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無観客アイドルライブ配信の現場から

現在の厳しい社会情勢のなかで、無観客ライブ配信、すごく増えていますよね(メジャー系は無観客ライブであってもリスクを考慮し自粛されているようですが……)。

僕らも多くの仕事がなくなっている一方で、ありがたいことに無観客ライブ配信のお声かけいただくことが多く、この3月〜4月で無観客のものだけで7案件やらせていただき、まだいくつか実施に向けて進行中のものがあります(いつ中止に転ぶかビクビクしながら準備を進めています)。

僕自身も有料のもの含めていろんな配信を観ているのですが、品質がもうちょっとよければいいのに……という配信も多くて、せっかくステージ上のパフォーマンスがよくて、ファンやたまたま興味を持ってくれた人が時間をつくって観てくれても、充分に魅力が伝えらえないものになってしまっているなぁ、もったいないなぁ、ということもしばしばです。

こうした状況なので、お客さまを入れられなくなったライブハウスさんが自ら配信をはじめたり、いままで映像収録や配信をやってこなかった方々がチャレンジされているのだろうと思いますが、ファンから「やっぱネット配信のライブ映像はいまいちだな」と思われてしまっては元も子もありません。

偉そうに書いていますが、長年映像配信をやってきた僕らも失敗してしまうこともあります。失敗からしか学べないというのも事実ですし、ノウハウを共有して、なんとか、みんなで配信をよいものにしていきたいものです。

どうやったら品質を高く維持できるかというのを、この1つのnoteだけでお伝えするのは無理なのですが、なんらかのヒントになればと、ここ最近の2つのアイドルのライブ配信現場のお話を簡単に(とはいっても、超長文になっちゃいましたが)ご紹介できればと思います。

NILKLY YouTube Live「Abstract」の場合

2020年3月31日(火)に、渋谷TSUTAYA O-Crestさんにて“NILKLY(ニルクライ)”さんの無観客ライブとインターネットサイン会の配信を行いました。

以下はその日の本番直前の18:40ごろのO-EASTさん前の通りの様子ですが、ちょっとショッキングなくらい人がいないんですよね。普段だったら、周囲にいっぱいあるライブハウスでのイベントの開演待ちの人たちでごった返しているこの通りがです……。

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手前味噌ですが、メンバーのパフォーマンスの熱量もすごく高くて、非常にカッコイイ映像となっていると思いますので、まずは配信のアーカイブ映像を観ていただけるとうれしいです。

撮影には多くのライブ撮影などを手がけておられる、二宮ユーキさん、伊藤まさやさん、杉山祐樹さんの撮影チームと、配信音声の担当としてstudioforestaの森田良紀さんに入っていただきました。

森田さんは、レコーディングエンジニアでもあり、moumoonのスタジオライブほか、多くの音楽ライブ配信を手がけておられ、音から撮影、スイッチング、配信まで全部できちゃうすごい人なんですが、その森田さんに音だけをみていただくという贅沢なことをしています。

スイッチングと配信周りの技術については不肖わたくし加賀誠人が担当させていただきました。なにより、こうした状況のなかで、ご尽力いただいたO-Crestのスタッフさんには感謝しかありません。

撮影については、無観客であることを活かして、“最前”に近いところからでもメンバー全員がやや入るくらいのかなり広角寄りのレンズを使い、ジンバルに載せたカメラを伊藤まさやさんが、ダイナミックに寄ったり引いたりして、主にメンバーに寄ったショットを中止に狙うカメラを二宮ユーキさんが担当しました。

ステージに近いところで撮影することで、最前列で観ているかのようなダイナミックな映像になったのではないでしょうか?

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僕のアイドルヲタク仲間で、tipToe.とヤナミューのファン動画にも参加してもらったKSさんが以下のツイートでイイ感じに言い表してくれていますが、まさに「最前で沸いているヲタク視点」ともいえ、無観客でのアイドルのライブ配信の画づくりのひとつのベンチマークになったのではないかなと思っています。

僕は送られてくる強い画をなるべく無駄にしないようにスイッチングに励んでいただけで、画づくりについては、二宮さんの差配によるところが大きいことを申し添えておきます。

配信側で追加したカメラは、どちらかといえば全体を把握するためのカメラで、バトンから吊りもしましたが、実際にはほとんど使っていません。それだけ手持ち含むの有人カメラ3人の画が強かったともいえますが、それでも、いざというときに逃げられる引き画のカメラはライブ配信の場合は絶対にあったほうが安心です。

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ただ、手持ちのカメラのダイナミックな映像に、完全固定の引き画を入れてしまうと見ている側のテンションは急に冷めてしまうので、使うタイミングは選べるなら選びたいですし、今回も可能な範囲ではあるのですが、使うときは左手でスイッチングしながら右手でカメラのズームなどの操作をしていました。

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今回、伊藤さん、二宮さんのカメラについては、自由に動けるように、映像を無線で伝送できる装置を使いました。上の写真に写っているカメラの三脚に受信機を取り付けていますが、こうした装置を使う場合は、受信機を高い位置に設置したほうがよいでしょう(本当ならもうちょっと高くてもいいくらいです)。

無観客なのであまり影響はありませんが、こうした5GHz帯を使う装置は、人体でも障害物となってしまうので、送信機と受信機が見通せるようにしておくことが重要です。また、一部で販売されているものは、国内の認証を通ってないものもあるため、そうした点も確認したほうがようでしょう。

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今回は、Hollyland MARS 400STeradek Ace 500を利用しましたが、前者については、出力された映像信号が1080p60になってしまったため、スイッチャに入れるために、スケーラー内蔵のコンバータLumantek EZ-SHV+を使って、1080i59.94に変換しました。すでに記憶の彼方ですが、もう一台のほうも、変換が必要だったようで、Decimator MD-HXで変換してスイッチャに入れていました。

今回利用したスイッチャである、Blackmagic DesignのATEM Television Studio HDは、システムで設定した解像度とフレームレートの信号しか受けないため、すべてのカメラの信号のフォーマットを合わせる必要があります。持ち寄りの機材でやっている現場などでは、事前にすべてを繋いでのテストもできないため、同様の制限のあるスイッチャを使う場合は、解像度やフレームレートの変換が可能なスケーラー内蔵のコンバータを持っていると安心です。

音については、森田さんのほうで、PAさんからのツーミックスと、フロア後方に立てたマイクで集音した会場の環境音(「エアー」などと呼びます)の音声を、いい感じにミックスしてもらったものを、ATEM Television Studio HDのXLR端子に入力しました。また、配信中もスイッチャーから出力されるスイッチングアウトの音声含めてモニターしてもらいました。

ゆったりとした弾き語りライブとかならある程度余裕はあるのですが、こうしたアイドルのライブのスイッチング中はどうしてもスイッチング以外のことに気が回せないので、音は音で見てくれる人がいるのはとても重要です。また、配信のための音とPAの音はどうしても視点が違ってくるので、配信の音のよしあしで判断して調整する人はぜったいにいたほうがいいでしょう。

本当は、今回のライブでは、曲名のテロップを入れる予定でシステムも素材も準備していたのですが、ちょっとしたトラブルで入れることができませんでした。

というのも、本番直前にスイッチャのコントローラとなる「Live Command 2」が固まってしまい、若干スタートを遅らせ、スイッチャ含めて再起動後に配信開始したことで、スイッチャ側でテロップを入れるために設定していた内容が消えてしまった事故があったからです。

さらに追い打ちをかけるように、Live Command 2は配信開始後すぐに再び固まり、急遽、Mac上のアプリからスイッチングしながら、Live Command 2の復活をトライしたりと、まったく余裕がない状況でした。

そんなこんなで、テロップは入れられなかったため、上記の図にはその辺の機材は入っていませんが、基本的にはスイッチャであるATEM Television Studio HDにテロップ素材の信号を入れてクロマキーで抜いて合成する想定でした。

なお、ライブ終演後は、そのまま「インターネットサイン会」を行い、その様子を配信することになっていたので、そのためのカメラとマイクをあらかじめ別室に用意して、そこからケーブルで配信卓のスイッチャまで映像・音声を送るようにしていました。サイン会の配信の途中で強制的にYouTube側からの処理で配信停止となってしまったため、その後はスマホで配信継続したかたちとなりました。

Google自身のアナウンス(http://g.co/yt-covid19)にも「通常は担当者が手動で実施している審査作業の一部で、機械によって処理を行う割合が増加します。その結果、ポリシーに違反していないコンテンツが誤って削除される可能性があります。」との記載があるように、現在の状況下では、配信イベントの説明文などに、誤解をうけるような外部リンクを置かないなどの対策は必要なようです。

XOXO EXTREME 無観客配信ライブ「And Then There Were Three」の場合

さて、もうひとつは、2020年4月11日(土)に小岩ライブシアターオルフェウスさんより、同じく無観客でライブ配信した、“XOXO EXTREME(キスエク)”さんの事例です。こちらもアーカイブが残っているので、よかったらぜひご覧ください。

こちらは予算的な都合もあって、カメラは基本的に私が持っているキヤノンの業務用ビデオカメラのXA25とXA35合わせて4台とiVIS mini X、撮影に入ってもらったアライユウキさん所有のXA25の計6台でやりきる必要がありました。

XA25とXA35はほぼ同一スペックで、レンズは交換できず、35mm換算で26.8-576mm F1.8-2.8というレンズが搭載されています。普通の撮影ではほとんどの場面で困ることはないものの、「最前で沸いているヲタク視点」の画を撮りたいとなると、もうちょっと広角端がほしいところです。

そこで今回は、手持ちの1台のうちグループショット中心に押さえるカメラには、ワイドアタッチメント WA-H58を装着し、広角端を20mm程度として、なるべく寄れるようにしました(手ブレ補正を有効にしているので、もうちょっと画角は狭くなります)。

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手持ちのカメラはフロア前方に3台、僕の仕事仲間からアライユウキさんともう一人、さらに、オルフェウスの店長さんで、キスエクのバックバンドとしても活躍しているSilent Of Nose Mischiefのベーシストでもある根岸和貴さんにもカメラを持っていただきました。店長の根岸さんはじめ、オルフェウスのスタッフさんには、本当によくしていただいて、感謝の念に堪えません。

音楽モノの配信をしたり、見ていて思うのは、プロのカメラマンであっても、音楽のセンスがない人が撮る映像はグルーヴがいまいちで、音楽やっている人や音楽好きの人のほうが絶対にいいと思っているのですが、今回、店長の根岸さんにカメラをやっていただいて、その思いがまたまた強くなりました。

カメラももちろんですが、スイッチングについても、音楽的センスが非常に重要なんですよね。拍(表でも裏でも)とか小節の区切り、ダンスの動きにスパっとはまると、本当に違和感もなく気持ちよい映像ができあがります(キスエクさんの曲、曲によってはその辺すごく難しくて、まだまだ精進が必要だなと思いましたが)。

カメラについてですが、手持ちのもの以外に、舞台面にかなりの広角寄り、35mm換算で17.5mmのレンズを持ったiVIS mini Xを固定で設置もしていました。いざとなるとこのカメラに逃げられるうえに、けっこういい画が撮れるので、正解だったかなと思います。

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それ以外に配信卓周りにほぼ固定で、たまにスイッチングしながら寄ったり引いたりできるよう手元にカメラを2台設置しました。終演後はバーカウンターのほうで、インターネットサイン会を実施したのですが、そのときは、このカメラのうち1台を移動して対応しました。今回はインターネットサイン会については、SHOWROOMへ同じシステムから送出しました。

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また、今回は配信の音響スタッフをアサインできなかったので、私がその辺も賄うことにしました。実は配信時の音声ですが、PAさんからいただいたツーミックスの右チャンネルの信号が正しくルーティングできておらず、違和感はあまりないものの、本来意図した音にはなっていません(ほんとスミマセン)。

単なるミスなので、リハのときのチェックをしっかりしていれば防げたのですが、理想としてはやはり音声担当はいたほうがいいなと改めて思いました。

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配信管理・音・スイッチング周りがワンオペだったのと、アライさんのカメラ1台以外は全部僕の機材のため、機材量を抑えるために、Macでできる処理はなるべくMac上のソフトウェアで完結するような構成としました。

上記のように音まわりはZOOM H6をオーディオインターフェイスとしてMacに接続し、XYマイクとツーミックスを「Audio Hijack」というソフトウェアといくつかのプラグインでバランスなどを調整、処理したうえで、HDMI経由でスイッチャに入れる構成にしています。

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Macはほかにも、LiveShell Xの操作やYouTube Liveの管理画面の操作をするために使いますし、ATEM Television Studio HDの制御用のソフトなども動かしています。今回はAdobe Auditionを使って、PAのツーミックスとエアーを別々に録音してもいました。

前述したミスの結果、配信での音は意図するものにはなっていませんでしたが、以下の「高画質版」は別途Adobe Auditionで録音していたものに差し替えた音でお楽しみいただけます。有料ですが、売上はすべて会場となったオルフェウスさんにお渡しするということですので、もしYouTubeのアーカイブを観ていただいて、よかったな、もう一回でも二回でも観たいと思ったら、買っていただけるとオルフェウスさんも多少は潤いますので、どうぞよろしくお願いします。

現場での音声信号のやりとり

PAさんから音をもらう場合は、+4dBuのラインレベルで、たいていはXLR端子(キャノン端子)でいただくのが一般的です。では、手持ちのオーディオインターフェイスのXLR端子にそのまま接続するのが正解でしょうか?

アナログの音声信号の伝送には、XLR端子(キャノン端子)、フォン端子(TRS)が使われることが多く、また、信号レベルは、マイクレベルとラインレベルに大きく分けられます。さらにいえば、ラインレベルも業務用音響機器で使われる信号レベルの+4dBuと民生用の-10dBVの2つが存在します。

多くの機器の場合、XLR端子はマイクレベル、TRS端子はラインレベルになっているため、物理的に挿さるからと、XLR端子にそのまま挿してしまうとレベルオーバーで音が歪んで(クリップして)しまうこともあります。

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今回使用したZOOM H6の場合、両方が挿せるコンボジャックが使われており、マニュアルにはマイクはXLR端子に、ライン入力はTRS端子にとの記載がありますが、実際にはXLR、TRSの違いは、ファンタム電源が供給できるかどうかの違いのみのようです。

実際にテストしてみると、ダイナミックマイクをTRS端子とXLR端子のいずれにつないでも同じ音量で取り込め、+4dBuのラインレベル信号についてもいずれの端子で入力しても、後述するPADスイッチが「0(OFF)」の状態だとレベルオーバとなることから、音声レベル的には、どちらに繋いでも違いはないと考えてよいと思います。

ZOOM H6に、+4dBuの信号を入れる場合は、マニュアルにも記載されているとおり、PADスイッチを「-20(dB)」にする必要があります。PADは「Passive Attenuation Device(パッシブ・アッテネーション・デバイス)」の略で、信号を減衰(Attenuation)させる回路です。

ラインレベルの信号をTRS端子に入力した場合でも、マイクの信号をラインレベルまで増幅するためのプリアンプを必ず通る設計となっているため、ラインレベルの信号を入れたい場合は、一旦減衰させてから、再度増幅するかたちになります。

機器によっては、TRS端子はプリアンプを経由しない設計になっていて、マイクはXLR端子にのみ接続でき、ラインレベルの信号はTRS端子に入れなければならないものも存在します。

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こうした接続を失敗して、音声がレベルオーバしているなどの音声不良の配信もたまに見受けられますが、そうしたトラブルを避けるためにも、使用する機材で+4dBuの信号を受ける方法を確認しておき、できれば事前に実験しておくとよいでしょう。

わからない場合は、ラインレベルの信号を入れる場合はTRS端子を使うと考えておけば安全です。XLR端子からの変換ケーブルなども用意しておくとよいと思います(当然ですが、PAさんから信号をいただく場合、必要なケーブルはこちらで用意しておくのが基本です。オルフェウスさんには、LANケーブル含め、すべてご用意いただいて本当にありがたい限りです)。

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今回のシステムでは、ZOOM H6に入力したPAさんからのツーミックスの音声信号とH6のXYステレオマイクの音声を、Mac上のアプリ「Audio Hijack」でミックスして、HDMIのエンベデッド信号で、ATEM Television Studio HDに送っています。デジタルで伝送したほうが音質はよく、レベル調整も容易だからです。音のために、映像入力の1つを潰してしまいますが、この規模の配信では7入力あれば充分でしょう。

なお、ATEM Television Studio HDのアナログ音声入力(XLR端子)は、+4dBuと-10dBVのいずれかを切り替えられるようにはなっているものの、H6のアナログLINE OUT(-10dBVのステレオミニプラグ)をXLR端子に変換して入力するとどうしてもレベルが低すぎるという点もこうしている理由のひとつです。ちゃんと+4dBuで出力できるオーディオインターフェイスを使っている場合は、アナログでスイッチャに音声を入れてもよいでしょう。

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スイッチャ“ATEM Television Studio HD”の制御はどうする?

いずれの現場でも利用したATEM Television Studio HDは、本体のスイッチとメニューでもほとんどの操作はできるものの、音楽モノのスイッチングを本体ボタンでやるのは相当難しいので、なんらかの制御の手段が必要になります。

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もともとATEMシリーズのスイッチャは本体に操作用のインターフェイスを持たないところからスタートしていて、上記のような「ATEM Software Control」というアプリケーションソフト(Windows版・macOS版あり)や、専用のハードウェアのコントローラで制御するような設計となっています。

PCやMacとATEMスイッチャーの接続はEthernet(LAN)で行いますので、最近のMacBook Proなどの場合は、USB接続のEthernetアダプタなどが必要です。専用のコントローラも同じくEthernetでの接続となります。そのため、今回のような現場では、配信に使うインターネット側のスイッチングHUBのほか、ATEMの接続用にもスイッチングHUBを用意しています。

なお、スイッチャ内蔵の「メディアプレーヤー」という機能はあらかじめ登録した静止画などを送出できるものですが、素材は、ATEM Software ControlでMacやPC上のファイルを登録することで行ないます。また、オーディオミキサーの制御など、ハードウェアのコントローラがあっても、操作できない、もしくはしにくい機能もあるため、ATEM Software Controlが不要になることはほとんどありません。

ハードウェアのコントローラとしては、純正のATEM 1 M/E Advanced Panelなどの製品がありますが、ほとんどの機能の操作が可能なのがよい反面、価格もそれなりにしますし、現場によっては「邪魔」というくらいに大きいのが弱点です。

ソフトウェアの「ATEM Software Control」ですが、キーボードショートカットで、入力の切り替えやカットなどの操作ができるので、一番安くあげたい場合は、これが1つの選択肢となります。数字の「1」〜「0」で入力の切り替え(通常はプレビューが切り替わる)、「enter」でオート、スペースキーでカットでのカットの切り替え、「Control」を押すたびに、プレビューを切り替えるのか、指定の入力にホットスイッチするかが選べるようになっています。あとは、品質のいい外付けキーボードなどを用意すれば、そこそこいけると思います。Windowsであれば、サンワサプライのプログラマブルテンキー「NT-19UH2BKN」を使う手もあります(残念ながらmacOSでは動きません)。

macOSであれば、atemOSCOSCulatorというソフトウェアを使って、市販のMIDIコントローラを使って制御する方法もあります。個人的に試した範囲では、BEHRINGER X-TOUCH MINIがキータッチ含めてよい感じです。これについては、別の機会に使い方を紹介してみたいと思います。

以前は、iPadアプリのSTRATA PROを使っていたこともあったのですが、すでに開発は止まっていて、新しいATEMのファームウェアでは使えなくなってしまったので、残念ながら現在では選択肢にはいりません。

理想的には専用のコントローラを使うのがよいのですが、現在のところ選択肢としては以下のようなものがあります。

* SKAARHOJ(スカホイ)社製の製品各種(Air Fly Proだと3,199USドル!)。音声のミキサー周りの制御用の製品もある
* JLCooper ion(国内価格は224,400円、B&Hだと1299.95USドルくらい)

NILKLYの現場でもレンタルして使用した、JUNSさんの「Live Command 2」などがあるのですが、すでに生産終了となっているのと、安定度に難があるため、中古で出回っていてもオススメはしにくいところです。

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NILKLYの現場ではレンタル品のLive Command 2のトラブルに泣かされたので、勢いで、JLCooper ionを買ってしまいまして、キスエクさんの現場で初投入しました。細かい不満はあるものの、全体的に安定していて非常にいい買い物でした。ionの使い勝手などについては、また改めて紹介できればと思います。

スイッチャーのほかの選択肢としては?

僕の場合は、もともと配信をやってきた案件の内容・演出的にWirecastでのスイッチング(一例は以下のnoteでも紹介しています)がこれまで多く、音楽モノの場合は、状況に応じて、Wirecastでやりきるか、ATEM Television Studio HDを持ち込んでいました。今回、JLCooper ionを買ったことで、ATEMの出番が増えそうです。

これから配信をはじめるような場合に、新しくスイッチャを買うとなると、何がいいか? というと非常に難しいのですが、カメラ4台におさまるのであれば、最近発売開始したばかりのATEM mini Proはひとつの選択肢になります。なんせ、レコーダとしてもエンコーダとしても使えますし、USB接続(UVC/UAC)でPCに映像・音声を取り込めるので、Zoomなどのソースにも使えます。すべての機能が同時に使えるわけではないので、その辺どんな感じかは、僕らの仕事仲間でもある井上晃さんによるレビュー「[OnGoing Re:View]Vol.79 機能強化されたATEM Mini Proが登場!」が参考になるかと思います。

あと、オススメできるものとしては、Rolandさんが出されている、VシリーズとVRシリーズのスイッチャがあります(VR-1HDは、音楽モノだとちょっと厳しいですが、ほかはだいたいオススメできます)。

Vシリーズは「Video Mixer」と銘打ち主に映像のスイッチングを中心としたもので(とはいえオーディオミキサーとしての機能もしっかりしていますが)、VRシリーズは「AV Mixer」という位置付けで、映像のスイッチングに加えて、オーディオミキサーとしての操作パネルや入出力もしっかり作り込まれ、かつUSB接続でPCに映像・音声を取り込めるようになっています。ただ、USB周り、ちょっと癖があるような印象があり、環境によってはキャプチャできないこともあったりします。

どれがいいかというのは、目的と予算次第ではあるのでなんともいえませんが、いろいろ妄想して選ぶのも楽しいかと思います。東京であればシステムファイブさんやフジヤエービックさんは、通常時なら実機も展示されているので、実際に触ってみるのが一番なのですが、システムファイブさんは、緊急の注文品の受取り以外はNGという状況ですし、フジヤエービックさんも営業時間の短縮など、製品選びも難しい状況になってしまいました。

配信のコストをどう回収していくのか?

無観客ライブであっても、ライブハウスの使用料、PAさん、照明さんほかスタッフさんの人件費、配信チームの人件費・機材費、当然演者さん自身のギャラや運営上の費用などを回収していかなきゃ継続できません。にもかかわらず、通常のライブならあるチケットの収入もドリンク代も、物販も、ライブアイドル特有の特典会の売上もありません。

今回の2つの配信、NILKLYさんのほうは、スーパーチャット(スパチャ)の可能なチャンネルでの配信だったため、スパチャでの投げ銭とインターネットサイン会での売上が、キスエクさんのほうは、スパチャはできなかったものの、インターネットサイン会での売上とnoteを使った投げ銭を募集してそれなりに売上があったようです。

仮に必要なコストをまかなえ、利益を出すくらいの売上を立てていけたとしても、ファンとしては、やっぱりライブハウスで音圧とフロアの熱気を身体で感じながらライブを観たいし、なんならミックス打ったり……などもしたいし、特典会で推しメンと話したい……さらにいえば、ヲタク同士で、終わったあとに飲みに行きたい……などと考えると、無観客ライブはライブの代わりには絶対になりません。

ただ、無観客ライブを通して、海外のファンが観てくれたり、チャットでコメントを入れてくれたりといった反応があったり、新しく知った人もいたりといった効果もあったり、ファンとしても観続けたい、グループのプロモーションにも繋がる映像コンテンツがアーカイブとして残ったりといい面も少なからずありました。

この辺の話は、キスエクのメンバーの一色萌氏が以下の記事でまとめておられるので、そちらもぜひご一読ください。

再びお客さんを入れてライブができるようになったときにも、ライブ配信も大切な集客手段にして、収益化と表現をちゃんと伝えるためのチャンネルに育っていればいいなぁと思います。

この状況下での無観客ライブ配信の是非

感染防止対策が必要ないまの状況下で、そもそも無観客であってもライブハウスでライブ・撮影・配信をやってよいのか? やるとしたら、そのリスクをどう管理していくべきなのか? という問題も存在します。

東京都が支給するという「感染拡大防止協力金」についても、無観客ライブ配信が「営業」にあたるのか? など、これを書いている時点では不明なのですが、こうした事態が長期化するのだとしたら、リスク管理しながら、うまく続けていく方法は模索しなければならないんだろうなとも思います。

東京都の見解として『一般向け営業を休止した上で、施設を使ってバンドが無観客演奏し、オンライン配信する場合、「三密の状態」を発生させない使用であれば、協力金の支給対象』が示され、ひとまず制度上は実施可能となりました(2020年4月20日18:20追記)。

一方で、無観客ライブ配信を実施する主体がライブハウス自身でなかった場合に「営業」にあたり、協力金の支給対象とならないという情報もでてきました。実際のところは、まだわかりませんが、とにかくできうる感染防止対策をしたうえで実施しなければならないことは非常に大切です(2020年4月21日 15:40追記)

せめて、無観客ライブ配信を続けられればいいなと思う一方で、先日、電影と少年CQさんでやったような自宅からの配信のような取り組みも並行して可能性を追求していく必要はあるなと思っています。

とはいえ、はやくライブができる日が来てほしいですし、そんな日が来たら、きっとエモエモのエモになってしまうんだろうなと思う今日この頃です。先月、ライブ配信をお手伝いさせていただいた、nuanceのプロデューサー、フジPのツイートを最後に紹介して筆を置きたいと思います。



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Makoto Kaga (Project92.com)
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