生命力に満ちあふれたガジュマルの木を眺めていた時、「どんな事物も肥大化するとやがて自らを支えきれなくなってしまう。成長はやがて鈍化して、飽和する。誰が決めたわけでもない、無限の膨張を回避する制約が課されているからこそ、大小様々な事物の調和による多様性が成り立つ」と思った。
宇宙のように無限に膨張し続ける未知の神秘性と等しく、有限大の中を満たしてゆく内実の美しさがある。
ジョフリー・ウェスト『スケール 生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』を読むと、世界は「スケール」 と「秩序」 という概念で様々な物事を束ねることができるのだと分かってくる。これはまさに「述語的統一」 だと思う。
主語と述語の関係性を逆転させる。主語となるオブジェクト(個物)に注目するのではなく、述語(性質など)に注目して、事物を横断的に捉える見方が述語的統一である。
主述を転換させて、一見すると異なるように見える事物に共通点、不変性が見い出せれば、私たちの認識が生み出した「違いの壁」を乗り越えることができるのではないだろうか。
イギリスの経済学者であるE・F・シューマッハは、現代の資本主義的経済社会、大量生産大量消費の世界を批判して「Small is Beautiful」 を提唱した。際限なき欲望の膨張が裏側にあるとしたら、それに歯止めをかけるものは何だろうか。一方、人には未知を探求し続ける好奇心、そして成長したいと思う気持ちが自然と生まれてくることも事実だ。
だとするならば、「欲望」の質というのか、「好奇心」や「成長」したいと願う気持ちのベクトルの向きが大切なように思えてくる。
こうした複雑なまとまりのどれを取っても、太陽を巡る惑星のすさまじい単純さや秩序、あるいは腕時計やiPhoneの機械的な規則性と比べてみれば、これほどの複雑性と多様性のなかにも、惑星や腕時計に類する隠れた秩序が存在するのではと思ってしまう。すべての有機体、いや植物や動物から都市や企業に至るすべての複雑系が従う、少数の単純な規則性があるのでは? それとも地球上の森やサバンナや都市で繰り広げられるドラマは、すべてデタラメで気まぐれなもので、散発的な出来事の羅列でしかないのか?
ジョフリー・ウェスト『スケール 上──生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』 わずか数年しか生きないネズミのような小さな動物でも、クジラのように一〇〇年以上も生きる動物でも、哺乳類の平均生涯心拍数はだいたい同じなのだ。動物、植物、生態系、都市、企業のほぼすべての測定可能な特徴は、大きさや規模と共に定量的にスケーリングする。(中略)この驚異的な規則性の存在は、これらのまったくちがう非常に複雑な現象すべての根底に共通の概念的枠組みがある事、そして動物、植物、人間の社会行動、都市、企業の動態、成長、まとまりが、実は似たような一般化した「法則」に従っていることを強く示唆している。
ジョフリー・ウェスト『スケール 上──生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』 今私たちが格闘している大きな課題や問題、例えば急激な都市化、成長、地球の持続可能性から、癌、代謝、老化と死の原因の理解が、統一された総合的な概念的枠組みを使うことで可能になると述べる。(中略)すべてに共通しているのは、それがきわめて複雑であり、無数の個別構成要素でできあがっているということだ。その要素となる分子や細胞、人間は、ネットワーク構造を通じて複数の時空間スケールにまたがる形でつながり、相互作用し、そして進化する。これらのネットワークには、人体の循環系、あるいは都市道路網といった明白で非常に物理的なものもあれば、社会ネットワーク、生態系、インターネットといったもっと抽象的でバーチャルなものもある。
ジョフリー・ウェスト『スケール 上──生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』