【ヘルスケア】行動経済学の枠組み⑤:感覚に従って正しい選択はできるのか?
前回に引き続き,今回の記事はこちらの書籍を基に書いています。
過去のヘルスケア関連の記事はこちら↓
⑤ ヒューリスティックス
ヒューリスティクスとは,近道による意思決定という意味です。
正確に計算したり情報を集めたりして,合理的な意思決定を行うことと対照的な意思決定の方法です。
1)利用可能性ヒューリスティック
正確な情報を手に入れないか,そうした情報を利用しないで,身近な情報や即座に思い浮かぶような知識をもとに意思決定を行うことを利用可能性ヒューリスティックと呼びます。
# ヒューリスティックは『近道による意思決定』という意味を持ちます
例えば,医療者が提示する医学情報ではなく,知り合いの人が使った薬や治療法を信じることが該当します。
2)代表性ヒューリスティック
意思決定をする際に,統計的推論を用いた合理的意思決定をするのではなく,似たような属性だけをもとに判断することを代表性ヒューリスティックと呼びます。
例えば,救急治療室に搬送された患者で 40 歳前後の人を比べると,40 歳を少し超えた人は,40 歳未満の人に比べて,虚血性心疾患の検査を受けてそのように診断されることがあるといいます。
ほとんど同じ年齢であるにもかかわらず,30 代だと医療者は心筋梗塞を疑いにくいというのも代表性ヒューリスティックの一つだと解釈できます。
3)アンカリング効果(係留効果)
全く無意味な数字であっても,最初に与えられた数字を参照点としてしまい,その数字に意思決定が左右されてしまうことをアンカリング効果と呼びます。
例えば,高級ブランド品店の店頭に,最高級品が展示してあり高い価格が提示してあると,消費者はその価格にアンカリングされるため,店内の他の価格が安く感じられるのです。
医療においても,有効性・安全性を示すデータや治療費など,最初に調べて知った数字を参照点として,その数字に引っ張られて考えてしまう傾向があります。
4)極端回避性
同種の商品が,上・中・下の 3 種類あった場合に,多くの人は両端のものは選ばずに,真ん中のものを選ぶ傾向があります。
5)同調効果
私たちは,同僚や隣人の行動を見て,自分の意思決定をする傾向があります。
また,他人の行動に同調する傾向があります。
▶︎ 過去 6 回のまとめ
過去 6 回の記事にわたって医療現場でも見られる行動経済学で重要な概念を紹介してきました。
行動経済学的特性として,人々の選好についての考え方に関しては,『損失回避』『現在バイアス』『社会的選好』の 3 つが伝統的経済学の考え方と異なる点で重要となります。
また,人々の計算能力には限界があるという意味の限定合理性としての重要な概念には,『サンクコストの誤謬』『意思力』『選択過剰負荷』『情報過剰負荷』『平均への回帰』『メンタル・アカウンティング』があります。
さらには,意思決定におけるヒューリスティックの代表例として,『利用可能性ヒューリスティック』『代表性ヒューリスティック』『アンカリング効果(係留効果)』『極端回避性』『同調効果』があります。
このような行動経済学的な概念やバイアス,思考のクセがあるということを知っておくことは,誤った情報に惑わされることなく必要な情報を正しく評価できることや,治療方針に関して自ら主体的に判断できることに繋がると思います。
今回もお忙しい中お時間をとって読んでいただきありがとうございました。
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