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すばらしき自助グループの世界

──今回はマドレーヌさんのリクエストに応えていただきましょう。「マコトさんはいくつもの自助会を開いておられますが、自助会のどんなところに魅力を感じていますか? また(いろんな方が集まる分)トラブルも起こりやすい気もしますが、場を開いて、続けるコツは何ですか? など、改めてマコトさんの自助会への想いを聞いてみたいです」

横道 自助グループ(自助会)と私の関わりは、そんなに歴史的な奥行きのあるものではありません。自助グループを初めて知ったのは、津島隆太が2018年に連載を始めたマンガ『セックス依存症になりました。』と記憶していましたが、最近じつはそれ以前にも、発売直後に買った吾妻ひでおの『失踪日記』(2005年)で出会っていたことに気づきました。でもその頃は大学院生で、じぶんに関係のある領域とはわからなかったですね。

──『セックス依存症になりました。』は、どういうきっかけで読んだんですか。

横道 2019年4月に発達障害の診断を受けて、精神科クリニックに通うようになると、いろんな精神疾患が身近になって、精神医学に関心が湧きはじめました。このマンガは当時オンラインで全話公開されていたので、とっつきやすかったんです。

──最初に自助グループを実体験したのは、どのタイミングでしたか。

横道 福祉行政の支援者に勧められて、2019年の秋から依存症の専門外来に通うようになりました。アルコールとのつきあい方が、いまはまだ深刻ではないとしても、10年後にはまずいことになってると思うよと言われました。以前からひそかにそのような不安があったので、助言に従ったんです。
 そのクリニックの2階でAA、つまりアルコホーリクス・アノニマスの出張版が定期開催されていたんです。で、主治医からそれに出たほうが良いと言われました。

──アルコホーリクス・アノニマスってアメリカの映画で、それらしい場面を見たことがあります。

横道 「匿名のアルコール依存症者」という意味です。アルコール依存症の当事者が集まって、近況や思い出を語っていく。先輩の当事者に助けてもらって、「12ステップ」と呼ばれる回復の過程を歩む。関連するパンフレットや書籍もたくさん読みましたが、なかなか感銘を与える組織でした。
 しかし、私にはまるで向いていない面もあったのです。

──とくに興味深かった部分と、向いていないと判断した部分を教えてください。

横道 感銘を受けたのは「12の伝統」ですね。上下関係を形成しない、金儲けをしないといった清廉な内容。向いていないのは「神」や「ハイヤーパワー」という超越的存在を設定して、それにすがることで立ちなおっていくという回復モデルです。

──横道さんは宗教2世ですもんね。

横道 そうです。ミーティングでも「12ステップ」でも、「神」や「ハイヤーパワー」に感謝を捧げまくるわけですから、キリスト教系のカルト宗教出身の私には、どれだけ勧められても精神的な脅威をもたらす侵襲的な場だったのです。AAに行くたびにトラウマが刺激されて、かえって酒を飲むようになりました。

──それでは元も子もないですね。

横道 しばらくしてAAのほかに、アルコール依存症の親などを持つ「機能不全家庭」の子として育った人を対象としたACA(アダルトチルドレン・アノニマス)にも通いましたし、酒もドラッグみたいなものだからと考えて、薬物依存症者を対象にしたNA(ナルコティクス・アノニマス)や、ゲームに熱中しすぎる傾向があるからということで、ギャンブル依存症者を対象にしたGA(ギャンブラーズ・アノニマス)に訪れたこともあります。これらはいずれもAAの系列にあるグループですね。「アノニマス系」とか「12ステップ系」と言われています。

──たくさんの場所を経験したんですね。

横道 コロナ禍の時代が始まるかどうかという頃なので、オンライン化するところも出てきていました。日本で生まれた「断酒会」という自助グループもあるのですが、主治医から「昭和の体育会系のノリ」と言われたので、「ゲーッ」と引いちゃって、これには一度も行きませんでした(笑)。
 アノニマス系はどこでも「神」と「ハイヤーパワー」の世界なので困ってしまったのですが、そのあと発達障害の自助グループに参加するようになったんです。そうしたら茶話会のようだったり、グループディスカッションをやっていたりと、アノニマス系とは別世界だった。それで、私もこのようなスタイルだったら自助グループをやってみたいなと思ったのです。

──たくさん主宰していますよね。

横道 京都では発達障害者向けの自助グループ「月と地球」。当事者研究をいくつかやって、残り時間は茶話会です。同じく京都でやってる「宇宙生活」も同様ですが、こちらは困り事のある人は誰でも歓迎しています。
 それからオンラインの会。発達障害者向け、アダルトチルドレン向け、宗教2世向け、LGBTQ+向け、希死念慮のある人向けの当事者研究会。それから発達障害者がじぶんのお気に入りを報告し、会話する「広めあう会」。以上の8つは私が「ひとりスタッフ」として運営しています。残りのひとつは複数のスタッフでオープンダイアローグ的な対話実践をする「ゆくゆく」。今回質問してくれたマドレーヌさんも、スタッフのひとりです。

──そんなに主宰していて疲れませんか。

横道 1回につき1時間半から2時間の開催時間がかかるので、1日に2つ入れてしまった場合には、移動時間や開催結果をツイートする時間を合わせて、最大で5時間くらい消えてなくなる場合だってあります。そのときには、「最大でも1日1回にしないとな」と反省します。ADHDがあるので、うまく管理できないことが多いのですが。

──これまでに何回くらい開催してこられたんですか。

横道 これまでに3年ほどにやってきました。最初の半年で開催回数は100回を突破しました。2日に1回以上開催していたことになりますね。そのあとは1ヶ月に7回とか8回とかに減りました。ウィーンに半年ほど海外出張しなければいけない時期があったのですが、そのときにはほとんど休止して、「広めあう会」と「ゆくゆく」のふたつだけやってました。

──海外出張中も主宰していたとは。

横道 これまでに自助グループを開催した回数は、ざっと計算して300回弱ということになりそうです。

──自助グループって、主宰するとなると、ふつうは1ヶ月に1回とかですよね。1ヶ月に1回開催した場合だと、300回に達するのは25年かかりますね。

横道 4半世紀分を3年でやったということになりますね。自閉スペクトラム症とADHDがあるから、ハマったらとことんやってしまうんですよ。
 でも宗教2世の会に第1回からほとんど参加してくれたちざわりんさんは、私が出張しているときからツイッターのスペース機能を使った宗教2世向けの自助グループを毎日のようにやるようになりました。スポーツ好きの小学生男子が、毎日昼休みに必ずドッジボールをやっていたのを思いだします。ちざわさんのペースには、私も負けてしまいますね(笑)。

──マドレーヌさんは横道さんにとっての自助会の「魅力」を尋ねていました。どうなんでしょう。

横道 私はとにかく苦しんでいる人が好きなんですよ。絶滅収容所を体験して『夜と霧』を書いたヴィクトール・E. フランクルに、たいへん共感してしまいます。苦悩している人は、ほかのあらゆる違いを超えて、私自身の精神的な同伴者だと感じることができる。
 だから自助グループの枠組みのなかでやっていることが、ほとんど当事者研究やそれをアレンジしたものだというのは、当然とも言えます。当事者研究のオピニオンリーダー、向谷地生良さんもフランクルに絶大な影響を受けていますから。
 苦しんでいる人の口からは、いかなる文学作品をも超える純粋な言霊があふれ出てきます。それが文学研究を専門にしている私には衝撃でもあり、驚異でもあって、その迫力に感激してしまうという面もあります。いわば、自助グループには文学を超えた文学がある。

──マドレーヌさんも気にしていましたが、トラブルは起こりやすいんですよね。

横道 自助グループを主宰するようになって最初の2、3ヶ月は試行錯誤でもがきつづけましたね。発達障害もあるだけに、迂闊なことを言いがちだし、私はじぶんのコミュニケーションには根本的な困難があると思っています。じぶんが主宰するだけでなくて、ほとんど毎日のように京都、大阪、兵庫、オンラインの会合に参加し、ほかの人が主宰している自助グループからテクニックとメソッドを吸収しようと励みました。。

──それでトラブルを招くような発言をしなくなったと。

横道 まだぜんぜんダメなんですけどね。でも言動以上に重要なのは、ルールだと気づきました。ちゃんとしたグラウンドルールを設定して、私を含めて参加者全員に従ってもらう。そのルールは、なによりもじぶんが会合を制御しやすくするためにあります。とはいえ、「じぶんがやりたい放題できるルール」では当然いけません。

──そんなルールを敷いてしまったら、参加者から見放されてしまいますよね。

横道 ある意味ではじぶんも参加者も制約し、かつその制約によってじぶんも参加者も健全な自由を行使できるものでなくてはならない。
 それがどのようなグラウンドルールかは、一般化しづらいところがあります。会合の趣旨、集まる人の傾向や、主催者の能力などの総合によってだいぶ変わってくると思います。

──マドレーヌさんは「場を開いて、続けるコツは何ですか」とも書いていました。

横道 じぶんが楽しいということですね。苦しみを分かちあう場ですが、自助グループでやっていることからは、独特の興奮が伝染してくるはず。少なくとも興奮のない自助グループは失敗していると思います。その楽しさを味わいたいという貪欲さが、私の基本的な動機です。こんなボランティア活動に励んでいるのは私が善人だから、というのとはちょっと違うと思っています。

──よくわかりました。また次回お願いします。


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