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【ヘルスケア】なぜ日本人のヘルスリテラシーは低いと言われるのか?

前回の記事の内容を受けて,今回は『日本人のヘルスリテラシーが低い理由』について考察したいと思います。

▶︎ まとめ

● 健康や病気について気軽に相談できる人が身近にいない
● 健康教育を受ける機会がほとんどない
● 国民皆保険があるからと安心してしまう
● 日本語で得られる情報が少ない

▶︎ 家庭医とプライマリ・ケアの不十分さ

前回の記事で言及した調査において,日本とヨーロッパとの比較で最も差が大きかったのは『病気になった時,専門家(医師,薬剤師,心理士など)に相談できるところを見つけるのは』という質問で,日本では 6 割が難しいと回答したのに対し, EU では 1 割と大きく差が開いています。

その背景にあるのは,日本のプライマリ・ケア(身近にあってなんでも相談できるケア)の不十分さがあります。

プライマリ・ケアの定義
「患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである」(米国国立科学アカデミー)

日本の医師の大部分は専門医であり,プライマリ・ケア医あるいは家庭医と呼ばれる医師は少ないと言われています。
2015年9月30日時点で日本プライマリ・ケア連合会が認定する家庭医療専門医は512名で,日本の医師数約30万人のほんの一部にとどまっており,プライマリ・ケアの訓練を十分に受けた医師は不足していると言える状況です。
※ヨーロッパでは医師の 3分の1 が家庭医(オランダでは約40%)のようです。

家庭医制度が普及している国では,地域の家庭医にまず受診することになっているため,相談するできる人を見つけることを困難に思わないようですが,日本においてはどこに受診したら良いかという明確な情報がないため,受診先に迷うことがしばしばあります。

また,プライマリ・ケアのレベルで十分診療可能な疾病でも,どの病院でも自由に選べてしまうために,大きな病院を受診してしまうといったことも起こっています。

▶︎ 未熟な健康教育(特に学校教育)

ヘルスリテラシーの育成や向上において,学校教育は非常に重要と考えます。

海外の学校では早い時期から計画的に,健康やからだ,意思決定などのヘルスリテラシーを身につける教育に取り組んでいます(詳しくはこちら)。

一方で,日本においては2015年に厚生労働省が発表した『保険医療2035』の中でヘルスリテラシーの取り組みや支援について言及しているにもかかわらず,健康やからだのことについて系統的に学ぶ機会が整えられているとは言えない状況にあると思います。
また,医療に関して自分で意思決定する力も養う機会もほとんどないように思います。

そのため,日本においても早い時期から生涯を通じたヘルスリテラシー教育の仕組みづくりをすることが望まれます。
また,社会に出てからも体系的にヘルスケアのことを学ぶ機会は整っていないため,リカレント教育のための仕組みづくりも必要と考えられます。

▶︎ 国民皆保険の恩恵

日本には国民皆保険制度があるため,病気になった際に基本的には自由に病院や医師を選べますし,高額な医療も自己負担を少なく受けられる機会(高額療養費制度など)が整っています。
しかしながら,そのような制度があるがゆえに,患者さんにとっては『いつでも病院にかかれる』とか『病院に行けば高度な医療を受けることができる』といった安心感を与え過ぎてしまい,自ら情報収集をする意欲を促すことができていないように思います。

厚生労働省が2017年に発表した調査結果によると,労働者が健康診断(人間ドッグ含む)を受けなかった理由の第一位は『心配な時はいつでも医療機関を受診できるから(33.5%)』となっていたりもします。

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引用:サンポナビ『【健康診断ってめんどくさい?】受診率アップのために会社ができること』:https://sangyoui-navi.jp/blog/271

この状況はいざ病気になった時に何をしてよいか全くわからないという状況を引き起こしてしまうため,非常に危険な状態だと思っています。

私は『家族や自身が癌になってしまった,どうしよう』という相談を受ける機会がこれまでも何度かあったのですが,それまで準備を全くしてこなかったところに急に絶望的な状況を突きつけられたということで,当人やその家族はとてつもない悲しみに襲われていることが多い印象があります。
相談できる人がいるだけでもまだマシで,そもそも相談できる相手がいない人がいると思うと,救える命や適切な医療にアクセスできる機会があるにもかかわらずその機会を逃してしまっているのは本当にもったいないことだと思います。

また,私自身も家族が癌を患った際にはとても苦労しました。
癌であることが確定してから,自分の中ではスピーディーにすべきことをやったつもりでしたが,それでも納得のいく治療方針が決まり治療を受けるまでにはかなりの時間と労力を割いた記憶があります。
病気に関する情報を持たずに漠然とした恐怖に襲われている方にとっては心身ともになおさらの負担になるのではないかと想像します。

ですので,国民皆保険という存在に甘んじずに,自らヘルスリテラシーの向上に努め,来るべきに備えておくことは非常に重要であると考えています。

▶︎ 情報収集における言語の壁

ここでは,日本語の健康科学・医学系の論文を無料で検索できないという問題を取り上げます。

世界で出版されている論文は,アメリカ国立医学図書館が PubMed というサイトで,無料で論文のデータベースを検索できるようにしていて,要約を読むことはできるし,無料で公開されている論文ならすぐに読むこともできます。
しかしながら,日本語で書かれた論文の多くは検索対象外となっているため,英語ができないと満足に情報にアクセスできないという問題があります。
日本語で検索できる論文のデータベースは有料のものが多く,誰もが無料で検索して要約を読むわけにはいかないというのが現状のようです。

また,そもそもヘルスリテラシーに関する英語論文と比べて日本語論文の数が少ないという問題もあるため,やはり日本語だけではアクセスできる情報が限られているのが現状です。

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(出典)健康教育の新しいキーワードとしてのヘルスリテラシー

以上に取り上げたような理由から,日本人のヘルスリテラシーが低いことの背景が見えてきたかと思います。

今後の記事では,今ヘルスリテラシーが注目されている背景やヘルスリテラシーを高めるためにできることなどを取り上げたいと思います。

今回もお忙しい中,記事を読んでいただきありがとうございました。

▶︎ 参考

・健康を決める力:https://www.healthliteracy.jp/kenkou/japan.html
・日本国際交流センター:http://www.jcie.or.jp/japan/csc/ghhs/lancetjapan/
・厚生労働省『保険医療2035』:https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000088647.pdf
・『日本の中学校健康教育における課題とヘルスリテラシーの必要性に関する一考察 : 中学校新学習指導要領の実施に向けて』:https://core.ac.uk/download/pdf/15922793.pdf
・厚生労働省 平成28年 国民生活基礎調査の概況:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/index.html
・サンポナビ『【健康診断ってめんどくさい?】受診率アップのために会社ができること』:https://sangyoui-navi.jp/blog/271
・健康教育の新しいキーワードとしてのヘルスリテラシー:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjda/61/10/61_557/_pdf

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