誰にでも凸凹はある。「働きたい!わたしのシンポジウム」で感じたインクルーシブな社会実現にむけて、町工場ができること
株式会社スリーハイでは日本の企業数の99.7%を占めるといわれる中小企業の発展的未来のために、小学校から大学まで各年代の教育機関や、地方自治体で講演やイベントを行っています。
今回は、9月6日(金曜日)に横浜市役所で行われた「働きたい!わたしのシンポジウム」にて、スリーハイで障害者雇用をテーマにお話しさせていただきました。
シンポジウムの内容は、こちらのyoutubeから視聴いただけます。本noteでは、私、男澤がお話した部分を抜粋してお伝えします。
「働きたい!わたしのシンポジウム」について
「働きたい!わたしのシンポジウム」は、障害者就労に関する普及・啓発事業として平成16年度に「障害者就労シンポジウム」として始まり、平成19年度の第4回目に「働きたい!あなたのシンポジウム」に、さらに平成29年度の第14回からは「働きたい!わたしのシンポジウム」と名称を変え、毎年開催されています。
開催当初は、企業への雇用も限定的で職業訓練ができる場も少なかったため、訓練機関の紹介や働く知的障害のある方の講演が中心だったそうです。その後、訓練機関や企業で働く障害者が増え、平成30年度からは精神障害者も障害者雇用促進法の対象となり、より障害のある方に対して雇用の機会が広がりつつある中、時代の変遷と共に毎回テーマを変えながら、現在に至っています。
働き方の多様化が進む昨今、誰もが自分に合った働き方を見つけて自立した生活を送れる社会の実現が重要性を増しています。
私自身、法定雇用率の達成だけでなく、多様な人材が活躍できるインクルーシブな社会の実現に向けて、企業として積極的に取り組んでいくべきだと考えています。だからこそ、今回のシンポジウムには経営者としてもとても関心を抱き、お話させていただくことを決めました。
スリーハイの会社・事業紹介
引用:https://www.threehigh.co.jp/about/
本題に入る前に、当社の事業について紹介させてください。私のnoteを読んでくださっている方はすでにご存じかと思いますが、スリーハイは、産業用ヒーターを製造する、横浜市都筑区にある町工場です。
ジェットコースターや電車のレールの凍結防止、洗面台の鏡の結露防止・曇り止め、レストランで使う調理用保温ヒーターなど、なかなか表にはでてきこないかもしれませんが、私たちの生活のあらゆる場所・あらゆる用途でスリーハイの製品が使われています。
なぜ、中小企業の障害者雇用が重要なのか
この表は、文部科学省が行っている調査結果です。通級による指導を受けている児童生徒数の推移で、年々増加していることがわかります。
ここで課題になることが、この指導を受けている生徒・児童が卒業したあとの働き先です。高等学校までは指導を受けられるかもしれませんが、社会にでたあとは、どうでしょうか。
今年の4月に障害者の法定雇用率が改定になっていますが、障害者雇用の受け入れ先の大部分は、大企業です。日本の企業数の99%は中小企業ですが、人数が少ない中小企業にとって、障害者雇用に向けた環境整備には様々なハードルがあるため、なかなか進んでいないのが実情ではないでしょうか。
中小企業は日本の産業を支えるとともに、地域の雇用をつくっていくということも重要な使命です。障害のある方が地域で働くことができる場をつくっていくということは、私たちのような地域で生きる中小企業がなんとかしていかないといけない、と思います。
従業員42名のうち、障害者2名が活躍
スリーハイの事業成長を支えているのは、現在42名いる従業員です。スリーハイは製造業としては珍しく、42名のうち7割を超える女性メンバー(社員・パート含む)が活躍しています。
2017年から「障がい者”challenged”」として障害のある方の採用をはじめ、現在でも2名の仲間が活躍してくれています。
社員との話し合いや勉強会開催を重ねて一緒に働くうちに、障害者雇用に対する社内の意識も変わり、障害のある方と働くことは決して特別なことではなくなくなったと思います。
障害者雇用は「自分には関係ない」と思っていた
スリーハイでは、2017年に初めて障害のある方を雇用しました。
正直に言うと、それまで障害者雇用に対してどこか他人事のような感覚があり、心のどこかで自分には関係ないと思っていました。「障害者雇用は企業にとってコストがかかる」「特別な配慮が必要で大変」とさえ思っていたんです。しかし、障害のある方と一緒に働くようになって、私の考えは180度変わりました。
最初にスリーハイの仲間になったのは、現在、当社の断熱ジャケットなど、ミシンで縫う工程を担当してもらっている従業員Kさんです。きっかけは、私の友人で障害者の就労支援をしている方からの紹介でした。
この方は服飾・ファッションの専門学校卒業で、ミシンの扱いに非常に長けていて、技術は驚くほど高いレベル。加えて、デザインセンスも抜群です。これはすごい!ということで、彼女に入社してもらうことになりました。
というのも、当時スリーハイは、断熱ジャケットなど、縫う工程が必要な製品に関する事業を広げていこうというフェーズで、ちょうどミシンが得意な社員を探していたんです。
従業員Kさんには、産業用ヒーターの断熱材の縫製や製品カバーの製作などを担当してもらっています。彼女の丁寧な仕事ぶりは他の社員の模範となり、生産性向上にもつながっています。
一方、Kさんはコミュニケーションをとることや、物事を同時並行で進めることが苦手なので、彼女が集中できるような職場環境づくりを会社ではしています。具体的には、大勢のところでこそこそ話をしない、Kさんが理解しやすいように伝え方を工夫しています。
雇用までには行政のサポートと社内の綿密な準備期間も必要。企業と働きたい障害者が出会う場が少ないことが課題。
2021年には、就労継続支援事業所B型の施設の方との御縁で、現在当社で働いているIさんとの出会いがありました。
最初、この就労継続支援事業所の方は、「事業所でつくった製品を買ってほしい」という営業でスリーハイにいらっしゃったんです。そこで実際に私が事業所に伺ったところ、手先が器用で、集中力が高い人が多かったのです。
もしかしてスリーハイで働ける人がいるのではないか。そこでこの事業所で働く方数人にスリーハイに来ていただき、実際にスリーハイで製造している工程の一部を行ってもらいました。そのうち、スリーハイととても相性がよさそうだったIさんが入社にいたったのです。
Iさんの受け入れにあたっては、就労支援センターの方のサポートもいただきながら、また社内でも働く環境整備のために綿密に打ち合わせをし、インターンを繰り返しながら、雇用に至りました。
ここでみなさんにお伝えしたいことが、Iさんは「君いいね」とすぐ入社したわけではなくて、当社の社員も含めて打ち合わせをし、インターンをして実務経験を重ね、適性をみてから入社したというところです。当社のためにも、Iさんに当社で長く働いてもらうためにも、こういった準備期間は大切だと思います。
Iさんは現在、手先の器用さと集中力の高さを活かして、半導体製造装置に組み込まれるヒーター製造工程で活躍しています。仕事への真摯な姿勢と彼の働きぶりは、周りの社員への刺激にもなっていますね。
企業が障害者雇用を進めることによる、収入面のお話もしたいと思います。
Iさんがいた就労継続支援事業所では、給与ではなく工賃として支払われるので、なかなか経済的な自立が難しいということを聞きました。スリーハイで働けば最低賃金(1,150円、2024年9月現在)ですので、仮に毎日はたらけば18万円以上の月給になります。※Iさんは現在、週2~3回勤務で働いています
障害のある方が企業で働くことで、収入面も安定するのです。しかし、私達企業側としては、障害のある方と出会う場がなかなかない。そこが悩みです。
得意を生かし、適材適所の場を任せることで、従業員の可能性が最大化される
彼らの存在が業績アップに繋がっているといっても過言ではありません。例えば、Kさんが担当している縫製の工程ですが、丁寧な縫製が評価されて、先日Kさんが担当している製品の大型受注がありました。Kさんの技術が高かったことで受注できたと思っています。
Iさんは半導体製造装置に組み込まれるヒーター製造工程を任せていますが、これは当社の売上の20%を占めています。
障害者雇用は決して特別なことではなく、その人の得意を生かし、適材適所の場を任せることで、企業にとっても、障害のある方にとっても、大きなメリットがあることを彼らが教えてくれたのです。
大切なのは「公平」な視点
障害者雇用で時折紹介される話ですが、「平等」と「公平」の違いについて最後にお話したいと思います。
平等とは、すべての人に同じ機会を与えることです。一方、公平は、誰もが同じ結果を得られるようそれぞれの状況に応じて必要な支援を提供することです。
このような図をみたことがある方はいらっしゃいますでしょうか。野球場で、背の低い子どもたちが、フェンス越しに試合を見ようとしている場面を想像してみてください。
「平等」とは、全員に同じ高さの踏み台を与えることですが、それでは一番背の低い人は試合を見ることができません。
右のように、踏み台を身長に合った高さに調整すれば、全員が公平に試合を楽しめますよね。この例え話を聞いたとき、支援とは、個々の状況を理解したうえで必要なリソースを適切に配分することなんだと強く感じました。
障害者雇用においては、まさにこの「公平」な視点が重要です。障害のある方が働きやすい環境を作るためには、特性や状況に合わせたサポートが不可欠となります。「適材適所」という言葉どおりですが、それぞれの強みを活かせるように工夫することで、チーム全体のパフォーマンス向上につなげていくということに尽きると思います。
スリーハイが障害者雇用をはじめて思ったことは、誰にでも得意不得意があるということです。
私自身も得意不得意があります。経営者として、うまくいかずに落ち込むこともあり日々あらゆる課題に直面しています。
そんな中でも、障害のある方と接するようになり、自分の弱さと向き合い克服しようとする気持ちがより強くなりました。同時に、彼らが持つ素晴らしい能力や可能性にも気付かされましたね。ハンディキャップと向き合い活躍している彼らの姿は、私にとって大きな心の励みになっているんです。
障害者雇用は、法定雇用率をクリアしようという、企業にとって単なる義務ではありません。多様な人材を活かし、社会全体を豊かにするための取り組みです。障害という言葉に囚われず、一人ひとりの個性や能力を尊重することこそが、インクルーシブな社会を実現するための第一歩だと考えています。
スリーハイでは、今後も障害者雇用を積極的に推進していきます。そして今後も、障害のある方々が安心して働き活躍できる社会の実現に向けて取り組んでいきたいです。