「温度」と「ノイズ」が触覚の感度を高める
今日は『触楽入門 -はじめて世界に触れるときのように-』(著:テクタイル)から「触覚センサのしくみをうまく使って、感度を高めてみよう」を読みました。
昨日は「触覚は空間的な変化と時間的な変化を組み合わせて知覚している」という話に触れました。
髪の毛には「キューティクル」と呼ばれるうろこ状構造があり、その高さは数ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリメートル)です。キューティクルの高さが不揃いだと「キシキシ/ギシギシ」とした手触りになりますが、その手触りの違いはわずか数ミクロンの違いを感じとっている証拠なのでした。
では、なぜ数ミクロンの違いまで読み取れるのか。その本質は「ふれ方」にあります。人はあるものに対して様々なふれ方をしています。おしつぶしたり、なぞったり、つかんだり。
微細な振動を感じとる感覚センサーとして、マイスナー小体、パチニ小体の二つがあります。時間をかけて、なぞるようにさわることでキューティクルの高さの不揃いさが生み出す微細な振動の変化を感じとっているのでした。
様々な方向から様々な力をかけながら、しかも時間のかけ方を変えながら。その多様なふれ方が「触感」の違いとして表れる。触覚を働かせるというのはとても主観的で、自分が素材から触感を引き出しているとも言えます。
今回は「触覚の感度を変えるものは何か?どのように変わるのか?」というテーマが展開されました。
手をあたためると触覚の感度が上がる
著者は「手をあたためると触覚の感度が上がる」ことを紹介しています。
皮膚の表面に無数に存在するイオンチャネルと呼ばれる孔(あな)をイオン(イオン:電気を帯びた分子)が通ることで電気的なエネルギー状態が変化します。エネルギー状態の変化が感覚神経を伝わり「何かにふれている」という情報として認識されます。それが触感が生まれる原理でした。
「イオンや神経伝達物質のやりとりは温度が高いときに活発になる」というのは触感が生まれるメカニズムを知ると「なるほど」と思えるものでした。
冬のように外が寒い時期。かじかんだ手で何かにふれてもふれている感じがしません。手をあたためると何だか生き返った気持ちになるのですが、手の感覚(触覚)を取り戻して世界とのつながりを感じられるようになるからなのかもしれません。
話は横道にそれますが、コミュニケーションにも通じるように思いました。いきなり自分が伝えたいことを伝えようとしても相手にはなかなか伝わりません。温度がそろっていないというか、相手の興味関心が薄ければ(気持ちが冷めていたら)なかなか伝わりません。軽い雑談などで場を温めてから話を始めると、その後の会話が弾むことも多いのではないでしょうか。
「温めることでつながりの感覚を高める・取り戻す」
触覚のメカニズムからのインスピレーション。自分が自然と使っている触感に関する言葉。その奥行きを私はまだまだ知らないのだと知りました。
ノイズは排除すべきもの?(ノイズは触覚の感度を高める)
手の温度を高めるほかに「弱い刺激(ノイズ)を加える」ことによっても、触覚の感度が高まると言います。
確率共鳴という言葉が出てきました。「共鳴」とは互いに強めあったり弱めあうことです。
共鳴が確率的に起きるとはどのような原理なのでしょうか。著者はヘラチョウザメによる実験結果を紹介しています。
ノイズ(微弱な刺激)がある環境下では、微弱な信号がノイズと共鳴して「たまに」検出可能な強度の信号となる。とても興味深い現象です。
ノイズという言葉を聞くと、たとえば音楽をイヤホンで聞いているときの「ノイズキャンセリング」のように「ノイズは排除するもの」として捉えることが多いように思います。
しかし、「確率共鳴」においては、ノイズが信号に気づく(検出する)確率を高める意味でポジティブな作用を示しています。何かに集中しようと思ったとき、周囲が多少ざわざわしていたほうがいい(ホワイトノイズがある)というケースにも通じているのかもしれません。
触覚の世界をもっと深く知りたいと思ったのでした。
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