
ジャブを撃たれ続けろ
「娯楽」に対する私たちの姿勢は、近年大きく変わってきた。スマートフォンやネットの普及で、手軽で瞬発力のあるインスタントな娯楽が溢れ、どこにいてもその場で楽しむことができるようになった。しかし、こうした「即効性のある娯楽」は刺激的であっても、長く心に残るものは少ない。すぐに消費され、次のコンテンツへと視線が移っていく。けれど、本当の意味で「娯楽を楽しむ」とは、もっと深いものであり、持続性のあるものだと思うのである。
私が提案したいのは、「じっくりと時間をかけて打ちのめされるような娯楽」である。少しずつ自分の価値観や感情に入り込み、気づけば心の奥底を揺るがされるような体験。たとえば、一冊の小説に没頭し、その登場人物の生き方や苦悩が自分の心に重くのしかかってくる感覚。初めは理解しがたい主人公の行動も、ページを重ねるごとに共感や愛着が芽生え、やがてその感情が自分自身を映し出す鏡となっていく。そのような作品に触れることで、私たちは単なる「暇つぶし」を超え、自己探求にまで至るのである。
さらに、こうした深みのある娯楽には「余韻」という魅力がある。長く後を引くその余韻が、何度も作品を反芻させ、日常生活の一部に溶け込んでいく。たとえば、人生において何かに悩んだとき、その作品の登場人物がふと心に浮かんで、自分の選択を問い直す契機になることもある。そうした「心の支え」になる娯楽は、インスタントなものにはない価値である。このような作品が、日常の中に豊かさと深みをもたらしてくれるのだ。
もちろん、インスタントな娯楽にも魅力はある。短時間でのリフレッシュや気晴らしとしては非常に優れているし、私自身もそうした娯楽を楽しむことがある。しかし、それだけにとどまっていては、自分の中に豊かな感情の「蓄積」を持つことが難しくなる。私たちは消費する一方で、感動や経験が流れていくだけの生活を続けてしまう危険があるのだ。だからこそ、たまには「ジャブを食らう」ような、じっくりと自分と向き合える娯楽を選ぶ価値があるのではないだろうか。
私は、娯楽を「消費する」ものではなく「積み重ねる」ものとして捉えたいと思っている。何度も読み返すたびに新たな発見がある小説や、心の奥底を静かに揺り動かすような映画。そうした作品は、表面的な刺激以上の価値を私たちにもたらし、人生に深みを与えてくれる。皆さんも、たまには時間をかけてじっくりと味わい、内なる自分と向き合うような娯楽を試してみてはいかがだろうか。
いいなと思ったら応援しよう!
