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組織や社会におけるアポトーシス(役割の自然死)とは?〜正常な状態を保つための死の積極性〜

「アポトーシス」とは「個体が生きるために細胞が自ら積極的に死を選ぶ」現象であり、細胞の自然死です。

死をどのように捉えるのか。

どこか「避けるべきもの」でいうか、いささかネガティブな印象を伴う概念のように思われる中で、物質的な現象としての死に「積極性」が見出されることに新鮮さを覚えました。

例えば、アポトーシスによって腫瘍の成長が未然に防がれていますが、この仕組みが壊れている細胞は自然死しない、つまり無限に増殖を続けてゆき、やがて「がん細胞」へと変化することが知られています。

個体を正常な状態に保つために「自然死」というメカニズムが組み込まれている。無限の成長に歯止めをかける仕組みが「組織の状態を正常に保つために必要である」ということ。

ふと、組織や社会においては成長の追求に焦点が当たる一方で、「正常な状態とはどのような状態な?」という問いが投げかけられることは少ないのではと思います。

そして、正常な状態を保つための仕組みとしての「自然死」を組織や社会にどのように埋め込むのか。それは世代交代、新陳代謝を促したり、がん細胞(悪性腫瘍)の発生を抑制する効果を期待する意味で必要なはず。

物質的な死ではなく、「役割としての自然死」を積極的に受け入れるには何が必要なのだろう。

生命を学ぶ中で浮かんでくる問いを大切にしたいのです。

体細胞が、体をつくりあげたり、それを維持していく中で、皮膚や血液など細胞の死が重要な役割を果たしている場面がたくさんあることがわかりましたが、個体が生きるための細胞の積極的な死とでも呼ぶべき興味深い現象があります。アポトーシスと呼ばれるこの現象は、細胞のゲノムに死ぬべき時が予め書き込まれており、それに従って細胞が整然と死ぬという現象です。この役割には二つあります。一つは、ある時点で生体にとって不要な細胞を除くことによる全体の制御です。

中村桂子『生命誌とは何か』

発生の時の形づくりの例として、チョウの翅の形成時に起きるアポトーシスを紹介します。サナギから美しいチョウが生まれてくる場面には驚かされますが、サナギの中でチョウの翅は最初からでき上がりの形になっているわけではありません。大雑把な形がつくられ、その後、外側の不要な細胞が死に、切り取られるようにして仕上げが行われるのです。

中村桂子『生命誌とは何か』


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