ショーロク!!6月前半ー1
6月前半
エロ伝道師は必ず学年に一人いるし悪戯は天井知らずな件
1.僕のお父さん(オレの親父)
信じられないことが起こった。
玄関に親父が無造作に置いてある小紫の花が満開になった、6月のとある日曜日の話だ。
「卓也!これ、お前のトモダチがやったんやろ!連れてこい!」
と、オレは腹を思い切り親父に蹴飛ばされ、強制的に目覚めさせられた。何て朝だ。
あ、もう11時か。
ウチの家は父子家庭で時間にはルーズだった。
どれ位ルーズだったかを説明するとこうだ。
親父は作曲家だったのでほぼ家にいるし、あまり仕事らしい仕事をしているのを見たことがない。
朝から晩までぐうたらとテレビを見て過ごし、時々気が向いたときにオレのために親子丼などを作ってくれたりする。
家は2階建てで、それぞれの階に風呂とトイレがついていた。
オレは1階(ちなみに婆ちゃんも一階にいる)、親父は2階で1日中過ごすのが常で、同じ家にいるのに顔を合わさない日もあったりした。
この家で暮らすようになったのは小学4年生からで、それまではオレは近くに住んでいたばあちゃんのアパートで暮らしていた。
4年生のときにオレの本当の家、つまり親父の家がリフォームされて、婆ちゃんともどもこちらに引っ越して来たのだ。
親父とオレは一緒にいてもあまり話すこともなく、先述の通り各階が独立した作りなので、それぞれがバラバラに暮らしているようなものだった。
そんなわけで、オレは土曜日になるとすぐに夜型人間に変身し、明け方まで起きて、午前中を寝て過ごし、昼過ぎから起き出して友達と遊ぶという、皆からうらやましがられまくる、小学生としては規格外の生活を送っていたのだ。
昨晩も確か寝たのは朝の4時頃だったと思う。
親父の仕事の都合で幼稚園に入る前から、スナックだのクラブだのに連れて行かれることが多かったので、夜になると自然と目が冴えてしまうのだ。
こんな体になったのは親父の責任でもあったので、少しは引け目を感じていたのだろうか、生活リズムのことで親父がオレに注意することは1度もなかった。
そもそも親父自身に常識的な時間の概念が欠如していたのかも知れない。
こう言うと何だか放任主義のお気楽家族のようだが、オレの親父が何にでも甘いわけではない。
怒りだすと暴れゴリラのようになるので手に負えない。
たぶん、ナカショー怖い親父ランキングでもベスト3に入るレベルだと思う。
おまけに怒りだすスイッチがどう考えても人と違うので、オレとしてはなかなか対策をたてられず苦労していた。
例をあげてみよう。
(オレの親父ゴリラ化事例)
小学校3年位の頃、ある友達が遊びに来たときオレは歯磨きをしていた。
確か土曜日の昼のことで、そいつはオレの親父の前で「昼やのに歯磨きするん?」と呑気に聞いてきた。
親父は「そうやで、こいつ学校でも歯磨きしてるやろ」とオレを指さして言った。
オレは当時、歯磨きを親父から徹底されていて、ランドセルにも歯磨きセットを入れられており、給食後も昼休みに磨くよう強く言われていたのだ。
もちろん、遊ぶ時間が1分でも惜しい昼休み、おまけに男がちんたら歯磨きなんかしてられるかという理由で、オレは一度も学校で歯を磨いたことはなかった。
その友達はこともあろうに親父の前で「横っち、一回も磨いたことないやん」と、笑いながら事実を伝えたのだ。
まずいなあ。と思うのとほぼ同時に親父の鉄拳(平手だが、ボクシング経験者のため破壊力は尋常ではなかった)が飛んできて、オレは壁際までぶっ飛んだ。
頬がやけに熱いのでおかしいなと思うと、奥歯が2本折れていた。
まあ、両方乳歯だったので問題なかったけど、歯磨きをしてないという理由で歯を折られたというのは何とも切ない話である。
その友達はあまりの衝撃に泣き出して帰ってしまい、二度とオレの家に遊びに来ることはなかった。
とまあ、ときどきイレギュラーな体罰があり、その質はなかなかエグイものの、基本的にはオレのことを放っておいてくれるありがたい父親なのだ。
なので、親父が寝ているオレを無理やり起こすというのは、あばれゴリラ状態になっているときだと容易に理解できるわけだ。
いったい何事だ?オレの寝ている間に何が起こったというのだ。
寝ぼけた頭のまま、反射的にこめかみをガードしつつ、半身になって亀のように背中を丸めながら膝立ちになって、親父の次の攻撃に備えた。
「うん、ガードはまあまあや。もっと左の肩を顎まで引き付けてガードごしに相手を見るんや・・・」
と、親父が急にトーンを変えてオレのガードを指導し始めた。
元アマチュアボクサーで数年前まであるプロ選手のトレーナーもしていた親父は、オレにもときどきボクシングの技術を教え込もうとするのだ。
この時間はそこそこ楽しかったりもするが・・・
今はそんなことより何でオレがたたき起こされたのかが問題だ。
「いや、お父さん。そんなことより・・・」
と、オレが言ったので親父は『そうだった!』とまたアシュラマン怒りの表情に戻って叫んだ。我が親ながら忙しい。
ちなみにオレは親父のことを面と向かっては『お父さん』としか呼べない。理由は簡単、怖いからだ。ちなみに親父の前では自分のことを『ボク』という、これも理由は単に怖いからだ。
怖いからしていることと言えば、日々の些細な出来事の報告だ。
ほとんどバラバラに暮らしているくせに、オレは生活で行う様々なことを1階から2階へいちいち報告する義務があった。
「お父さん、お風呂入るわ」「お父さん、宿題終わったわ」「お父さん、遊びに行ってきます」などなど・・・
友達が来ているときはこれが地獄の時間で・・・
本来ならカッコをつけて「親父!遊んでくるわ!」などと言いたいのだが、それは怖いのでできない。
子供らしい声を作って「お父さん、~君の家に遊びに行ってきます!」と言わないといけないのだ。
サトチン以外にはなるべくこの醜態を見せたくないので、オレはあまり友達を家に呼ばないようにしていた。
さて親父は相変わらずゴリラモードである。
何に対して怒っているのかというと。
「お前の友達がウチの鍵、壊しよったぞ!」
親父の怒声が響いた。が、オレは首を傾げるしかなかった。
鍵?壊す?
・・・何のこっちゃ?