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音楽モノのライブ配信でのスイッチングの“正解”ってなんだろうか?


以下のnoteでも触れたりしたんですが、ライブ配信が増えてきたなかで、ファンとしていろんなライブ配信を観ていて、映像がイマイチでモヤモヤしていることが非常に多いのです(音楽モノなのに音もダメという致命的なケースもけっこうあるのがツライ)。

同業者や最近ライブ配信を一緒にやっているチームのメンバーともLINEなどでいろんなライブ配信の話になって、「撮影もスイッチングもイマイチだよね」とか「これすごいな、こんなのつくりたいよね」などと話しているんですが、じゃあ、どんな映像ならよくて、どんなのはダメなんでしょうか?

今回は、主にカメラを切り替える、カット割りのタイミングを中心に書きたいと思いますが、「“正解”ってなんだろうか?」とタイトルにはあるものの、実は正解が示せるわけではありません。自分自身も日々模索しているところでもあります。

ただ、あまりにも目に余る品質のモノが溢れてしまっているいま、ライブ配信に関わっている人に、ここから書くような視点で、自分たちのつくる映像について考えてほしいのです。

これまでも何度も書いているのですが、音楽モノの撮影・スイッチングにおいて、音楽の「ビート」を感じて、ちゃんと「ノッていく」ことはすごく大事です。究極的には自らもプレーヤーとなるか、そこまでいかないにしても、音楽リスナーとしていろんな音楽を聴き込むしかないと思っています。

ちなみに、僕自身は、音楽の経験は小学生のころにエレクトーンの教室に通っていたくらい(とはいえ、サボり気味でした)、リスナーとしては、中学以降はフュージョンブームに乗って、いろいろ聴きまくり、気づくと地下アイドルの世界にどっぷりとハマっていたような人間です。また、映像の仕事はしていますが、ちゃんとした教育は受けてはいなくて、あくまで趣味として勉強したりしてきたことをベースにしていることお断りしておきます(映像配信自体は1997年からやっています)。

そんな感じなのですが、さいわい同じクライアントさんから二度三度とお仕事をいただいていたり、配信を観てくださった、普段かなり辛口のヲタク仲間からも「よかった」と言っていただけているので、とりあえずそんなにはハズしていないのかなとは思っています。

とはいえ、もっともっと精進しなければと思う日々ではあります。

そもそもリズムって

音楽とそれに付随する映像をつくるとき、音楽がどう構成されているか? ということを無視することはできません。なかでも、映像のカット割りをどのタイミングでするかにおいて、「リズム」や「ノリ」は極めて重要です。それをある程度理解するには、「拍」「拍子」といった単位(楽譜でいう「小節」で区切られた)や、拍子を構成する「拍」それぞれの強さやつながりを理解しておくのがよいと思っています。

ただ、不幸なことにこの辺の用語をググってみても、正確な情報ばかりではないので、インターネット上の情報ではなくてちゃんとした書籍の情報にあたることをオススメします(配信・音声関係も間違った情報が非常に多いのが現実です)。

ここでは、独断と偏見で一冊の必読書を挙げておきたいと思います。Kindle版ですので、ぜひともいますぐダウンロードして、読んでみてください。

主にギタリスト向けに書かれていますが、この本の「第2章 リズム」は音楽モノの映像制作に関わる人は絶対に読んでおいたほうがよいと思います。

理論的なところは、ここでは説明しませんので、この本を読んでいただきたいのですが、そのなかから、映像をつくるときの考えかたのヒントとなりえる一節を引用しておきたいと思います。

例えば、歩きながら歌を歌うことを考えてみよう。そうした場合、歩くテンポに合わせて歌を歌うのが普通だろう。歩くテンポと歌のテンポが一致していると、とても気持ちが良くてあまり疲れずに歩けるものだ。そんな時には、歩いていることなど意識しなくても、歩くテンポは変わることはないだろう。気持ちが軽快になってきて、歌はますます調子良くなっていく
—— 矢萩秀明 (2017) ギター音楽理論〜ベーシックセオリー編〜 ヤマハミュージックメディア P.51

音楽に合わせて歩くように、音楽に合わせて映像を撮り、スイッチングしていくことが大事だと思います。

なにより、ライブ映像を撮影したり、ライブ配信するのに際しては、対象となるミュージシャンやアイドルの映像や音源を聴き込んでファンとなること、そして、オケを弾いているバンドのメンバーのつもりで「ノリ」にのっていくことが重要じゃないかなと思っています。僕自身は、スイッチャーとして入る場合、座ってスイッチングするのではなくて、立った状態でスイッチャーを操作しやすいセッティングにしてやるようにしています。

拍や拍子を意識する重要性

では、実際の映像で拍や拍子を意識することの意味を見ていきましょう。ここでは、以前も紹介した、ヲタク仲間で撮影して、純粋にヲタクとして編集した「ヤなことそっとミュート(ヤナミュー)」のライブ映像を素材にして検証してみたいと思います。

映像でわかりやすく示すために、ヤマハのiPhone、iPadアプリである「Chord Tracker」を使い、曲の拍や拍子(小節)を可視化して、その画面キャプチャとライブ映像を並べた映像を制作しました。

なお、原曲のコードと合っているかについては未検証で、あくまで拍や拍子(小節)の区切りを可視化するために使っています。右側のiPhoneの画面で1つの行が1つの小節で、1つのマスが拍の区切りです。

まずは、僕自分の感覚だけで編集して、以前YouTubeにアップしたライブ映像から一曲「Reflection」の部分を切り出しただけのものを紹介したいと思います。いま見返すと直したいところもあるものの、そんなに悪くはない気もしますがいかがでしょうか?

普通に観ていただいてもよいのですが、YouTubeの動画再生画面で「一時停止」した状態で「,」キーないし「.」キーを押すとコマ送りできますので、拍や拍子に対してどこでカットを割っているかを確認してみてください。

次に、上記の映像を元に、カット割りしているポイントを、すべて小節の頭(ダウンビート)に調整して揃えたものをご紹介します。

かなりカチっと決まっている印象があるのではないでしょうか? 実際には、4拍目からはじまるフレーズがあったり、曲の「ノリ」を考えると、違和感あったりと、直したいところもありますが、音楽モノのスイッチングをするうえで、小節の頭でカットするのを意識するというのは悪くない方針だと言えそうです。

実際、多くの場合小節の頭でコードが変わることが多いですし、歌詞などの区切りもそこにある場合が多いので、あまり間違ったことにはならなさそうです。

ちなみに、RolandのスイッチャーVR-1HDVR-4HDには、「BEAT SYNC SWITCHING」というビートを検出して小節の頭で自動スイッチングする機能が載っているのですが、それがライブ映像で実用的かはわからないものの、この例を見ると、少なくともVJ用途で考えればかなり実用的な感じしますよね。

さて、最後に拍や拍子(小節)を無視して、ところどころ敢えて、ダメな感じのポイントでカット割りした映像をご覧ください。

これノッテ観ようと思うとツラくないですか? でも、こんな感じのライブ配信、結構多くないでしょうか?

どの映像も切り替えていくカメラのショットの順番は変わっていなくて、あくまでカットを割るタイミングだけを若干変えた映像なんですが、それでも印象違いますよね。

拍や拍子を意識するべきだとしても、実際にライブ配信でスイッチングしていると、あちゃー、間違えたという場面もないわけじゃありません。切り換えたいカメラじゃないカメラに切り換えてしまったとか、切り換えた瞬間にカメラの映像が意図しない画角になってしまったとか……。でも、そんなときも、闇雲にカメラを切り換えてはいけません。

落ち着いて、次のよきタイミングに切りかえるべきカメラを探しておくのがよいでしょう。とにかく、音楽のノリを楽しめなくすることはやっちゃいけないと思います。

なお、アイドルモノの場合、音だけではなくて、こうした拍や小節の区切りとダンスの動きはリンクしているため、拍や小節に合わせることで、ダンスの動きを美しく表現できることに繋がります。

サンプル映像でご紹介したライブの全編は以下でご覧いただけますので、気になった方は観ていただけるとうれしいです。

また、ヤナミューこと「ヤなことそっとミュート」は、上記のライブのあった2019年8月時点ではメンバーが3人でしたが、同12月に凛つかささんというキャラ含めて強力な新メンバーを迎え入れ、2020年3月にメジャーデビューしています。ぜひ、メジャーデビューEPもチェックしてみてください。

自分自身の仕事をレビューしてみる

自分自身もこのnoteを書くまでは、自分の編集した映像やスイッチャーとして関わった映像を分析的にみたことはありませんでしたが、Chord Trackerを使って、いろいろと可視化してみました(Chord Trakcerは4拍子と3拍子の曲のみの対応のため、使えない楽曲もありますし、途中で拍子の変わる曲にも使えません)。

ここでは実際に「Chord Tracker」で解析した画面と合わせたものはご紹介できないのですが、アーカイブが公開されているもの、公開されていないもの合わせて、自分がここ最近スイッチャーとして入ったライブ配信の収録映像を分析してみると、けっこう面白いことに気づきました。

NILKLYの無観客ライブ「Abstract」の映像も含めて、基本的には「小節」の頭でカットを切る意識でやっているのですが、配信された映像は若干「前ノリ」になっていることがわかりました。具体的には5フレームくらい(約0.16秒)小節の頭より前でカットされていることが多くなっています。

その原因ですが、1つはスイッチャに入力している音声信号は、カメラや途中のコンバータなどの処理での映像信号の遅延分を考慮してディレイをかけているのですが、実際のスイッチングは、会場の外音を聴きながら行なっているため、それによるズレが考えられます。また、単に“前のめり”になっている可能性もあります。

もう1つ、やはり感覚的にやっていたことの確認ができたのは、2つのカメラ映像が徐々に切り替わる「ディゾルブ(ミックス)」の操作を「Tバー」でやっているシーンです。

曲や場面にもよりますが、だいたい小節の頭くらいから切り替えはじめて、1〜2小節分で切り換え終えるように意識しているということです(前半、スイッチャーのコントローラがハングアップして、一部Macから操作して「AUTO」でディゾルブしているところはそうなっていませんが)。

ディゾルブでのショットの切り換えは、なんかプロっぽくなったつもりになれるのか多用されがちですが、スイッチャーの「AUTO」ボタンでの切り換えは、適切にトランジションタイム(切り換え時間)を設定しないと、曲のノリとずれてしまうのでオススメしません(もちろん、あらかじめ適切に設定してあれば別ですが)。個人的には、ディゾルブはしっかりした演出上の意図を持ってここぞというときに使うべきだと思っています。

いろんなライブ映像、MVを観てみるのも大事

最初のほうにも書きましたが、ライブ配信をするミュージシャン、アイドルさんのライブ映像、MVなどをしっかり観て、音源も聴き込んで現場に臨むことは大切です。また、Twitterで演者さんのツイートなどをみて、どういうキャラなのか、ファンとの交流や関係性がどうなのかを見ておくと、伝えるべき画、ファンが見たいものが想像できたりもするので、公式の資料以外もみておくとよいのは間違いありません。

また、目指すべきゴールをイメージできるように、日頃からいろんなライブ映像やMVを観て、どんな表現が使われているのかを知り、その感覚を身体的に感じ取っておくのも重要でしょう。

今回のnoteでは、あくまでスイッチングするタイミングのみについてお話しましたが、実際にはどういう画を撮って、どうつないでいくのかもすごく重要です。世にある例を観るのは、そうしたことのヒントにもなり、引き出しを増やしてくれると思います。

残念ながら、メジャーレーベルだからライブ映像も常によいわけではないので、何を観るべきかは難しいところですが、ふたつだけ個人的に観ておくべき例を挙げて終わりたいと思います。

まずは、2002年と古い作品ですが、Michel GondryによるThe Chemical Brothersの「Star Guitar」のMVは外せないと思います。これは、Gondryがフランスのニームからヴァランスの間の鉄道の車窓から、さまざまな時間帯に撮影した映像がベースになっているそうなのですが、ビートに乗って曲を構成するさまざまな音の要素に対応したオブジェクトが画面上に展開するという変態的な映像です。いかに、音楽モノの映像にとって、こうしたグルーヴを表現するのが大事なのかを示す好例です。

あと、純粋なライブ映像の例として、BiSHの「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"」の映像を挙げておきたいと思います。

僕自身は地下アイドルヲタクではあるものの、WACK系はほぼスルーしてきたのですが、これはライブそのものも撮影・編集ともすばらしくて、ぜひ観ておくべきだと思うので、強くおすすめします。個人的にはBlu-rayも買いたいところなのですが、残念ながら初回限定版のみのリリースで、非常な高値になっているのでちょっと手が出ない感じです(この映像を観たあとに、DVDを買うのは負けとしかw)。

特に「GiANT KiLLERS」は曲のスピード感に見事にマッチした映像で、アイドルのライブ映像で重要なポイントもしっかり押さえられているすごいやつです。

どことは言わないのですが、アイドルメインの箱でライブ配信を有料でやっているところがあるのですが、そこの映像は歌割りに合わせてメンバーに寄った画だけで構成されている、かなり残念なやつで、そういうのを真似してはいけません。

もちろん、歌っているメンバーに寄った表情を抜くことはすごく重要なのですが、それと同じくらい他のメンバーの動きや全体のフォーメーションも大事なのが現代のアイドルです。その点、この映像は両方をしっかり押さえているのはもちろん、フロアの盛り上がり、ストリングスの入った生のオケのカッコイイ画もしっかり入っています。

カット割りのタイミングを分析してみると、小節の頭を中心にしているのを基本に、スピード感あるシーンでは、拍ごとにショットが切り替わっています。闇雲に短くカットを切ってしまい、拍に合っていないことで失敗しているライブ配信の例もありますが、これはちゃんと曲のグルーヴを損なわずに、スピード感を出すことに成功しています。

撮影クルーの人数とスキル、ディレクション、機材なども相当な物量が投入されているのは間違いないですし、ライブでのスイッチングでこのレベルに到達するのは相当難しいのですが、目指したい“頂”ともいえます。

同じライブの映像ですが、紗幕を使った演出ともにすばらしいこちらもオススメです。カットとディゾルブの使い分け、使いどころなどの好例ともいえます。

【追記】自分なりの“正解”にたどり着くために

このnoteを書いてツイートした直後に、某アイドルの配信現場でご一緒させていただいたりもしているKeiichi Tsuruta ☬ 憑琉陀ケさんから、早朝というのに、以下のようなリプをいただきました(ありがたい)。

上にも書いたような「試行」と同様、ライブ配信をやっている方には、それぞれのカメラの収録映像をあとで徹底的に編集してみるというのはよいなと思います。実際、僕らもそういう中からみえてきたこと、気づいたことも多いと感じていますから。

【追記その2】音楽モノ以外でも……

さらに引用リツートいただいたツイートを拝見して、音楽モノに限らず、音楽が使われているドラマや映画、ドキュメンタリーなどのコンテンツでもまったく同じことがいえるんだなぁと気づきました。わかりやすい例でいえば、アニメや映画のオープニング、エンディングで気持ちいいやつは、ちゃんと音楽に合わせて映像つくられてますもんね。

僕自身の経験では、音楽が使われていないトークでも、呼吸やトークのリズムみたいなものにハマっていたほうが、気持ちいいなということもあるなぁと思っています。


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Makoto Kaga (Project92.com)
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