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食の好き嫌いをどうするか

──今回はお吟さんのリクエストに応えていただきましょう。「#大っ嫌いな食べ物1つ教えろ というのを見ていて思ったのですが マコトさんは同じものばかりを食べるとよく言われてますが そもそもの偏食はありますか(人参ダメとか) いろいろ食べれるけど食べないのですか 大っ嫌いな食べ物ありますか」。

横道 「そもそも論」から始めても良いですか。

──自閉スペクトラム症の人は「そもそも論」が好きですよね。一から百まで説明しないと気が済まない。

横道 そうなんです。

──なるべく短めでお願いします。

横道 精神疾患の診断基準を与えるDSM-5(『精神疾患の診断・統計マニュアル』)には、つぎのように書かれています。

「行動、興味、または活動の限定された反復的な様式で、現在または病歴によって、 以下の少なくとも2つにより明らかになる〔略〕。

(1)常同的または反復的な身体の運動物の使用、または会話(例: おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同運動、反響言語、独特な言い回し

(2)同一性への固執、習慣への頑ななこだわりまたは言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)

(3)強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)

(4)感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)」

感覚過敏と感覚鈍麻なんかも含めて、自閉スペクトラム症者の特徴が幅広く「限定された反復的な様式」としてまとめられているわけです。この「限定された反復的な様式」を短く表現すれば「こだわり」ということができます。

──「なるべく短めに」というお願いが伝わらなかったみたいで残念ですが、なるほどわかりました。
 「同じ食物を食べたりすることへの要求」という一節がありますね。偏食も自閉スペクトラム症的なこだわりなんですね。

横道 はい。私の食生活がどんな感じかについては、以前説明しました(https://note.com/makotoyokomichi/n/n387a09dc8ad0)。

──数種類のメニューで、1週間の食事の⅔を占めるというあれですね。

横道 あのあと、いわゆる「16時間ダイエット」を始めて、昼食を食べなくなったので、少し変わりました。

──16時間ダイエットは、夕食から昼食までを16時間にして朝ごはんを抜く、それか夕食を抜いて朝昼だけ食べる、というパターンが多いようですが、昼抜きにしたんですね。

横道 はい。私には昼抜きがいちばん空腹を感じにくくて、合っているようです。最近の1週間はこんなスケジュールでした。

【土】おにぎり/牛焼肉と生キャベツ
【日】おにぎり/牛焼肉と生キャベツ
【月】赤飯と鶏の唐揚げ/野菜カレー
【火】カツ丼とうどん/野菜カレー
【水】牛丼(外食)/野菜カレー
【木】牛丼(外食)/野菜カレー
【金】野菜カレー/カツ丼

──おお、よけいにシンプルになりましたね。

横道 はい。美しいスケジュールです。

──それでお吟さんのリクエストは、「#大っ嫌いな食べ物1つ教えろ」というハッシュタグをツイッターで見たので、横道さんの大っ嫌いな食べ物を知りたいということでした。

横道 そこで私は、そのハッシュタグを検索して、どんなものが嫌われているかを探ることにしました。

──そういう作業も必要なんですね。

横道 私には不可欠です。
 こんなツイートがおもしろかったです。「トマト生産者ですがトマトが食べられません。ついでに長年トマトを販売していて思うのは、トマト好きですという人の半分くらいがトマトジュース嫌いで、トマト嫌いですという人の9割くらいはトマトケチャップ大好き感があるなぁということです」

──横道さんはトマトやトマトジュースは得意ですか。

横道 どちらかと言うとトマトジュースは苦手です。
 ほかに同じだなと思ったのは、こんなツイートです。
「コールスローサラダ…野菜は好きだけど、これは味が苦手」
 私も基本的に野菜はおいしくいただきますが、コールスローサラダはあんまりです。

──なるほど。

横道 あとは、このツイートも共感しました。「リコリス味の菓子全般。 この味ほんとに無理!!!!!  嫌いなのになぜかもらう事が結構ある。。。」

──リコリス味って、なんですか。

横道 ハリボーのグミ菓子に、黒いカタツムリみたいなタイヤみたいな形状のものがありますが、それを食べてみるとわかります。

──どれどれ。うっ! これは……‼️ なるほど、日本人にあまり向いてない味のような気がします。

横道 そんなわけで、私にも好き嫌いはいろいろあります。とはいえ、どこかに招待されたときなどに、出てきたものを食べないことはありません。虫料理が出てきても食べます。ミミズ以外は。

──虫料理もですか。ミミズはどうしてダメなんですか。

横道 少年時代の南方熊楠もそうだったようですが、ミミズが苦手なんです。子どもの頃、小さな公園を抜けていく区画が通学路に含まれていたのですが、夏になるとアスファルトの上でミミズたちがびっしりとのたうって死んでいました。

──それは嫌ですね。

横道 和田慎二のマンガ『スケバン刑事』に、主人公の麻宮サキが無数のミミズがびっしりうごめく部屋に放りこまれて、体がすつぽり埋まってしまい、悲鳴をあげた場面も懐かしく思いだします。

──それも嫌ですね。

横道 あのマンガにはミミズ肉のハンバーグとかミミズ汁とかも出てきて、つらかった。白魚の踊り食いとかエビの活け造りなら、私はおいしくいただくけど、ミミズだったら嫌だな。

──それは「食べ物の好き嫌い」なんだろうか? もはや料理ではないような気がします。

横道 とにかくそういうわけです。

──虫も食べるわけですから、ちょっとグロっぽい海産物も大丈夫なんですよね?

横道 ナマコは子どもの頃、怖かったですね。ちょっとミミズっぽい感じもあるし。でもいまは好きですよ。ホヤとかミル貝もおいしくいただきます。

──子どもの頃から、だいたいなんでも食べられたんでしょうか。

横道 いえ、小学校の中学年までは、いかにも自閉スペクトラム症の子どもらしく、食べられないものだらけでした。とくに野菜はほとんどだめでしたね。ピーマン、玉ねぎ、にんじん、キャベツ、きゅうり、ほうれんそう、もやし、なすび、ブロッコリー、サヤエンドウ。それぞれ味も不快でしたが、それ以上に食感が不気味でした。野菜のあのギシャッ、グシャッとした噛みごたえ。本能が「これらを食べてはいけないぞ」と危険信号を発していました。

──いまは大丈夫なんですよね?

横道 いまはおいしくいただきます。ちがう自分みたいで不思議な気がします。ほんとに嘔吐反射するほど食べられなかったですから。家でも学校でも食べたふりをして、ティッシュペーパーにこっそり吐きだして捨てる作業に必死でした。

──子どもとしてはつらい体験ですよね。

横道 見つかって叱られるのにもビクビクしてましたしね。
 当時好きだった野菜はトウモロコシ、ジャガイモ、カボチャの三つだけじゃないかな。
 そういえばスイカとメロンは大好物だったので、「キュウリの仲間」と知って、驚いたことをよく覚えています。

──なるほど。

横道 おもえばあれで「ウリ科」に興味が湧いて、ヘチマを育てたりして、野菜嫌いの解消にもつながった気がします。

──研究者向きの気質が、偏食の解消にも役立ったんですね。

横道 あるとき友だちから「キュウリにハチミツをかけたらメロンの味になる」というガセ情報を得て、やってみたらハチミツのかかったキュウリでしかなかったので、「騙された」と悲しかったです。

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