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【放送大学テレビ/視聴メモ】『西洋芸術の歴史と理論』第14回「現代の芸術ー死の影の下の芸術ー」
放送大学テレビ「西洋芸術の歴史と理論」第14回「現代の芸術ー死の影の下の芸術ー」(講師:青山昌文)を視聴。4人の作家が取り上げられていた。
(1)アンディ・ウォーホル。手描き作品の『32個のキャンベル・スープ缶』。フォト・シルクスクリーン作品の『キャンベル・スープ缶』。コカコーラ。《フラワーズ》シリーズ。マリリン・モンローの死の直後に、映画『ナイアガラ』の広告写真を基にシルクスクリーンの技法を使って製作した《マリリン》。ここには死の影がある。《マリリン・ディプティック》も死の影の下にあるマリリン・モンローを描いている。《18の多色のマリリン》。死刑のための椅子である電気椅子を表現した《電気椅子》。死刑を冷厳に表現した《ラヴェンダー色の災難・不幸》。現実の自動車事故死の作品《白黒で17回反復された5人の死》、1960年代、ベトナム戦争の戦死者よりも多い死者を当時自動車事故が出していた。自動車事故によって何の脈絡もなく突然死んでしまうということが日常生活に潜んでいる車社会。《ジャッキー》、ケネディ暗殺直後の大統領夫人の表情。キノコ雲を描いた《原子爆弾》。
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(2)アンゼルム・キーファー。代表作《革命の女たち》(軽井沢、セゾン現代美術館に所蔵)。18世紀のフランス革命期の、革命によって追いやられ処刑された側のマリーアントワネットなどと、革命を準備した側の名も無き女性の両方の名札がベッドに付いている。強制収容所のベッドという感じ。ベッドに凹みがあって水溜りがある。女性的なるものが持つ奥深さや革命性。
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(3)ジョージ・シーガルによる4人銅像の作品《ゲイ・リベレーション》。医療用の特殊な包帯をモデルとなる人の全身に巻いて石膏の型を取る。シーガル自身は同性愛者ではなかったが、現代社会において差別されているゲイの解放という作品を作った。
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※トランスジェンダー映画祭で何度も上映されているアメリカのドキュメンタリー映画『メジャーさん!』Major!(2015年)の中で、主人公のメジャー・グリフィン・グレイシー(愛称ミス・メジャー、あるいはママ・メジャー)は、ゲイ権利運動の先駆けとなった1969年6月27日のストーンウォールの反乱(警察と戦う暴動)の現場に居合わせた最後の生き証人の黒人トランス女性アクティビストであるが、彼女は映画の中で、「コミュニティ全体が運動に関わり始めると物語の主人公が変わり始める。『白人ゲイやビアンが貢献し、クィーンは数人いたかも』と、わたしらはオマケ扱い。それは事実と違う」と述べ、「ストーンウォールの前にある小さな公園にできたストーンウォールの記念碑はレズビアンとゲイの彫像で、いるべきトランスがそこにはいない。シルビアやマーシャはどこ?まだ他にも時代を良い方向へ変えようとしていた人がいた。有色女性。私の友達。」と苦言を呈している。
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(4)マグダレーナ・アバカノヴィッチという女性作家の作品《ワルシャワ-40体の背中》(1990年)。生身の人間から石膏で型取りするという面ではシーガルと似た面があるが、しかしこの作品は背中と腕しかない。顔がない。沈鬱・孤独・悲惨さが背中の丸みの具合に出ている。何十体も並んでいる背中というものは、人間が生きていくうえでの苦しさ・苦悩・孤独感、打ちひしがれたような感じが背中によく出ている。アバカノヴィッチは1930年にポーランドで生まれた人で少女時代に第二次世界大戦で随分苦労している。避難所での生活も経験。戦後のポーランドは教条的なソ連型の社会になる。さまざまな抑圧の歴史が背中しかない作品に色濃く表現されている。府中市美術館の常設展で、アバカノヴィッチのキャプションに書いてあった言葉。「芸術は問題を解決しない。だが問題の所在について気づかせてくれる。」マグダレーナ・アバカノヴィッチ(1930-2017)
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イベントの告知:
現代美術は戦争の記憶をいかに伝えるのか。サラエボから沖芸出身、現在、北海道大学スラブ研助教の美術史家が問います。
2024年12月6日(金)15時30分から
神奈川大学みなとみらいキャンパス
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