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アナログとデジタルの違いは何だろう?

書籍『生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像』を読み進めながら「デジタル」という言葉の奥行きを探っている。

「デジタル」に対置される言葉が「アナログ」だけれど、「アナログとデジタルの違いは何か?」と問われると、案外答えるのは難しいかもしれない。

文字・言葉は具体的な物体や現象などを抽象化した記号である。抽象化されているからこそ、一つ一つの具体的な物事に言及しなくて済む。たとえば、「車」という言葉を聞けば、人それぞれに「車らしい」特徴を持つ何かがイメージされ、幅を持ちながらも共通したイメージがあるからこそ会話が成立する。

「アナログとデジタルの違いは何か?」と問われたら、その言葉を含む具体的な何かを探すことから始めてみるのが良いかもしれない。言葉は具体的な何かを抽象化したものであるから、抽象的な言葉を考えるために逆に具体に立ち返ってみる。

たとえば時計はどうだろうか。「アナログ時計」と「デジタル時計」と聞けば、それぞれの時計のイメージが浮かんでくる。それらの違いは何だろう。時計の機能は時を刻むこと(時間を測ること)。時の刻み方に、どのような違いがあるだろうか?

ゲノムはデジタルデータならではの多くの利点を持っている。最大の利点はノイズ耐性が強いことだろう。(中略)ノイズが入るのは当たり前、電波が弱くなって聞き取れないのも当たり前だった。だが、いまのスマホで、通話さえできれば、通話途中でブツブツ音が切れたり、ひどいノイズが入って聞き取れない、という経験はほぼないのではないかと思う。

『生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像』

ゲノムとは、生命の設計図を記したDNAであり、DNAはデジタルデータなのだった。デジタルデータは「ノイズ耐性が強い」とは一体どのようなことなのだろうか。本書では「アナログ通信」と「デジタル通信」の違いに基づきこの問いに答えている。

アナログ通信では信号を「そのまま」送っていた。たとえば、音声の場合、なんのことはない、電波を使った糸電話にすぎなかったわけだ。だが、糸電話の糸を伝わる振動と違い、この世界には電磁波が溢れている。送信された音声波形と一緒に、受け取り側は遠くで鳴った雷の余波とか、周囲の電磁機器が発する電磁波とか、地球の外からやってきた荷電粒子が空気に突入して気体分子をイオン化させたときに発する電磁波とか、およそありとあらゆる起源の電磁波をスピーカーで再生してしまう。これでは高品質の通信など望むべくもない。

『生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像』

アナログ通信とは、信号を「そのまま」送る通信方式。音声は物体や空気を伝わる振動であり、振動には波形、つまり強弱がある。その波形をそのまま伝えていくのがアナログ通信。

波は互いに重なり合い、干渉する性質を持っている。二つの波が重なると急に激しくなったり、逆に打ち消しあう。「そのまま」を伝えることは一見、便利なように思えて、この干渉しあう性質が作用することで不便が生じるというのは逆説的で興味深い。

デジタル通信はまったく異なった戦略を取る。まず、波形を数字に変換する。どんな波形も横軸を時間、縦軸を変位にしてプロットすれば数字の列で表現できる。次にこの数字を整数で近似する。十分桁が多い整数で近似すれば、どんな実数もそれなりの精度で表現できる(たとえば、人間の耳では区別できないくらい、とか)。最後にこの整数を二進数に直して、そこで初めてオン、オフのパターンを送る。なんのことはない、モールス信号である。デジタル通信はアナログ通信と違って、オンとオフの二通りしか送らない。モールス信号でトンとツーの区別がそれほど難しくないように、デジタル通信ではオンとオフの区別が不明になるほどのノイズが入らない限り、通信内容が変わったりはしない。だから、通話品質が高くなる。

『生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像』

デジタル通信は「波形を数字で近似する」通信方式。数字に変換してから、その数字を送信して受信側で数字を波形に復元する。ひとまず数字に変換することで、数字が大きく変わってしまうほどの干渉、影響を受けなければ、元の情報が損なわれることなく伝わる。

デジタルというのは一見すると数字の羅列で何のことか分からないかもしれないが、それを元の形に復元すること、再解釈することで本来の意味を取り戻す。まわりくどいように思えるけれど、回り道をすることが返って近道だったりすることに近いな、と感じた。


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