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山川方夫の短篇3作品を紹介:「夏の葬列」「お守り」「博士の目」
短篇の名手として知られる山川方夫の作品を3つ推薦します。すべてリンク先の青空文庫で読めます。「夏の葬列」だけ集英社文庫に入っています。また、いずれもYouTubeに朗読音源があるのでお薦めです。
・「夏の葬列」。疎開児童の戦争の記憶の底に眠る罪責の思いを湛えた忘れがたい作品です。
・「お守り」もすごく面白いです。アメリカのLIFE誌にサイデンステッカーによって翻訳され掲載された短篇で、規格化された仕様のもと画一化された団地での生活スタイルに心をも侵蝕されて自分自身の中身まで画一化されてしまっているのではないかという恐怖を、ドッペルゲンガーの恐怖と重ねて描いた作品です。憧れの団地生活の裏で、代替不可能な独自性・個別性を具えているはずの自己が解体して自己の唯一無二性を実感できなくなっていく恐怖をスリリングに描いています。
・「博士の目」。『ヒッチコック・マガジン』というミステリー雑誌に載った作品で、ミステリー仕立ての奇妙な読後感ですが、面白いです。人間という生き物の複雑さが厭わしくてしょうがない動物心理学者がアヒルになる変身譚です。