小説_『壇上』
この記事は約1分で読めます。
「ご静粛に」
司会の女性が言った。
会場が静かになる。
おれは壇上に立ったまま、会場全体を眺めた。
大勢の人がおれを見ている。
ひとり、ふたり、テーブルの上に並べられた料理に手をつけているものもいるが、多くの人たちはこれからどんな話が始まるのか、ドキドキと待っているようだ。
おれは壇上に置かれた台の上を見た。
そこにはカンペが置かれているはずだった。
この100人ほどの大人たちの前で話すのだ。
何も無い状態で話せというほうが酷である。
しかし台には何も準備されていなかった。
ふたたび、会場を見た。
皆がおれを見て無言のプレッシャーを与えている。
まずはマイクの高さを調整する素振りを見せた。
これで五秒稼いだ。
陸に打ち上げられた魚のように、おれは壇上の上で足掻いていた。
無言の足掻きである。
壇上に上がって一分は経緯したのではないだろうか。
会場に沈黙が響き、居心地が悪くなっている。
もう耐えられなかった。
「みなさん。こんにちは。本日はお集まりいただきありがとうございます」
おれは話しながら次の一手を考えた。
会場が息を飲んだ。
いいなと思ったら応援しよう!
文章って読むのも書くのも面白い。
よかったらSNSなどでシェアお願いします。