見慣れないようにする。それが知覚するということ。

今日も引き続きミハイ=チクセントミハイ(アメリカの心理学者)による『モノの意味 - 大切な物の心理学』の第2章「物は何のためにあるか」より「表現の三水準」を読みました。では、一部を引用してみたいと思います。

物はその具体性によって、新しい洞察や理解を刺激するものとなっている。したがって、意味の解釈過程に何らかの影響力を持つことを物の固有性として認めることが重要であると思われる。
私たちがある物を経験するとき、既知の何かとしてのみ解釈する場合が再認である。再認という行為は意識的かもしれないし、無意識的かもしれない。喜びをもたらすかもしれないし、そうでないかもしれない。乱された心のバランスを回復するかもしれないし、しないかもしれない。これらのいかなる場合も、それは感情や注意、意図の新たな組織を生み出すことはない。多くの人は、単なる慣れのために、あるいは環境から受け取るあらゆる情報に完全な注意を払うことができないために、再認を通して物とかかわる(たとえば、Heidegger, 1962; Merleau-Ponty, 1962; Milgram, 1970)。
他方、知覚は私たちが物を経験し、それ自体の固有の性質を理解したときに生じる。それは、農民の木靴であるとか、ゴッホが描き、ハイデガーによって巧みに分析されたボロボロの麦わら芯の椅子とか、床板に当たってできた朝陽の光のスポットのように、きわめてありふれたものかもしれない。重要な点は、見る者に新しい洞察をもたらすような一定の性質を強いることであり、デューイ流の見方に立てば、それはどんな経験をも美的なものにするものである。
さらに、この二分法は、たとえばゲッツェルスが「問題提示型解決」と「問題発見型解決」と呼んだ二つの異なる認知的アプローチの根底にある人間の心理と深くかかわっている。前者は、何が問題で何がなされるべきかあらかじめわかっている場合であり、後者はまず問題の性質が問われ、その後ではじめてその解決について考え始める場合である。いうまでもなく、創造的成果をもたらすのは後者のアプローチである(Getzel & Csikszentmihalyi, 1967)。

「重要な点は、見る者に新しい洞察をもたらすような一定の性質を強いることであり、デューイ流の見方に立てば、それはどんな経験をも美的なものにするものである。」

この言葉が印象的でした。

ジョン・デューイ(哲学者)は著書『芸術と経験』の中で、物自体の性質が持つ役割に迫るひとつの方法として、知覚(perception)と再認(recognition)を区別しています。

「知覚する」と「再認する」を日常生活の中で意識することはほとんどないように思います。だからこそ、デューイによる区別は新鮮でした。

「多くの人は、単なる慣れのために、あるいは環境から受け取るあらゆる情報に完全な注意を払うことができないために、再認を通して物とかかわる」と著者は述べています。日常生活の中で、一日を過ごす中で、見慣れた風景を眺めている時間は長いように思います。

ここでふと「見慣れるとはどういうことだろう?」と問いを立ててみます。

「見慣れる」という言葉からの連想をとおして自分事に引き寄せてみます。

ぼんやり眺めている。気に止めず足早に通りすぎる。気付いても気づかぬふりをする。「見えている」と思っているはずの光景が自分を通り過ぎていくような感覚。見えているようで見えていない。それが「見慣れる」なのかもしれません。

もちろん、自分を取り巻く環境の全てに意識を向け続けるのは、大変なことです。むしろ何もできなくなってしまうかもしれません。「見慣れる」のは無意識の範囲を増やすことで出来ることを増やしていく、人間が進化の過程で獲得した能力でもあります。

「他方、知覚は私たちが物を経験し、それ自体の固有の性質を理解したときに生じる。」と著者は述べます。物の「固有の性質」とは何でしょうか?

私は毎朝、花の写真をじっくりと眺めることを習慣にしています。花は実に多様で、花弁の形状、大きさ、枚数、色など、どの花にも個性があることに気付かされます。

そして、それらの個性は自分が受ける「印象の違い」として立ち現れます。力強い花、繊細な花、穏やかな花、しなやかな花...。どれも固有の美しさを秘めています。

「重要な点は、見る者に新しい洞察をもたらすような一定の性質を強いることであり、デューイ流の見方に立てば、それはどんな経験をも美的なものにするものである。」という著者の言葉は、あらためて響きました。

「美しいと感じているか?」
「何に美しさを感じるか?」
「美しさとは何か?」

新たな一面を見つけ、心が動く瞬間を作り続ける。見慣れているはずものを見慣れないようにする。「物」との関わり合いの中での大事な気付きを得ました。

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