見出し画像

「静けさ」について〜しんしんと降る雪、音の伝わり方、そして心の静けさ〜

「しんしんと降る雪の静けさ」

雪が降る中に静けさが訪れると、どこか心地よく、ホッとした気持ちになります。

音は空気(や水などの媒質)の振動ですが、実際に雪には吸音効果があり、空気の振動を吸収することから「静けさ」をもたらします。

静かになるとよく眠れるのかどうかは、人それぞれであると思いますが、確かに雪が降っていたり積もっていたりすると、静かに感じられますね。音は空気の振動で伝わりますが、雪が降っていると空気の振動が雪で減衰されてしまうので、音が伝わりにくくなります。

中谷宇吉郎 雪の科学館『雪と音、眠りについて』

あるいは、ひとたび水に潜れば、耳に入る物音が和らいで、どこか穏やかな気持ちになります。

そう思うと、日常生活のあわただしさの中に「静けさ」を取り入れたい、と思うわけです。

「静けさ」を取り入れるとは、自分を囲む世界との「つながり方」あるいは「反応の仕方」を変えてみる、ということかもしれません。

年齢によって割合は異なるものの、人間の身体の50%以上は水分ですから、本来的に水や雪のように、自らを囲む様々な力を和らげる「しなやかさ」を持ち合わせているはずです。

「音の伝わり方」という物理現象から、私たちは「心の静けさ」について何を学ぶことができるでしょうか?

物を溶解する水に心を動かされることがある。降る雪を音もなく解かす水、薄氷を解かす春の水、あるいは土を粉砕し、もろもろの実体を柔和にする水が、この例である。さらに想像の世界における、夜を池に浸み込ませる水がこの例である。(中略)G・バシュラールによれば、「水は槌以上に、土を粉砕し、もろもろの実体を柔和にする」という。「水は、溶かし、温め、柔らげて滲みこみ」そして土と結合するという。「水はもっとも混合しやすい実体だから、夜は水に浸透し、湖をその深部まで曇らせ、池に滲み込む」

鈴木信宏『水空間の演出』

伊藤桂一は『水と微風の世界』で、「一抹の漣さえ」つくらずに水に消え去ってゆく降雪の美をとらえている。「水の面に、雪は凄絶なかたちで、しきりに降り込んでいた。……雪はじつにふしぎな美しさで、水の面に映り、消えていった。静かすぎて鬼気のようなものさえかんじる。いちめんの雪は、繽紛と水の面に降りつぎ、降り積む瞬間に、みごとな消失の姿で水に融け入ってしまう」

鈴木信宏『水空間の演出』

紫式部は『源氏物語』で、凍る水や解ける氷に感情を移入している。「月は暗がりが残らぬほどにさし出て、……遺水もほんとにひどくむせび泣いているようで、池の氷もいいようのないほどさびしく」「氷が閉じこめ石間の水は行きなやんでいるけれど、空に澄む月影は西へ流れてゆく - 私は家に閉じこもった女の身、……」「一面に解けてきた池の薄氷や、岸の柳が芽ぶく気配だけは季節を忘れぬもの」

鈴木信宏『水空間の演出』

いいなと思ったら応援しよう!