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推し活文化の到来での変化で旧来のアプローチが通用しなくなった

2011年に「幕下相撲の知られざる世界」をスポーツナビブログで始めて13年が経過しました。


当時はブログ全盛期の後半戦くらいのタイミングだったということもあり、個人の発信といえば芸能人もブログというのが一般的だったように思います。


SNSでも文章を読むというカルチャーがあり、2000年代中盤からmixi、2010年代になるとFacebookで各々が発信したいことを文章化していたように思います。


私のブログもそんな時代的な背景に乗っかる形で多くの方にお読みいただき、4年後には幸運なことに仕事をいただくことになり、そこから「相撲ライター」「スポーツライター」という肩書を名乗るようになったわけです。


スポーツナビブログはスポーツナビのトップページや競技のサイトと連動していることもあり、スポーツの情報を見ようとした一般の方がアマチュアのブログにアクセスできるという仕様になっており、1つの記事のビューが少なくても数千、バズると10万を超えるという怪物的なものでした。


仕様もさることながら、記事を読むということそのものに需要があった時代だったんですよ。


ですから、私以外にもスポーツナビブログ出身でプロとして羽ばたいた方を私は何人か知っていますし、今でも活動されているようです。


時は流れて2015年前後からブログが下火になりました。

情報を収集に文字を追わなくなったのです。


この辺りから動画文化が定着し始め、「Youtuber」という言葉が世間に浸透し始めます。


また同時期に「インフルエンサー」という言葉も出てきて、ちょうどこの言葉がタイトルとして用いられた曲がヒットしたのが2017年のことだったのです。


つまり、ブログやFacebookからYoutube、Instagramに移行したということです。


私自身この頃から個人ブログはあまり読まなくなったようにも感じています。スポーツナビブログの仕様の性格上私個人としてはあまりPV数が落ちなかったのですが、こうした時代の変化を受けて既に数年検討していたようで、スポーツナビブログは2018年1月にサービス終了しました。


ただ、私個人としてはあまり痛くなかったんです。

ライターとして右肩上がりの時期だったからです。


先ほども出てきたようにPV数は変わらなかったですし、SNSでメディア出演を報告し、Numberなどの有名媒体での寄稿を報告するたびに注目度は上がっていきました。


また、LINEのオープンチャットのようなコミュニティを構築するタイミングにも恵まれ、結果的にコアファンの方達を囲い込むことにも成功しました。


加えて2017年からは年に数回トークライブを行っていましたので、ブログ時代からのコアファンの方たちを引き継ぐことにも成功したのです。


ということで、発信の変化というのは私自身の変化によって影響を最小限に抑えるどころかむしろ注目度が増したんです。


まぁ考えてみると、ブログの影響力が落ちたとはいえそれでもまだ皆さん読んでくださっていた時期ではあったんですよね。


あと、お金をいただいて記事を書くようになったということも踏まえて無料記事は2018年以降それほど書かなくはなりました。


ただ、コロナを通じて世の中が大きく変化しました。

動画とSNSが加速したのがこの頃でした。


もうブログというのはオールドメディアと言っても差し支えないものになりました。もはや読んでくれるのは少数派という状況です。


ブログどころかニュース記事すらPVが落ちていますので、「読む」ということそのものが避けられていると言えます。


文字を読んでくれない。

私にとってはかなりの痛手です。


コロナの影響で交流は途絶え、コアファンの方たちとの接点はオンラインのみになりましたが、オープンチャットはファンの皆さん同士で自治が出来てきていたこともあり、様々な事情を考慮して私は去りました。


コアファンとの交流が絶たれるというのは苦しいことではありますが、コミュニティは自分のためだけに存在するものではないので、これは致し方ないことだったように思います。


同時に私は2021年に初めての著書を、そして2023年には2冊目を手掛けたということもあり、活動がますます内向きになっていきました。


Clubhouseや一時期行っていたYoutubeでの発信などもあり新しいファンの獲得にも成功しましたが、トータルで見ると私自身の注目度が落ちつつあったように思います。


世の中の変化と私自身の変化によって難しい時期を迎えるようになったと感じていたのも事実です。


更に追い打ちをかけるような事態が発生します。

それが、「推し活」文化です。


端的に言うと、分析系の記事の需要が極端に低下しました。


「推し活」というのは力士を愛でることを意味しており、好きな力士や部屋を楽しむような見方なんですよね。


例えば出待ちをしたり、サインを貰ったり、写真を一緒に撮ったり。


過去に私は相撲ファンが大きく分けて3通り居るという話をしました。力士を愛でるファン、相撲を斜めから見るファン、そして分析をするファンです。


昔から愛でるタイプのファンは多く、故に後援会や千秋楽パーティといった場には大きな需要がありました。それは相撲界の良い文化で、距離の近さによってファンを引き寄せることは大きな魅力と言えました。


コロナが明けてから力士とファンとの交流が復活し、「推し活」文化が一気に広がるようになりました。


SNSを見ればもう、推し活だらけです。


力士と自分(スタンプで隠しているのですが)の写真がこれでもかというくらい並びます。


推し活の流れを大相撲もプラスとして受け止め、発信もそちらにシフトしてきていますし、実際にその効果もあってかチケットの売り上げは過去最高クラス、そして場所が終われば番付発表までは絶えず巡業が続くという状況になりました。


推し活の普及により、発信に対する嗜好は「力士を愛でる」ことに特化したものになりつつあります。


つまり、力士の内面を知るためのインタビューなどがウケるということです。


ここで大事なのは、力士がどんな技術で相手を倒そうとしているか?などといったスポーツ的な深堀りをするものがそこまで求められている訳ではないのです。


「推し活」のファンの方たちはファンを愛でたいことが根底にあるので、考察をするということが避けられている、というか、ハナから眼中にないように感じています。


彼らの思考はハッキリしていて、推しをガッツリ肯定するか、好きでは無い力士をバッサリと否定する。そして、ケガをしたり判定に不満があったらそれを代弁するような記事が好意的に受け止められるのです。


本来物事というのは是々非々ではありますが、そういうグラデーションというのは刺さりにくいし、彼らの嗜好としては多面的に考えるのがまどろっこしいので、是か非か。白か黒か。そういうトーンで書き分けることが大事になってきているように思います。


宝塚ファンの妻と最近の相撲ファンの変化について話をしたところ、どうやら宝塚は元からそういうものであるようなのです。


考えてみると「推し活」というのはアイドル文化をスポーツなどにもそのまま持ち込んだようなものですから、愛でる方向に特化しているという意味で同じなんですよね。


「推し活」というのはつまり、アイドル化なんですよ。


今まで私は相撲を深堀りするということでライターとしてもブロガーとしても存在感を出し、その独自性からポジションを築いてきたと分析しています。


ただ、今までと同じアプローチでは生き残っていけないのです。


こうした世の中の変化を説教がましく嘆いても仕方が無く、それを受け止めて今のファンに届くような形で記事や発信をしていかなくてはいけないんですよ。


仮に今の推し活の在り方を否定し、ブログ全盛期の頃のように相撲についてキチンと考えるべきだ!という主張をしたところで、果たして誰の心に響くでしょうか?


恐らくブログ全盛期に私たちを支えてくれた一部のファンの皆さんです。


それ以外の人たちからすると、それは時代遅れな老害が「昔はよかった」と嘆いているに過ぎないわけです。


だとしたら自分の長所を彼らの嗜好に寄り添う形でどうマッチさせていくか?ということを考えた方がより建設的なんですよね。


今大相撲九州場所が開催されていますが、一つの試みとして私は久しぶりに自らのオフィシャルサイトでブログを毎日更新しており、様々なタイプの記事を書きながら多くの皆様の様子を伺っています。

刺さる記事もあれば、刺さらない記事も出てきています。


記事の質自体は過去最高と自負しています。それくらい良い分析をしていますが、その分析を推し活文化を支える新たなファンの方たちにも届く形でカスタムしているのです。


具体的には話題の力士・親方に関する素晴らしさを私独自の視点から切り込んでいくということが良いのだと感じました。


恐らく今後ファンの方たちが一様に怒るような出来事があるかと思いますので、これについても小難しくならないように、そして彼らの心情を汲み取りながら、是と非を書き分けていくような記事も出していこうと思っています。


これは別に、相撲のライティングに関する話だけではないんですよ。皆さんがそれぞれの業界で何かを書いたり、表現したりするときにも応用できることなんです。何故なら推し活文化は全てのフィールドに広がっていることですからね。


ハッキリ言えることは、今までと同じアプローチでは通用しないこと。そしてそれを嘆き、怒ったところで読者が増えるわけではないということ。


シビアに自分の置かれた状況を理解し、時に形を変えていく柔軟さが求められるのです。


音声配信(Voicy)を毎日行っていますので、是非お聴きください。


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西尾克洋/相撲ライターの相撲関係ないnote
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