MIGMA SHELTER活動休止……アイドルの活動にライブ映像ができること……そして“売れる”とは何か?
今日、2024年3月13日に「MIGMA SHELTER(ミグマシェルター)」の無期限活動休止と現メンバーの卒業が発表されました。
私自身は中の人でも、ヲタクでもなく、コロナ禍で無観客ライブ配信が多く行われた2020年7月にライブ配信スタッフとして関わって以来、38回のライブ配信・撮影で付かず離れず見てきた立場です(回数はフェスでの出演も含む)。
今回の発表に関して、プロデューサの田中さんともまだ話しておらず、2024年6月2日にLIQUIDROOMでワンマンがあるということは知ってはいたものの、それがラストだなんて発表を見るまで夢にも思っていなかった立場ですので、ここで書くことは、あくまで個人の見解であることをお断りしておきます。
メンバーたちとともに成長してきた、ライブ配信チーム
MIGMA SHELTERのライブ配信・撮影にこの3年半関わらせていただいた配信チームは、皆が同じ会社に所属しているのではなく、フリーランスや小さな法人でやっている“ひとり親方”的な立場の人々の集合体です。
MIGMA SHELTERの多くのMVを手がけてきた、平井侑馬さんを中心に、スイッチャーとして不肖わたくし加賀が、そのときどきで、カメラマンとして二宮ユーキさん、七五三デーズの水島さん、矢澤さん、フリーの前原さん、migiさんらがイツメンで、スケジュール次第で、周辺のカメラマンが加わるという感じです。
その辺どんなふうにやっているかについては、「RAY」というアイドルグループさんに、二宮ユーキさんとわたくしがインタビューされた記事にくわしいので、ご興味のある方はそちらを読んでいただきたいのですが(恐ろしいことにインタビュー動画もあります)、それぞれにコロナ前からライブ撮影や編集、配信をやってきたメンバーではあったものの、コロナ禍に突入して、一気に音楽系・アイドルのライブ配信が増えたことで、むちゃくちゃ鍛えられたという面は大きいと思っています。
アイドルのライブにおいて、何を見せるか? というのは、過去にもnoteにも書いたり、上記のインタビューでも答えたりはしてきましたが、グループ全体のフォーメーションであったり、決めのソロショットだったり、何を“抜く”べきかの精度は大きく鍛えられたと実感しています。
特にMIGMA SHELTERはステージの照明も暗めで、ステージ奥側のメンバーが歌唱するパートも多いうえ、全体のフォーメーションを見せるべき場面も多いので、一緒にやってきたことで得られた経験はとても貴重です。
また、メンバーも当初の無観客配信という非常にやりにくいなかでも、徐々に表情豊かになっていき、カメラアピールも自然にできるようになっていって、チームとして映像でライブをみせることに取り組めたなぁと、振り返ってエモまっています(思い出して追記しました)。
無観客ならではの演出
2020年にコロナ禍となってからは、MIGMA SHELTERは基本的には無観客配信で主催ライブを行なっていました。そんななかで、無観客ならではの演出にトライしたのが2020年10月29日にライブ配信された“MIGMA SHELTER 無観客ニコ生ハロウィン・レイヴ 「Trip or Treat」”でした。
会場は無観客なのに贅沢にもLIQUIDROOMで、メインフロアはハロウィンらしい装飾が加えられ、バーカウンターのあるロビーはリビングのような空間として演出、布で作られた大きなトンネルでそれぞれを結び、MCパートは“リビング”で、当時お休みしていたメンバーのナーナナラさんが電話ほか(!)で参加したりといった趣向を凝らしたものでした。技術的な不備もファンのみなさんには「ネタ」に昇華してもらえたのが幸いでしたが、さまざまな技術的な挑戦も行いました。
観ていただいたみなさんが多くのギフトを投じていただいたおかげで、現在もアーカイブがご覧になれますので、よかったらぜひご覧ください。
SDカードでのライブ映像の終演後物販での販売
2020年は、ニコ生さんで配信されたとき以外は、基本はZAIKOでの有償配信だったのですが、2021年に入って、主催イベントも有観客で行えるようになった時点で、トライしたのが、SDカードによるライブ映像の終演後物販での販売です。
おそらく最初に実施したのが、2021年2月28日に開催された“NANANARA COMEBACK RAVE- MIGMA SHELTER「Hyper Bridge!!」”です。
Blackmagic DesignのDuplicator 4Kという1台あたりSDカード25枚に同時に「録画」できる装置によって、終演時点でその日のライブ映像の複製が「終わっている」というかたちで実現しています。現在は5台のDuplicator 4Kを利用して、ライブごとに100枚のSDカードを用意しています。計算上5台あれば125枚用意できるのですが、実際には多くの実験や実地での運用で、装置のパフォーマンスと信頼性のバランスを考えると、1台あたり20枚が限界ということで、そのような運用となっています。
やや内容は古いのですが、ご興味があれば、以下のnoteも併せてご覧ください。
こうして、徐々にSDカードを購入してライブ映像を視聴するということがファンの間でも認知されていったことで、後日のライブでの物販や通販での販売などにもつなげることができました。ライブ会場での用意は100枚ですが、AqbiRecの事務所にSDカードを複製する装置を導入したことで、より多くの数を後日の販売用に用意できるようにしています。
YouTube Liveでの無償配信で得られたもの
ZAIKOなどでの有償配信の最大の問題は、配信チケットを買わなければどんな映像と音で観られるのかがわからず、ときとして期待を裏切られることもあるということです。そのため、MIGMA SHELTERの配信では、冒頭のみYouTube Liveで無料配信するというようなこともトライしてきました(以下の例では、途中から画面が極小サイズに)。また、プラットフォームによっては海外から配信チケットが購入できないなどの問題もありました(ZAIKOは海外からの購入にも対応しています)。
そもそも視聴ハードルの高い有償ライブ配信ですが、SDカードで映像を販売できるのであれば、撮影・配信チームの原資もある程度はまかなえますし、配信そのものを無償化するということも充分に考えられます。そんなわけで、2021年後半からは、ライブ配信は無料かつ海外からも視聴できるYouTube Liveで実施し、終演後物販でSDカードで映像を販売するというスタイルが定着していきました。
無料の配信もSDカードも映像は同じではあるのですが、SDカードのほうが画質もよく、アーカイブの公開期限に関わらず観られること、モノとして所有できるパッケージングによって充分成立するものとなっているかと思います。
こうした配信によって、いままでMIGMA SHELTERを知らなかった方がファンになってライブ会場に足を運んでもらえるようになったり、なにげに多い海外のファンにライブを届けられること、コメント欄などを通して、海外ファンの存在が大きく可視化されました。
実際、Facebookには「MIGMA SHELTER & AQBI FANS」というグループがあり、今日現在で350人のメンバーがいて、主に英語で活発な情報共有がなされています。
我々が関わってきたライブのうち、YouTube Liveのアーカイブが残っているものをまとめてみました。一部は、冒頭の無料部分のみとなっています。
ライブアイドルは、どう“売れる”のを目標にするべきか?
多少なりともグループに関わってきた身としては、どうすれば続けられたのか、少なくともメンバーが続けたいと思っている限りにおいて続けられるために、いったい何をしていればよかったのかという答えのない問いについて考えてしまいます。
そのためには目標とする“売れた”という状態をどう定めるか、というところからはじめなければならないのですが、かつてのようにメジャーレーベル&地上波テレビというマスマーケットをターゲットにすればよかった時代と違って、よくもわるくも選択の幅は広いものとなっています。
同じ界隈のイベントに出演していた演者さんでいえば、いまや誰もが名前を知る存在となった「新しい学校のリーダーズ」のように、コロナ禍の中で北米のレーベルと契約し、北米の500人規模の会場でのワンマンや、コミコンなどのフェス出演などの「逆輸入」的な面と、決定打としてのTikTokでのブレイクによって、紅白や多くのTV番組に出るまでにはなったものの、多くのメジャーアーティスト同様、どれだけの人がライブに足を運ぶまでのファンとなったかというと、認知度ほどには多くないことをみると、そもそもライブに行く人は少数派なんだよなということに気付かされます。
自分がファンとして見てきたアイドルグループも、仕事として関わってきたグループも、どのグループももっと“売れて”いいポテンシャルはあり、どこも大好きなのですが、一般的な視点でみれば、決してメインストリームの音楽ではないし、正統派アイドル的なものでもなく、TV的な美味しさがないのも現実です。
そういう意味では、マス媒体向けのアプローチではなくて、それ以外のチャンネルをどうやって開拓するのか、もしかしたら自分達で、ライブアイドルの媒体やファンとの接点となるチャンネルをしっかりつくるべきなんじゃないかというふうにも思っています。Twitterで情報を日々digるほど熱くないファンにとっての情報収集手段(演者サイドからみたら集客手段)ほしくないですか?
また、MIGMA SHELTERのようにコアなファンをターゲットにしたグループこそ、世界中の街、それぞれの場所にはファンは1〜2人しかいなくても、全世界合わせれば多くのファンがいて、それこそ幕張メッセのいくつかのホールをつないで、国籍入り乱れたレイヴのフロアがつくれる世界も可能だったのではないか……などと夢想してしまいます。
世界に売るとなると、現地での流通とかライブの遠征もひとつの選択ですが、映像配信含めて、海外にいるファンとの関係性をしっかり築いて、ここぞというワンマンには世界中からファンが集まるみたいな方向性をもっと掘ることに取り組むべきだったのではと反省しています(実際、来日されているOTAKUもいるんだけれど、もっと増えたらなぁと)。
もちろん、国内にもまだ知らぬ潜在的なファンはいるはずですが、「アイドル」というフォーマットによって敬遠されがちなところを、どうぶち破るかは大きな課題だと感じています。
海外のファン向けでいえば、映像もそうですが英語など多言語での情報発信やチケットや物販の海外からの購入しやすさ、安心して日本のライブハウスに来られるような道筋をつくることはしっかりやっていかないといけないと感じます。
ライブアイドルの世界は、よくもわるくも頻繁に開催されるライブに、毎回来る「おまいつ」によって維持されているところがあるわけですが、そうしたファンが劇的に増えるわけではないですし、通販や配信・コンテンツで普段は在宅で楽しみながら、大きなワンマンなら行くというくらいの温度感のファンの層を世界中にどれだけ増やせるのか……。
自分達がやりたい表現をつらぬきつつ、活動を継続性のあるものにするためにも、ライブアイドルなりの売り方というのを模索し続ける必要がありますし、微力ながら関わっている僕らとしても、何ができるかは考え、取り組んでいかないといけないなと改めて思っています。ちゃんと産業として確立できれば、アイドルの子たちのセカンドキャリアとしての受け皿ともなりえるわけで、それぞれにこの世界で活動している人々がもっと協業しないといけないとも感じます。
とまぁ、まったく答えのないことを、やらなきゃならない確定申告の作業をわきに置いて、つらつら書いているのは、自分にとって実家のようなMIGMA SHELTERがなくなってしまうことに耐えられない気持ちのやり場がないからです。と同時に、MIGMA SHELTERがスタートした2017年当時(そのころは対バンでよく見るグループとしてみていました)、自分が仕事としてもヲタクとしても観ていた好きだったグループがいよいよ残ってないじゃないかという事実に直面して、うろたえています。