「正剛磁場」に引き込まれた高校時代
「編集工学」の提唱や、書籍紹介サイト「千夜千冊」などで知られる松岡正剛さんが8月12日に亡くなった。毎日新聞の追悼記事で知った。80歳。
松岡正剛と聞いても知らない人が多いかもしれない。2020年の「紅白歌合戦」で、YOASOBIが高さ8㍍の巨大本棚でぐるりと囲まれた前でパフォーマンスを披露した。場所は埼玉にある角川武蔵野ミュージアムだ。本棚は本棚劇場と呼ばれ、同館の松岡館長の監修によるもの。
彼が注目されるきっかけは、1971年創刊の伝説の雑誌「遊」の編集長として。私の「出会い」はその数年前。
高校の図書館に、物理に関する面白い本はないかと、たまに足を運んでいた。2年生の67年の夏ごろ、貸出カウンター横に置かれた新聞架にあったタブロイド紙に目が吸い寄せられた。高校生向けの月刊新聞「the high school life」だった。一面に宇野亜喜良の大きなイラストレーション。地方都市の少年は「神聖」な図書館で閲覧していいのか迷うほどだった。寺山修司、澁澤龍彦、稲垣足穂といった突出した人たちの演劇、文学論が毎月載っていた。私の脳には、歯ごたえがありすぎる紙面構成になっていた。正剛イズムの初期値が示された新聞だった。
この時以来、半世紀以上「正剛磁場」に引き込まれたままだ。彼の著作内容は、古今東西の文化・哲学・歴史、宇宙の果てから素粒子の深部まで果てしない。しかも「編集工学」の手法で、これらの相互作用まで表現していた。剛速球や縦横無尽の変化球ばかり。内野へのゴロも打ち返せないうちに、マウンドからふっと消えた。合掌。