ショーロク!! 7月前半ー7
物事には何でもルールがあるのだよ。
とにかくトーナメント表を作るのが大変だった。
みんな、口々に適当なリングネームをつけて参加表明をするので、最終的に誰が誰なのか、コールをされないと分からないという状況になった。
参加総数36名。決勝に行くまでに4~5回戦という一大イベントだった。
「ちょっと待てぇ!多すぎるやろ!」
最初にツッコんだのはオレではなく、テッつんだった。
確かにこれを一試合ずつやっていたら、それだけで夜が終わる。ていうか、確実にキシモトの見回りでアウトになる。
全員でやいやい言い合っているうちに、とりあえずベスト16位まではリング外で勝手にやって勝敗を決めて、各自でトーナメント表に書き入れようということになった。
で、あちらこちらで大乱闘が始まるわけだが、闇雲に暴れてケンカのようになるわけではなかった。オレたちにもちゃんと暗黙のルールがあったのだ。
まず、あくまでもプロレスごっごなので、ケンカの強さで相手を制圧してはいけないという不文律があった。
過程を大事にしたり、アピールの上手さをお互い判断しあったりして、ああ、これは負けたな。という頃合いで上手に負けるのもプロレスごっこの美学だった。
たまにルール無視して「やんのか、コラァ!」とガチ切れモードになる奴がいる。その場合は大勢から制止されて反則負けとなるのが普通だった。
当時はまだ存在が認知されていなかったが、一人総合格闘技、一人バーリトゥーダーもいるにはいたのだ。
だいたいこういう奴はシャレが通じないので、今回も何となく仲間外れっぽくなってしまっていた。当人たちも茶番に付き合えるか、という気持ちだったのかも知れない、知らんけど。
まあ、そんなわけで先生や寺の坊主から目をつけられない程度の過激さを保ちつつ、オレたちはリング外(つまり普通の畳の上)で各自熱戦を繰り広げた。
オレは適当に負けて、実況の方にまわろうと思っていたが、初戦では相手になった他クラスの男子が、人生初のプロレスごっこということで、先に進ませるには荷が重いかと思い、色々てほどきをしつつ3分程度で勝たせてもらった。
2回戦の相手は、「キラーとんでんかんでん」奴だった。
・・・うん、ブーやんだ。
キラートーアカマタ(というレスラーがいたのです)に顔が似てるということでサトちんあたりが名付けたリングネームなんだろう。
悪くない名前だったので、負けてもいいかと思っていたのだが、なぜかオレは大人げなく必殺の腕殺しを極めてギブアップを奪った。
そう、強い打撃はご法度だが、関節技はときどきちゃんと極めていいという暗黙の了解もあったのだ。なので、急な関節技でギブを奪うというのが、決着がつかない時のごっこ遊びの際の決まり手の定石だった。
適当に痛めつけて反撃をさせてやろうと思っていたのだが、痛がるブーやんの顔が面白くて、ついやりすぎてしまった。
あっさり、とんでんかんでん(ことブーやん)がタップしたので、オレも引くに引けなくなってしまったのだ。
ということで、2回戦勝ち抜いてしまったオレは、不覚にもベスト16に残ることになったのだった。
「さあ!ついに選ばれし16人の戦士たちが出そろった!選手入場!!」
新日本プロレスのリングアナウンサー、ケロちゃんの真似をしてキタンがリング中央で叫んだ。
オレも俄然、気持ちが昂ってきた。残った16人を見渡してみると・・・