既存のビデオカメラやミラーレスカメラをリモートPTZカメラにする
PTZカメラとは?
「PTZカメラ」とは「パン(Pan)」「チルト(Tilt)」「ズーム(Zoom)」をリモートで操作できるカメラのことを指します。ビデオカメラと電動ズームレンズ、電動雲台が一体化した製品で、セキュリティ用途のものから、映像制作・配信などでも使えるクオリティのものまでさまざまな製品が存在しています。多くの製品はシリアル経由でのVISCAプロトコルや、VISCA over IPなどイーサネットを利用した制御に対応し、映像はHDMIやSDI、NDIなどで出力されます。
こうしたカメラは、ステージ上や天井などカメラマンが入りにくい場所に設置したカメラを操作したり、予算や会場の広さ的に、カメラを増やしたいものの有人のカメラを増やせないときなどに活躍します。また、会議場やホールなどの設備として常設されるカメラとして利用されていることも多くみられます。
最近では、比較的安価なPTZカメラ製品も出てきていますが、ソニーやパナソニック、キヤノンなど主要メーカーのPTZカメラはコントローラー込みで考えると、比較的高価格なため導入のハードルがやや高めです。一方では、専用の設計であるため、特定の画角を複数プリセットして、呼び出すことやプリセットの呼び出し時にも自然なカメラワークが可能だったり、1つのコントローラで複数のPTZカメラの制御ができるなどメリットも大きいです。
以下は、ニューヨークの映像機器販売会社として僕らもお世話になっているB&Hによる、PTZカメラの紹介動画です。後半のNAB SHOWでの彼らのブースでの実例では、イーサーネットケーブル1本でPTZカメラの制御、NDIでの映像伝送、PoEでのカメラへの給電なども行われています。
既存のカメラをPTZカメラ化する
一方、手持ちやジンバル、三脚に載せてカメラマンが操作するカメラなどが混在している現場では、他のカメラと機種を揃えて、色味や画質を合わせたいというニーズもあります。また、設備に常設するのではなく、予算や会場、演出によって利用するカメラの構成が異なる場合、できるかぎりどの現場でも同一の機材を共用できると、機材調達的に助かります。
その点では、有人で直接操作ができないPTZカメラではなく、一般的なビデオカメラやミラーレスカメラ、デジタル一眼レフカメラなどをリモート操作できれば、リモート操作が必要な現場でも、有人でカメラが振れる現場でも、同一のカメラやレンズを共用できます。一般的なビデオカメラやミラーレスカメラやそのレンズは、中古市場などでも多く流通しているほか、機材レンタルでの調達もしやすいメリットもあります。
また、カメラごとの映像を録画して、配信とは別に後から編集したいというニーズに対しても、PTZカメラは録画機能を有していないものが多いため、別途レコーダが必要ですが、一般的なビデオカメラやミラーレスであれば、カメラ内録画も可能なのはメリットです。そうしたケースでも、配信のためにスイッチャーに伝送する映像はフルHDで、カメラ内では4Kで録画しておくということも可能です。
そんなわけで、今回のnoteでは、筆者である不祥・加賀が自分の現場で実際に使っている、リモートで既存のカメラをリモート操作する手段として、3つの方法をご紹介したいと思います。
DJIのジンバルRoninシリーズと、TILTAのレンズコントロールシステムNucleus-Nanoを組み合わせたセット
Bescorの電動リモート雲台MP-101と、加賀が開発・販売をしているMP-101無線リモコンキットを組み合わせたセット
ATV A-PRO-1によるROIシステム
筆者は、それぞれを現場のニーズに合わせて選んで活用しています。いずれもメリット・デメリットがありますので、それぞれについて、くわしく見ていきたいと思います。
DJI Roninシリーズと、TILTA Nucleus-Nanoを組み合わせたシステム
DJIのジンバルRoninシリーズ用のスマートフォンアプリ「Ronin」には「Force Mobile」という機能があり、スマートフォンの加速度センサを利用して、スマートフォン本体の動きに合わせてジンバルの向きを制御することが可能です。通信はBluetoothにより行われており、筆者の経験では恵比寿LIQUIDROOMなど、1,000人規模のキャパのライブハウスなどでは、観客がいてもほぼ問題なく使えています。以下のDJI公式の動画(アプリの画面が古いのですが)を見ていただければ、一目瞭然で、まるで手元にあるカメラを振っているような感覚で操作できます(後述する蓄積していく誤差の問題はありますが)。
筆者の場合は、DJI RS2を主に利用しており、カメラはGH4やGH6、α7sIIIなどを載せています。ステージ面、フロアの最前部に置く場合は、GH6であれば、広角端が35mm換算16mmのレンズとしてLEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm F2.8-4.0を活用するほか、YC Onionの電動スライダHOT DOG 3.0にジンバルごと載せて、自動で左右に動きつづけるようにして配置することもあります。レンズのズーム制御は後述するNucleus-Nanoを利用しています。
実際の使用例としては、以下の2つの動画(配信映像からの切り出しです)がわかりやすいかと思います。いずれも、ステージ面の下手(ステージに向かって左側)から撮影しているカメラの映像で、繊細なワークまで可能なことがわかります。特に弾き語りの動画は、里咲りささんがステージ上に座って演奏しているため、有人のカメラではお客さまの視界を遮ってしまうため、無人のカメラが有効です(これでもやや邪魔に感じられるとは思うのですが)。
Roninシリーズにはフォーカスモータが付属していて、ズームリングの制御にも使えなくはないのですが、Force Mobileの場合は、フォーカスモータの制御ができないので、TILTAのレンズコントロールシステムNucleus-Nanoを組み合わせてズームの制御に使っています。これは、レンズ部分に装着したレンズモータで直接ズームリングを動かすしくみです(ズームリング側にもギアを装着します)。コントローラとレンズモータとの通信は、2.4GHz帯の無線ですが、比較的長距離でも制御が可能です。また、Nucleus-Nanoのレンズモータの電源は、RS2本体のUSB Type-Cの端子から給電可能なので非常に便利です。
実際のセッティングでは、手元のビデオ用の三脚(筆者はManfrotto MVH500AHが載った三脚を使っています)に、RS2付属のスマホホルダにiPhone Xを載せて使っています。ここでのiPhoneの動きのスムーズさは重要ですので、ビデオ用のフルード雲台である必要はあります。ただ、載せるのがiPhoneだけですので、そのままだとカウンターバランスが効きすぎるのと、パン棒にNucleus-Nanoのコントローラをつけると、それも完全に崩れてしまうので、ウェイトなどを追加してバランスを取るなどの工夫は必要になってきます。
DJIアプリはAndroid用もあるのですが、少なくとも手元のGoogle Pixel 3a(Android 12)では不安定で、最近は起動直後に異常終了するようになってしまったので、もっぱらiPhoneを利用しています。三脚のパン棒には、Nucleus-Nanoのコントローラをクランプで取り付けて、Nucleus-Nanoのコントローラを持って操作することで、片手でパンチルトとズームが容易に操作できます。
ただし、加速度センサーによって相対的に動かしている関係で徐々に誤差が蓄積していくという問題もかかえています。そこで、Roninアプリ上のForce Mobile有効・無効を切り替える「スイッチ」をタップできる自作の物理ボタンをコントローラのところに取り付けて、iPhoneの向きとRS2の向きが大きくずれたときに、簡単に修正できるようにしています(これについては、別途noteとしてまとめたいとは思っています)。
実際の現場での使用例などについては、以下のnoteもご覧ください。
Force Mobile以外にもあるRoninシリーズの制御方法
そのほか、「Ronin」アプリには、PS4やXBoxのコントローラを使った制御(フォーカスにも対応)ができる機能が搭載されているほか、ジョイスティックでの操作とはなるものの、主に以下の方法があります。
DJI純正の「DJI Ronin 拡張ベースキット 」に含まれる「DJI Ronin テザー制御ハンドル」による有線でのリモートコントロール
フォーカスモータの制御などにも対応。対応しているカメラであれば、絞りなどの制御もできるらしい
TILTAの「RS 2 Remote Control Handle for Advanced Ring Grip」による無線でのコントロール
DJIのフォーカスモータのほか、同社のNucleusシリーズのレンズモータ制御にも対応しているということですが、実際に使ったことがないので、到達距離含めてわかりません
SmallRig「DJI RSシリーズ 無線制御ハンドグリップ 3949」による無線でのコントロール
フォーカスモータの制御には非対応。実際に使ってみたところでは、屋内・屋外含めて、30m程度でも問題なく利用できる(上記のnoteでも触れています)
ただ、いずれも、小さなジョイスティックによる操作となるため、Force Mobileのように直感的ではなく、スムーズなワークには限界があるのは否めません。
あと、DJIはきちんと対応機種として紹介はしていないのですが、Force Mobileと同様に加速度センサによる制御に対応した純正コントローラ「Force Pro」が販売されており、RS2などでも使えるとのことで、試してみる価値はあるかもしれません。こちらはForce Mobileより長距離届くとされる無線での制御のほか、有線での接続にも対応しています。これをRS2で利用する場合は、「DJI R フォーカスホイール」が必要とのことです(フォーカスホイールについているS.BUSコネクタにレシーバを接続するようです)。
S.BUSによる制御はいろいろ可能性がありあそう
DJI R フォーカスホイールのS.BUSコネクタを利用した例としては、Sakai Filmworksのサカイアキヒロさんによる以下のプロポでの操作例もおもしろいので、ぜひご覧ください。
S.BUSはサーボモータやラジコン送受信機で有名な双葉電子工業が開発したシリアル通信規格で、共通の信号線で複数のサーボモータを制御できる仕組みです。
S.BUS経由でRoninシリーズのフォーカスモータの制御はできるのか、できないのかわからないのですが(できないらしいという情報もあるが不明)、もしできるのであれば、後述する「MP-101無線リモコンキット」を、Roninシリーズ対応にしてみるのもおもしろそうです。
2022年2月9日追記:S.BUSだけではなくCANバス経由での制御も可能で、少なくともDJI RS2、RS3 Proで使えるCANバス上での「DJI R SDKプロトコル」というのもありました。概要については、以下のnoteでまとめていますのでご覧ください。
ジンバルとしても使えるし、リモート雲台としても使えるRoninシリーズは優秀
DJI Roninシリーズは、ジンバルとしてももちろん優秀ですが、こうしたリモート雲台としての使い方もでき、さまざまなコントロール手段があるので、それぞれの現場に合わせたソリューションを探ってみるのもいいかと思います。
なお、筆者がいまメインで使っているのはRS2ですが、以前使っていたRonin-SCは非力でカメラに接続したHDMIや電源ケーブルのテンションで発狂して止まってしまうこともあり、再起動以外に打てる手がなくなることがあったのですが、RS2にしてからはまったく不安なく使えています。
手元に置かずに操作するので、止まってしまうとどうにもできないので、こうした目的の場合は、ある程度パワーのあるRS2やRS3、RS3 Proなどを利用するのがよいかと思います。
長所1 Force Mobileが使える環境であれば、手元にカメラがあるように三脚を振ることで操作できる(Force Proでも)
長所2 ゆっくりした動きも、速い動きも可能
長所3 Force Mobile以外にも、さまざまな制御方法の選択肢がある(有線・無線含め)
短所1 セッティングにやや時間がかかる
短所2 複数カメラを操作したい場合は、手元にカメラ台数分の三脚とスマートフォン、コントローラ類が必要
短所3 スマートフォンを利用したForce Mobileは屋外では途中に人など遮蔽物があるとほぼ使えない(屋内であれば人が途中にいても20〜30mくらいはいける。おそらく天井や壁面での反射波で通信ができているものと思われる)
カメラ以外にかかる最小予算 約12万3000円〜
DJI Roninシリーズ(RS3の場合、約7万3000円)
TILTA Nucleus-Nano(約5万円・国内版)
スマートフォン(iPhoneがよい) もしくはSmallRig DJI RSシリーズ 無線制御ハンドグリップ 3949(約2万2000円)など
MP-101無線リモコンキットによるシステム
上記のDJI RS2とForceMobile、Nucleus-Nanoを利用したシステムは、ある程度ダンスの動きのあるアイドルのステージでも、比較的戦えるのですが(あまりに速い動きだと、どうしてもワンテンポ遅れる感じで追従は難しいというか、筆者の場合スイッチングしながらの場合が多いせいか、行き過ぎてしまうことも多いですが)、トークイベントやちょっとした画角の調整にはやや大袈裟なシステムであることは否めません。
そこで、紹介したいのは、筆者が開発して、2015年から最初は仕事仲間を中心に販売を開始した「MP-101無線リモコンキット」です。
MP-101は、アメリカのBescorという会社が販売しているリモート電動雲台で有線によって制御する製品です。非常に安価であるため(現在でも130USDくらいですが、円安でやや割安感は薄らいでしまっていますが)、導入を検討された方も多くいらっしゃるかと思います。
筆者も2012年ごろに友人のライブを、小さなライブハウスからワンオペで配信するために購入して、当初は延長ケーブルを自作するとともに、カメラの制御のためにLANCのリモコンの延長ケーブルも併せて製作して使っていました。
しかし、複数台のMP-101を利用しようと思うと、MP-101のリモコンとLANCのリモコンも複数必要で、スイッチャーの操作もしながらリモコンを持ち替えるのはなかなか難しいうえに、1台のカメラあたり2つのリモコンを操作しなければならず、なんとか1つのリモコンにまとめられないか? できるなら低予算で、というのが開発のきっかけでした。
当時は、Ustreamを中心としてライブ配信が立ち上がったころで、まだまだ少ない業界人たちが集まるイベントで試作品を紹介したところ、ぜひ欲しいということで販売を開始。コロナ禍でライブ配信現場が増えたり、半導体部品の入手難で販売を中止していましたが、最近再び製造・販売を再開しています(円安の影響で価格改定はせざるを得ず、さらに割安感は薄まってしまっておりますが)。
2.4GHz帯の無線制御で、屋外であれば100m程度の実績もあり、屋内でも30mくらい、EX Theater Roppongiで舞台袖から後方のカメラの制御ができている実績もあります。1つのリモコンで最大4台のMP-101とカメラを制御することができるのも特徴です。
Bescor MP-101自体は、積載重量は6ポンドまでとされているので、約2.7kgまで載せられることになっています。業務用ビデオカメラの現在の定番のひとつといえるPXW-Z280が本体約2.6kg、バッテリやレンズフード込みで約3.0kgなので、はたしていけるかどうかという感じです(今度試してみたいとは思ってはいますが)。
カメラの制御はLANCないしパナソニックのズームリモコン端子に対応
カメラの制御はLANC、もしくはパナソニックの以前の業務機やGHシリーズ、FZH1のズームリモコン用の端子に対応しています(雲台側ユニットはそれぞれ専用)。
LANCはソニーが開発したビデオカメラ用のリモートコントロール用のプロトコルで、通常は2.5mm径のステレオミニミニジャックでの接続となっていて、各社から提供されているLANC対応のリモコンを使って手元でズームの制御や録画開始や停止の制御ができるもので、以下のようなリモコンが広く入手可能です。
以前はソニーの民生用ビデオカメラでも広く搭載されていましたが、搭載されてもMicro USBをベースとしたソニー独自の特殊形状の「マルチ端子」だったり、それすらも対応しなくなるなど民生機での対応機種はかなり少なくなっています。現行機種では、2017年に発売された民生用ハイエンドモデルのFDR-AX700には2.5mmのジャックで搭載されています(FDR-AX700は兄弟機ともいえる業務機のPXW-Z90が存在しているなど特殊な存在ではありますが)。
現在では、業務用ビデオカメラの多くはメーカーを問わずLANCを搭載しており(そもそも公開されているプロトコルではなく、商標の関係もあるのか、LANCとは明記はされていない場合が多い)、ソニーのRM-BP1やLibec ZFC-Lを利用して、ソニー、キヤノン、パナソニック、JVCの多くのビデオカメラで、ズームおよびREC/STOP、フォーカスの制御が可能です(LibecのZFC-Lのカメラ適合表が参考になります)。MP-101無線リモコンキットでも、動作確認済みの機種では、いずれも操作も可能となっています(すべての機種では確認できてはいませんが、RM-BP1と同様のコマンドを送出していますので、ほぼ問題ないと思われます)。
さらに、MP-101無線リモコンキットでは、キヤノンの独自コマンドに対応し、加えてAF/MF切り替え、HDMIやSDIに出力される映像へのOSDの出力ON/OFFの切り替えも対応しています(HF G10、XA25、XA35などで動作確認済み)。
パナソニックの以前の業務機やGH4、GH5、GH6やFZH1などのリモート端子はLANCではなく、パナソニックの独自仕様で、それらに対応した雲台側ユニットも提供しています。
パンチルトやズームの制御は、ゲームコントローラなどに使われている小型のジョイスティックであるのと、そもそもMP-101自体が細かい速度の制御に対応した設計になっていないため、残念ながら微妙なカメラワークは難しい部分もあります。
筆者も以下に示す「リノベーションスクール」の公開プレゼンテーションでは大いに活用しています。同イベントは、一般的にいえば「ピッチコンテスト」のような形式で、登壇しているプレゼンターに対して、コメントをするアドバイザーが客席側最前部に座ってトークするため、会場後方からと前方から撮影する必要があり、それをワンオペで撮影・配信するために使っています。以下の例で、着席してコメントしている人の映像は、いずれもMP-101と無線リモコンキット、カメラはキヤノンXA25で撮影しているものです。
以下のサイトにて、販売中ですので、ご検討ください!(2023年1月26日現在即納可能です)
本記事読者さま限定期間限定クーポンもご用意!
2023年2月17日まで使える、5% OFFクーポンをご用意しました。お一人さま1回のみご利用可能です。決済時にクーポンコード「ZJ6LGS8Q」をお忘れなくご入力ください!
長所1 1台のリモコンで複数台(最大4セット)まで操作できる
長所2 対応したカメラであれば、ズームのほかフォーカスの操作も可能
長所3 比較的安価(特に複数台のカメラと雲台を使う場合)
短所1 高速な動作はできないほか、微妙な動きについても慣れが必要
短所2 チルト角は上下±15度、左右±170度の範囲に限られる
カメラ以外にかかる最小予算 約7万4000円〜
Bescor MP-101本体(129USドル=約1万7000円)
無線リモコンキット(雲台側26,800円、リモコン29,800円)
ATV A-PRO-1によるROIシステム
これはカメラを制御するのではなくて、カメラ映像の一部を切り抜く「ROI(Region of Interest)」の仕組みのシステムなので、ちょっと毛色が違うのですが、目的によっては非常に有用で、筆者の場合、主に音楽モノのライブ配信の際に、会場全体やステージサイズの映像から寄り引きするズームワークをさせるために使っています。
上記の例では、ステージ面の上手・下手に手持ちのカメラ、後方から主に寄った映像を撮るカメラの3人のカメラマンに加えて、会場後方に置いた2台の固定カメラの映像をA-PRO-1で切り出して、寄り引きのズームワークをさせています。
この日のライブはいまや「ぼっち・ざ・ろっく!」の聖地といったほうが通りがよさそうな、老舗ライブハウス下北沢SHELTERさんからの配信で、チケットもソールドアウトしてかなりフロアに余裕がなかったため、配信チームが使えるスペースはかなり限られており、無人の固定カメラでもズームワークで画に変化がつけられるA-PRO-1の存在は非常にありがたかったのです。
このシステムについての概要も、以下のnoteにまとめていますが、1台のA-PRO-1で、2台のカメラ映像から別々のリージョンを切り出して、独立して2系統出力することもできるので、かなり強力です。
操作については、ATV純正のStream Deck用の純正プラグインのほか、TCP/IPでの制御のコマンドが公開されているので、Bitfocus Companionなどを使った制御も可能です。1080p23.98と1080p24だけは出力できないので、24fpsでの制作の場合は、2160p23.98などで出力してHDにダウンコンバートするなどの工夫が必要となります。
筆者が一緒にMaker Faire Tokyoに出展している、匠音響の池田さんが物理的なPTZコントローラを試作されていたので、もしかしたらそのうち発売されるかも……
長所1 カメラを物理的に動かさないため、4Kさえ出力できれば、カメラやレンズの選択の自由度が高い(単焦点レンズでもズームワークができる)
長所2 Stream Deckによる制御となり、Bitfocus Companionを利用すれば、ROIの操作とスイッチャーの切り替えなどを1ボタンで実施できる
短所1 カメラの映像から部分を切り出すため、4Kのカメラ映像からフルHDを切り出す場合、最大2倍ズーム(画質劣化を受け入れれば、さらに寄ることもできる)でパンチルトの可動範囲は狭い
短所2 人間っぽいワークがしにくい(コントローラ次第)。逆にいえば、常にスムーズなズームワークが可能ではある
短所3 映像の一部を切り出すため、周辺部などを切り出すとレンズによっては収差やその補正の影響で不自然な画となってしまう
短所4 ATV A-PRO-1が1080p23.98、1080p24での出力に対応していないため、24fpsでの制作時は4K(2160p23.98など)で出力してダウンコンバートするなどの工夫が必要
カメラ以外にかかる最小予算 約11万2000円
ATV A-PRO-1(約7万5000円)
Stream Deck XL(約3万7000円)
Stream Deckを繋ぐPC or Mac
もしかして、将来は匠音響の池田さんのコントローラが買えるかも
まとめ
どの現場でも決定版となるようなソリューションはないため(特に僕らのように低予算でやりたい場合には)、現場によって適切なシステムを選んでいるというのが現状ですが、参考になれば幸いです。
上を見ればきりがなくて、大型のクレーンなどと共に使われているPTZヘッドのように、本当に手元の三脚の上にあるカメラを振っているように操作できるコントローラなども存在しますし(加速度センサではないので誤差が発生しない)、ROIやPTZカメラを組み合わせて、登録した人物を自動追尾するようなシステムも登場してきてはいます。
また、ソニーがCinema LineのPTZカメラとしてフルサイズセンサーを搭載し、本体での録画も可能な「FR7」を投入してきたり(価格もレンズキットで160万円超えとなかなかですし、ズーム操作の対応は数少ないパワーズームレンズか超解像ズームのみですが)、PTZOpticsによる「EPTZ Camera」のようにROIでの切り出しで仮想的にPTZ動作をするPTZカメラといったユニークな存在など、今後も、いろいろ新しい製品が出てきそうなジャンルでもあります。
今回紹介しきれなかったのですが、Datavideoの「Robotic Pan Tilt Head PTR-10 MARK II」のように、LANC対応のカメラを「PTZカメラ」にする製品も存在しています。TILTAのNucleus-MとBGH1を併用して、パワーズームではないズームレンズの制御も可能となっているなど、かなりよさげな製品です。
PTZカメラというと、どうしても予算低減のためという雰囲気を醸し出してしまうのですが、お客さんの視界を妨げないためにリモートカメラにしたいとか、演者さんにカメラを意識させたくないとか、小型のジブクレーン上のカメラのワークのために利用したりとか、ステージ上など演出上カメラマンは置きたくないけれど、ちゃんとしたカメラワークをしたいみたいな場面でも活躍してくれます。