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名著を読み解く#47 小松理虔『新地方論』(光文社新書)居場所としての地方

今回の「名著を読み解く」は小松理虔『新地法論』(光文社新書)である。

小松理虔は彼の故郷であるいわき市の小名浜を拠点に様々な活動しているローカルアクティビスト。本書は福島県いわき市の小名浜での暮らしをもとに考えた10のテーマ(観光、居場所、政治、メディア、アート、スポーツetc)で本書は構成されている。地方か都会かという二項論に陥ることなく、いわき市に住みながら、都会と地方の両方を「いいと取り」したかのような活動のルポルタージュであり、「ぼくが新たに自分の目線で書いた地方論」である。学術的な小難しい論考ではなく、筆者が実際に体験した等身大の考察が独自に展開されて、どれも興味深い。


地方という「居場所」をとことん楽しむ

第二章が「居場所」というテーマで設定されているが、本書は全編にわたって「居場所」というテーマが背後に貫かれている。どこに住むのであれ、人は「場」の持つ磁力から逃れることができない。人間は仕事や家庭、趣味など、あらゆる活動を通して、自分の「居場所」を求め続ける生き物だ。

筆者も故郷のいわきから大学進学を機に東京、卒業後は上海へ、再び故郷であるいわき市へと「居場所」は何度も移り変わっている(きっかけは「大失恋」であると告白している)。いわき市にないなら自分たちで作ってしまえ、とばかりに、地元のフリーペーパーの記者として活動し、igokuというメディアを立ち上げ、UDOKU.というイベントスペースを主宰し、小名浜本町通り芸術祭を企画するなど、地元の人を巻き込みながら、県内外のアーティストや写真家、建築家など、建築家やフォトグラファー、アーティストなど県内外から様々な人たちとプロジェクトを実現させてきた。郷土料理に舌鼓を打ち、地元のサッカーチームを応援しにスタジアムに出かけ、自然を堪能する。愛すべき地元をとことん楽しみ尽くす記録誌でもある。

だが、地方だから簡単に実現できたり、人と人が簡単につながる、というわけではない。これらの活動を実現するためには相当なコミュニケーション能力や、熱意、巻き込む力が求められる。そして何よりも、一緒に活動する「人材」が求められる。だが、地方だから「人材」がいないと思いがちだが、それも違う。筆者が取材で出会った人たちは、話が脱線ばかりで、従来の取材方法が全く通用しない、想像を超えた面白い人ばかりだ。彼らとの出会いを通して、新しいコミュニティが生まれていく。

ローカルメディアをつくり始めると、他者との関わりが生まれ、新しく出会った人たちとのビジネスやコラボレーションが生まれる。彼らと友人になってしまったり、恋人になってしまったりすることもある。やがてそれが集団・コミュニティになり、その活躍の様が発信されることで地域コミュニティに循環・攪拌が生まれ、結果として、自分の暮らしがおもしろいものになり、そのついでに、地域もまた、じわじわと豊かなのものになるということだ。                    

小松理虔『新地法論』p.108~p.109

居場所としての書店

興味深いのが第十章の「書店」である。ここで紹介されているのは、いわき市を離れ、浜松駅から遠州鉄道に揺られること20分ほどの住宅街のマンション4階にある書店「フェイガリッとブックスL」だ。

マンションの2LDKの部屋を改造したスペースに店主の高林さんがセレクトした本が並べられている。本を買うだけでなく、店主とおしゃべりしたり、飲み物を飲んだり、のんびりとした時間を過ごすことができる。「居場所」としての書店、サードプレイスとしての書店なのだ。

だが、書店の経営は決して楽ではない。「フェイバリットブックス」も一度閉店し、今の場所に移って再開した経緯を持つ。だからこそ、書店のことだけでなく、地域のことを考えないといけないと店主は考えている。地元の古着屋のカリスマ店長を呼んでトークイベントを開催したり、いずれは市長と語る会にも参加したいとのこと。

古着屋の店長を呼んだら、古着やファッションの本に当然つながる。古着について、流通の問題とかSDGsの観点から語ることだって可能だろう。呼べるものなら浜松市長を呼んで、行政や地域づくりに関する本を並べながら地域について語ってもいい。書籍がダメなら雑誌があり、雑誌がダメでもCDならある。そうしていったん、本から、書店からも離れ、高林さんは新しい人たちと出会おうとしている。そして、そこで出会った人たちを再び引っ張り込んで、様々なものをぶつけ合わせ、新しい価値を創り出そうとしている。

小松理虔『新地法論』p.259

これは大変ユニークでおもしろい。
先に引用した、ローカルメディアを通して人が繋がるのと同じ仕組みが、書店にもあるのだ。

特に目的があるわけでもなく、ふらりと本のある空間に身を置いて、なにかおもしろいアイデアがわいたり、不意に新しいことに興味を抱いたり、「そこに行くと何かが起こる」みたいな期待感やワクワクを抱かせてくれる書店。

浜松を訪れるときの楽しみが増えた。ぜひフェイバリットブックスLに立ち寄りたい。

書店という居場所については、いつかまた機会を設けて考察していきたい。

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