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ショーロク!! 5月ー3

3.遠足の班はおおむね勝手に決められてしまう

 ゴールデンウィークが終わると、新年度初の席替えが行われた。

 その結果、オレの座席の前には小笠原がいた。そして隣にはなぜか清川がいた。なぜか、という部分は説明した方がいいだろう。

 ふつう、オレたちの小学校では2人ずつ男女ペアで机を並べて座る。
 小笠原の横には第1グループのマグロと呼ばれている黒丸(くろまる)恵一(けいいち)という痩せメガネ君が座っていた。

 こいつは女子のことを「~くん」づけで呼ぶ。出木杉リスペクトなのか、気色悪い。
 小笠原もまんざらではないように笑うものだから余計にたちが悪い。
 ちなみににマグロというあだ名の由来は苗字に黒という字が含まれているからという単純なものだ。黒マグロのナントカという居酒屋のメニューを見た誰かが適当につけたところ広まってしまったようだ。

 こんな感じで男女ペアになるはずなのに、オレのとなりだけ清川がいる。なんでだ。

 まあ、理由ははっきりしている。

 最初の席替えのときに「何か特別な希望ないか」と、転校生の清川を慮ってキシモトが聞いたせいだ。もしくはいい先生ぶりたかっただけかも知れない。
 清川は、まだ慣れてないので横山君の近くがいいです。などとぬかしたのだ。で、こんな感じになっている。

 あのカミングアウト事件以来オレはなぜか清川に気に入られ、何かと面倒を見てやるようになっていた。

 実際、関東出身(群馬というホンマに日本にあるんか?といいたくなるような県から来たらしいが・・・)の清川はオレたちの話に、訂正という名の突っ込みを入れてくれる。もちろん、本人に突っ込みの意識はないのだが・・・

 これがオレにとってはカルチャーショックだった。突っ込みは声を張ってナンボと思っていたので、冷めた突っ込みもまた味があるのだと気付かせてもらい、個人的に感謝していた。

 さらに清川の発言のタイミングの悪さがなかなかのツボになっている。一般的には関東のつまらん奴、でもオカマ。という認識をされてるが、オレとテッつんだけは清川の面白さを認め、自分の血として取り入れようとしていた。
 だから、別に清川が隣の席でも問題はなかったのだが・・・

 「春の遠足の班は4人一組でええよな、じゃあ今の座席を向き合わせて!」
 と、キシモトが高らかに宣言したときは思わず「おいおい!」と突っ込んでしまった。

 「好きなもん同士にしてえや」
 などとブーヤンなどが食い下がったが「クラスみんなが好きなもん同士になればいいやん」などとキシモトがいかにも教師が好きそうなフレーズをニコニコしながら言うもんだから、「ダメだこりゃ」とみんなが渋々納得した。

 ナカショーでは遠足のおやつを班ごとに買いに行くという暗黙の了解がある。
 別に学校が決めているわけではないのだが、小学校1年からそんなもんだと刷り込まれてきたので、誰もそこに関して疑問は持っていなかった。

 遠足に向けての班会議。
 という訳の分からない時間中、小笠原を中心に話が進んだ。

 「じゃあ、明日の3時にスーパーマルモト前に集合ね」
 小笠原は女子が一人だというのに全然気にしている様子はない。
 いや、清川とキャッキャウフフとはしゃいでいる様子を見ると女子が二人に見えてしまう。マグロは30秒に一回眼鏡をずり上げながら小学生のくせに英語の単語帳なんかを眺めていやがる。

 周りを見渡すと、キタンはバーゴンと、ブーヤンはクリちゃんと同じ班だったりするので、何だが自分がみじめに思えてきた。

 「はーあ」

 とため息をつくオレを尻目に背の高い女子と声の高いオカマは光GENJIの新曲の話で盛り上がっていた。
 Starlightってどういう意味かなあ。と小笠原が言うと「星の光という意味だよ」と、マグロがドヤ顔で眼鏡を光らせた。

 ホント
 「は~~あ」である。


4.ああ無情

 「何で遠足の班が座席で決まんねん!」

 と、帰り道に声を荒げたのは、オレではなくてテッつんである。

 テッつんの班は5人班だったが、奴以外は全員女子だった。

 しかも女子グループの中でも『男子大嫌いグループ』が3人含まれている、それはもう考えただけで地獄のような班だったのだ。
 テッつんの悲劇を思うと、オレはまだマシな気がしてあまり憤慨できなかった。

 「あいつら、一緒にお菓子買いに行ったるから荷物全部持ってや!とか言いよんねん!しばいたろかーっ!」
 とテッつんは誰にも当たることのできない怒りを虚空にぶちまけ、ぶんぶんと腕を振り回していた。

 「まあまあ、そんなときはゲームでもして気を紛らわそう」
 と言ったのはクリちゃんだった。

 何を隠そう、クリちゃんのドラクエⅡがいよいよ佳境に差し掛かっていたのだ。

 今日は、オレ、テッつん、キタン、清川の4人で学校帰りにクリちゃんの家に立ち寄って、ドラクエⅡのラストを見守るという大イベントがあるのだった。

 「そういえば、ラスボスの名前『ハーゴン』っていうよな」とキタンが言った。
 「どう考えても『バーゴン』の真似やんな」とテッつん。いや、逆やろ。

 清川はちょっと後ろからニコニコしてついてきている。
 「誰かがやってるファミコンを一緒に見るって発想、前の学校ではなかったなあ」
 などと言っている。そんなもんかね。

 オレたちは少ない小遣いを最大限に利用するため、何人かで集まってファミコンのソフトの購入を分担する。
 例えばドラクエ系列はクリちゃんの担当。ファイナルファンタジーはサトチンが揃えようとしている。最近いいゲームがめっきり減ってしまったディスクシステムはオレ、スポーツ系統はテッつん、などなど。分担の大枠は決まっているのだ。

 そして、クリア系のゲームをやっているものは、クリアが近づくと仲間に知らせないといけない決まりになっている(誰が作ったわけでもないが)。
 ウチのクラスでいくとヤマンがこの決まりをやぶって、夜にドラクエⅡを一人でクリアしてしまい、ケンカが強いのにオレたちから3日間総すかんを食らうという事例が起こったりしていた。

 クリちゃんはそんなミスを犯さず、自分のドラクエⅡの進度をほぼ毎日報告し続けてくれていたのだ。

 「こんな大勢でゲームのエンディングを見るのって初めてだから楽しみだよ」
 と、清川がはしゃいでいるうちにオレたちはクリちゃんの家に着いてしまった。

 「お邪魔しまーす」
 と言ったのは清川だけで、他のメンバーは勝手に台所までずんずん進んで飲み物だのお菓子だのを物色し始めた。

 クリちゃんは鍵っ子で、家に親がいるのを見たためしがないので、オレたちからすれば当然の行為だった。
 清川はそれにも驚いていたが、クリちゃん宅の飲食物の品ぞろえの豊富さにも驚いた様子だった。
 実際、クリちゃんの家庭はそこそこ裕福だったのではないだろうか。

 詳しく知っているものは誰もいなかったが、両親ともにパチプロという噂もあって、クリちゃんは小学生にしては破格の1ヶ月1万円というお小遣いをもらっていたのだ。
 おまけに歳の離れた姉ちゃんがいて、この人がまた夜に仕事に行って大金を稼ぐという噂で、クリちゃんはときどきお使いに行くだけで1000円単位でお駄賃をもらえるというのだった。

 それで、台所には大量の駄菓子、遊び部屋には大量のゲームがあったわけだ。
 子供としては理想的な暮らしである。

 まあ、その代わりに晩御飯が出てこない日もざらにあったらしいが。
 とはいえ、お菓子が大量にあるのだからプラマイゼロだと言えるだろう。

 そんなクリちゃんの家に集結したオレたちは・・・

 ただいま、ドラクエⅡの画面を前に固まっていた。

 全員が言葉を失う中、ポテチを食べるサクサクという音と、クリちゃんの叫び声だけがやかましかった。

 「あれ?あれ?」

 半べそ状態でクリちゃんがコントローラーを動かす。
 キタンがかじるせんべいの音が間抜けに響いて悲壮感が和らいでしまう。
 が、クリちゃんの表情を見ると、これは異常事態だと誰もが感じていた。

 「嘘やろ、嘘やろ!」
 クリちゃんはついに泣き出してしまった。
 無理もない・・・

 クリちゃんが控えていたはずの『ふっかつのじゅもん』・・・

 どうやら控え間違いがあったらしい。
 おまけに、この様子だと、クリちゃんはそれ以前の『ふっかつのじゅもん』を持っていないように思われた。

 約4カ月の冒険が水の泡・・・
 呪文がない以上、また一から始めないといけないのだ。

 さすがの俺たちもこれだけはいじってやれない。

 たぶん、今クリちゃんはオレたちでは慰めきれないほどの絶望を感じているのだから。

 えんじ色のコントローラーを握りしめ、茫然自失としたクリちゃんの肩をたたいて、オレたちは一人、また一人とクリちゃんの家を後にした。台所のおやつを一人2~3袋ずつ抱えながら・・・

 清川だけは最後までクリちゃんのそばで泣きじゃくるクリちゃんの肩を抱いてあげていたそうな・・・

(若い世代の人たちへ補足-そんな読者いないかも知れんが)
当時のファミコンゲームはセーブ機能がなくて、パスワードを控えないと続きができなかったんですよ。さらにそのパスワード、50文字近いものになったり、めちゃくちゃ長かったんです。おまけに「ね」と「ぬ」が見にくかったり(解像度が今とは段違いに低い!)正しく書き写すのも大変なうえに、一文字でも違うと、もうそのメモはただの紙切れ、いやそれ以下のものになってしまったんですねえ。クリちゃんの悲劇、伝わりましたかねえ?横っちのディスクシステムとは『カセットの4倍の容量!』と大々的に宣伝され、登場したのに、わずか数か月でカセット型のソフトに簡単に容量で負けてしまって、けっこう早めにすたれてしまった、任天堂の失策ともいわれているハードですね。良作ゲーム多いですけどね。どうでもいいか。
(以上、補足終わり)

 さて、明日は遠足のおやつの買い出しである。


5.ヤツらは本当のおやつを知らない!

 買い出しの日は朝から雨が降っていて、ますますオレの気分は憂鬱になった。

 ばあちゃんから300円をもらって、待ち合わせの場所まで行くと、あとの3人はもう来ていた。
 清川は虹色の傘を持っていて、マグロはカッパを着ていた。
 小笠原は自転車置き場の軒下で雨宿りをしている。ふだんのスカートではなく、男子が履くような短い半ズボン姿だった。あらためてこいつは足が長い。うらやましい。

 「あんた、5分遅刻やで」
 と小笠原に言われた。へいへいと適当に返事をして先頭で中に入る。
 そういえば、いつの間にか小笠原から『あんた』呼ばわりされるようになってしまった。

 女子が男子を呼ぶときの普通の呼称なわけだが、何だかこいつの『あんた』は他の女子とは違って聞こえる、イントネーションなのか声質なのか分からないが、それがオレにはどうにもくすぐったかった。

 とはいえ「あんたって呼ぶなや!」などとは言えない。「じゃあ、どう呼んだらええんよ!」と返されると「ぐう・・・」というしかなくなるのは自分でよく分かっているからだ。
 などと考えていたせいで・・・

 「横っち、早くお菓子買いに行こうよ」
 と、清川に言われてしまった。どうやら考え事をしていたせいで、無意識に入り口付近にあった『玉ねぎ3個98円』を凝視していたようだ。

 「横山君は玉ねぎをおやつにする人なのかな」
 などとマグロに言われ、おまけに「くふ、くふふ」と笑われた。面白くもなければ笑い方も気に入らない。
 やばい、こいつどつきそう・・・

 と思ったので、無視をしてまたまた先頭でずんずんとお菓子売り場へ歩いて行った。

 遠足のお菓子の定番と言えば、口の中が真っ赤になる変な飴玉や、のばして遊べる変な味の棒菓子などだ。とにかくいかにヘンテコなお菓子を買っていくかが最重要事項である。
 それなのに・・・だ。

 オレたちの買い物かごに入れられたお菓子は
 『おにぎりせんべい』
 『ぼんち揚げ』
 『酢こんぶ』
 いや、町内会のジジババか~い!

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
 さすがにオレは声を荒げた。

 3人が「ん?」といった表情でこっちを振り返った。
 何と小笠原の手には『柿の種』が握られている。恐ろしい、こいつは魔女か。

 「お前ら、本気でこんなお菓子選んでるんちゃうやんな?」

 オレは3人が『当たり前やーん』と言って、前述のジジ臭いお菓子を棚に戻して『ねるねるねーるね』あたりを代わりに入れてくれることを期待しながら聞いてみた。

 しかし、現実は厳しかった。

 「え?本気ってどういうこと?」
 と小笠原は質問の趣旨すら分からないといった感じで、躊躇なく買い物かごに『柿の種』をぶち込んだ。
 「お前はスナックの常連さんかあっ!」
 と、オレはもう我慢できずに突っ込みながら、入れられたばかりの『柿の種』を取り上げて棚に戻した。

 「あ、ごめん。辛いの苦手なん?」
 と、小笠原はオレの怒りの本質を理解せずに言う。

 オレはさらに激昂した。

 「違う、違う。なんでこんなしょうもないお菓子ばっかり買うねんってこっちゃ!」
 「しょうもないってつまらないってこと?」と清川。
 「そうや。遊ばれへんようなお菓子ばっかりやん、もっとこう音が鳴ったり、投げ合えたり、舌がバチバチして味覚がマヒしたり・・・」
 と、オレが力説しているところで小笠原が冷静に割って入った。

 「あんた・・・思ってた以上に子供やってんなあ」

 ・・・・・・(´゚д゚`)
 ・・・絶句!

 そして、ムキー!!
 本当にムキー!!である。

 怒りのあまり声も出なかったが、オレの頭には数百の『ムキー!』が飛び交っていた。

 さらに追い打ちをかけてくれたのがマグロだ。
 「小笠原君、それは皆思っていても口に出さないことではないのだろうか」

 ムキョー!!
 もうだめだ。脳内はもはや数万の『ムキョー!』に侵されてしまった。

 そしてオレの脳みそはオーバーワークから機能ストップしてしまった。
 普通なら、この後手を出してケンカになってスッキリ。というパターンだが、相手が悪すぎた。

 大柄の女子、気弱なオカマ、未知なるメガネ
 あかん、こいつら無敵や。ケンカすらしかけられへん。
 オレの脳みそはなけなしの余力でその結論だけを導き出した。
 You Lose !

 こうなるとオレはもうアホみたいに笑いながら奴らの後ろをついていくしかなかった。

 そんなオレを見て清川は
 「よかった、横っちもご機嫌だね」などと笑っていた。返す言葉もあらしまへん。

 かくして、オレの貴重な300円はジジババが好んで食べるようなお菓子たちへと姿を変えてしまったのだった・・・

 何やねん『雪の宿』って・・・

いつか投稿がたまったら電子書籍化したいなあ。どなたかにイラストか題字など提供していただけたら、めちゃくちゃ嬉しいな。note始めてよかったって思いたい!!