ショーロク!! 7月前半ー10
中断その1
キシモトがオレたち男子を全員並べて、お堂に正座させた。
ひとしきり怒鳴ったあと、ささどうぞ。とでも言うように寺の坊主にコメントを求めた。
「皆さんのお年頃は静かにしろと言われてもなかなか静かにはなりませんよね…」
という優しい言葉から入ったくせに、後半は結構嫌味なことをネチネチ言うスタイルの説教だった。
オレでするガチで寝そうになったし、実際何人かは眠りに落ちてしまった。悔しい、これを狙っていたんじゃないか。
キシモトが
「もう寝てる奴もおるんやから、起こさんように!皆も遊ばんと寝ること!」
と捨て台詞のように叫んで、坊さんたちを引き連れて消えていった・・・
Bブロック再開
キシモトたちの気配が完全に消えるまでオレたちは息をひそめてじっとしていた。
どこで騒ぎ出すか…タイミングを間違えると「もうこの辺でやめて寝ようぜ」などと日和ってしまう奴が出かねない。
オレは賭けに出ることにした。
「おっりゃああ!!」
という掛け声とともに、1組の柔道キング(リングネーム)こと岡田健司に渾身のドロップキックを放ったのだ。
「おおっと!!カール・コッチ、このタイミングでまさかの奇襲攻撃だ!」
と、実況役のテッつんが即座にこれに呼応してくれた。
おかげで、全員のボルテージは一気に元に戻って、トーナメントは無事継続となった。
たまたま次の試合がオレ、カール・コッチと柔道キングの1戦だったのもよかった。
我ながら綺麗なドロップキックを決められた。もうこれで十分満足だ。
あとは柔道キングこと岡田にやられて負けようと思っていたのだが、岡田はもともとプロレスごっこに不慣れなのか、組みついてくるだけで攻撃らしい攻撃をしてこない。
仕方ないので、耳元で「柔道の投げ技やってくれていいで」とささやいてみた。
すると岡田は一本背負いを仕掛けてきた。不意のことだったので、オレは反射的に一回転して立ってしまった。
しまった、やられるつもりが盛り上がるムーブになってしまった。天性の身軽さが悔やまれる。
案の定、客は(同級生)盛り上がってしまい、大コッチコールである。
こうなっては仕方ないので、オレは試合を決めることにした。
岡田の腕を自分の首と肩で極めて逆に捩じるというオレのオリジナルホールド、腕殺しでギブアップを奪ったのだった。
「勝ったのはカール・コッチ!奇襲からの流れが功を奏したかーっ!」
とテッつんがいい感じにまとめてくれたので、まあ良しとしよう。
次の試合は
吉田(というリングネームの吉本薫という2組のモブ)VS10代目タイガーマスク。
10代目タイガーマスクは1組の三沢真也(みさわしんや)という奴で、空手と体操を習っている逸材だった。
オレは同じクラスになったことはなかったが、けっこうプロレス好きという噂だった。
10代目タイガーというネーミングも悪くないと思った。実際、前年に全日本プロレスですでに2代目タイガーがデビューしていたので、個人的にちゃんとわかってる奴がつけるリングネームだと感じた。
試合も面白かった。以下、テッつんの実況。
「さあ、10代目タイガー、軽やかにステップを踏みながら吉田の周囲をくるくる回ります」
「吉田がイライラしていますね」
「おおっと、ここでローリングソバットだ!」
「きれいに決まりましたよ」
「さらに吉田の胸を利用してのサマーソルトキック!!」
「すごい!さすが三沢っち!!じゃない、タイガー!!」
「体操の下地が生きてますね」
「さらに10代目タイガー、吉田のバックに回った!!」
「これはまさか!!」
「おおっと!綺麗なブリッジだ!ジャーマンスープレックス!!」
注)もちろん、ブリッジで人をへそで投げる本家のジャーマンはできるわけがないため、
1,10代目タイガーが一人でブリッジ
2,吉田が肩をつけてジャーマンの体制を作る
3,レフェリー役が二人を押さえつけて形を整える
カウントは全員で大合唱だった。ワン、ツー、スリ―!!
「10代目タイガーマスク、完全勝利です」
「次の試合はカールコッチとですね、二人のテクニック勝負、期待したいですね」
と、解説のナベやんが嬉しいことを言ってくれる。
オレもまた楽しみになってきた。
過去に手合わせしたことはないが、こいつとならいいプロレスごっこができる!
そんな気がしていたのだ。
・・・長いな、7月前半!!