赤ちゃんでした。まわりの赤ちゃんが、いないいないばあっ!や、むすんでひらいてを見て楽しそうにしているときも、かりんちゃんはじっと前を見て、何かを悩んでいるような、考えこんでいるような、そんな表情をする子だったのです。
ほかの赤ちゃんが、ばいばいやこんにちはをするようになっても、かりんちゃんはじっと動かずすまし顔をしているだけでした。
家族のだれもが、かりんちゃんを心配していましたが、ひいおばあちゃんだけは「この子はいっぱい頭をはたらかせているのね、えらい子ねえ」といつだってほめてくれました。
かりんちゃんもひいおばあちゃんが大好きで、むっとした顔のまま、よくひざの上によじ登っては、お昼寝をしていたのでした。
そんなある日、ひいおばあちゃんは病気になってしまいました。発見が遅くて、ひいおばあちゃんは明日にでも天国に旅立ってしまうというのです。
家族のみんなは病院のベッドを取り囲んで、悲しみにしずんでいました。ひいおばあちゃんは動くのもしんどそうでした。
「みんな、そんなに悲しい顔をしないでね。わたしは本当に幸せな人生を送らせてもらったよ。最後にこんなに可愛い赤ちゃんにも会えて…」
そう言って、ひいおばあちゃんはかりんちゃんに手を差し伸べました。すると…
「キャッキャ、アハハハ、ウフフ」
これまで、ほとんど笑うことのなかったかりんちゃんが、急に大声で笑いだしたのです。
お父さんはこらえきれなくなって、大声で泣いてしまったそうですが、ひいおばあちゃんは、とても喜んでくれて、最後の力を振り絞って、かりんちゃんを抱きかかえました。
「ほら、かりんちゃんはまっすぐに私の言葉を受け止めてくれたよ。ほんとにこの子は賢い子だよ」
「そのときの写真なのよ」お母さんは思い出して、少し涙を流しながら言いました。
「じゃあ、何でかりんは怒った顔なの?」
「怒った顔?」お母さんは不思議そうに写真を手に取って、かりんちゃんに渡しました。
「あれ?笑ってる…」
写真には、笑っているひいおばあちゃんとかりんちゃんがしっかり写っていました。
「たぶん、小さいころに見上げてしまったのがいけなかったのね」
ちゃんと目線の高さで見ると、二人だけが同じような笑顔でこちらを見つめていました。
「こうして見ると、かりんとひいばあちゃん、怒ってるみたいだ」
写真の角度を変えながらかりんちゃんが楽しそうに笑い出しました。
実は、このやり取りを、天国のひいおばあちゃんが見ていました。「ふふ、やっとあの写真気に入ってくれたのね」と嬉しそうです。
でも、ひいおばあちゃんには、誰にも言ってない秘密がありました。
あの日、みんなが病室から出ていくとき、最後に出ていくお父さんに抱きかかえられたかりんちゃんが、ひいおばあちゃんにとっても可愛い笑顔で手を振って、ばいばいをしてくれたのです。生まれて初めてのばいばいを。
あの笑顔とばいばいは、私だけの宝物。
ひいおばあちゃんは今日もかりんちゃんがたくさん笑顔になれるよう、天国から優しく見守ってくれているようです。
いつか投稿がたまったら電子書籍化したいなあ。どなたかにイラストか題字など提供していただけたら、めちゃくちゃ嬉しいな。note始めてよかったって思いたい!!