[概念] ユーザエクスペリエンス(UX)について
概要:
UXとは「User Experience(ユーザーエクスペリエンス)」の略語です。ユーザエクスペリエンス(UX)はユーザが得られる体験のことです。「Experience」は「体験・経験」といった意味を持つため、「ユーザー体験」、「ユーザー経験」とも訳されます。ユーザエクスペリエンス(UX)については数多くの定義が存在しています。ここではいくつかの定義を紹介するとともに、まず『ユーザエクスペリエンスは、使いやすさだけでなく、ユーザー体験を総合的に捉えること』と定義します。またこの記事ではUXの価値や構造についても紹介しています。
対象者:
エンジニア、デザイナー、ディレクター、PM、マーケター、経営者
1. ユーザエクスペリエンス(UX)の定義
ユーザエクスペリエンス(UX)とは
ユーザビリティとUXについて
【ユーザビリティ】
ユーザビリティの視点では、「ユーザが目標を効率的に満足して達成できたかどうか?」が重要です。
ユーザビリティの評価とは、特定の状況において特定のユーザが、ある製品の目標達成において、『効果・効率・満足度』があるかどうかを評価することです。
【ユーザエクスペリエンス(UX)】
ユーザエクスペリエンス(UX)の視点では、『ユーザが良い体験であったかどうか』が重要です。
ユーザエクスペリエンス(UX)の評価とは、『効果・効率・満足度』の3つの観点に加えて、利用文脈を幅広く捉えたり時間軸を長く見据えたり、感性や感情(情緒なども)の話にまで持ち込んだり、『ユーザの体験の度合い』を評価します。
【ISO 9241-210でのUXの定義】
注釈1:ユーザエクスペリエンス(UX)には、「使用前」、「使用中」、「使用後」に生じるユーザの感情、信念、嗜好、知覚、生理学的・心理学的な反応、行動や達成の全てを含む。
注釈2:ユーザエクスペリエンスは、「ブランドイメージ」、「見た目」、「機能」、「システム性能」、「対話行動」や「対話システムの補助機能」、「以前の経験から生じるユーザの内的・身体的状態」、「態度」、「技能」や「個性」、および「利用状況の結果」である。
注釈3:ユーザの個人的目標という観点から考えた時には、通常はユーザエクスペリエンス(UX)に付随する知覚的・感情的な側面を、ユーザビリティは含むことができる。
【ニールセン・ノーマングループの定義】
【UXPAの定義】
2. ユーザエクスペリエンス(UX)の価値
ユーザビリティを超えて
想像してみて下さい。「メール送信」や「カーナビの目的地設定」がスムーズに完了できるとして、満足度はどれぐらいでしょうか。多くの人は「まあ満足」や「普通」で5段階評価で言えば、平均「3.5」ぐらいーではないでしょうか。競合製品がない市場でユーザビリティが高い製品の場合は「非常に満足」と回答するかもしれませんが、例えばコモディティ化して競合製品が多く、類似商品やサービスが同時に提供され、他社製品との差別化が難しい状況ですと、どの製品も同じような機能になります。その場合は仮にユーザビリティが100点であっても、製品への評価は中程度にとどまります。
「ユーザビリティが最高 = 結果も最高」というわけではありません。
便利で高効率であればいいのか?
実際の施策
大きく迂回してつく時間を2倍にした。それによって顧客満足度が上がりました。なせ?効率悪くなったのに。それはスムーズに出られたからです。
時間稼ぎをしました。早く移動してしまうとバゲッジクレームでの荷物の待ち時間が出来てしまうので、逆手にとって到着する頃にちょうど荷物を受け取れるようにしました。
最大のペインは、時間がかかること以上に、自分自身でコントロールのできない待ち時間を強いられるのが辛いんじゃないのかという仮説。遠いし時間かかるんだけど、着いたら荷物がすぐ受け取れます。状況や立場(コンテクスト)が変わればデザインの正解が変わります。
色々な方法がある中の最もリーズナブルな選択肢、顧客のペインをリジェクトして、すぐにリニューアルできたり、トータルで見てリーズナブルの方法であっただけです。他にも沢山の選択肢を並べた上でこの選択肢を取ることが大事になってきます。
エクスペリエンスの価値
ユーザの「非常に満足」という評価を得るためには、ニールセン・ノーマングループの定義にあるようにユーザビリティを超えたレベルを目指さなければなりません。それを実現している代表例としてよく挙げられるのが『スターバックス』、『東京ディズニーランド』、『iPhone』です。この3つに共通していることは、『顧客 / ユーザに圧倒的に優れたエクスペリエンス(体験)を提供していること』です。
経営面でのエクスペリエンスの重要性
例)コーヒー1杯分の価格
豆の段階(コモディティ)では1〜2セントです。
加工業者が豆を挽いて袋に詰めて店で売る(製品)と5〜25セントになります。
豆を使ってコーヒーを淹れて提供する(サービス)と50セント〜1ドルになります。
同じ品質のコーヒーでも洒落たカフェやホテルのラウンジで提供する(エクスペリエンス)と2〜5ドルになります。
コンテクスト(状況や立場、文脈)が変われば価値が変わる
全米で4位から5位に入ってくるけど、1〜2番には入れない。業界のトップを取るために、イノベーションコンサルティング会社に「顧客体験を考えて欲しい」と依頼をします。施策は何をしたか?全米の空港にカメラを設置して行動観察をしました。
移動のシャトルバスや営業所の手続き所で行動観察をして行動データを取りました。
3時間ぐらい、シャワーを浴びるように見ました。ビデオを見ていると今までレンタカー会社が想像もしていなかった顧客の体験している世界が浮かび上がってきました。
企業から見た顧客経験
予約を取る
顧客を受付まで運ぶ
書類を完成させる
返却手続き
車を清掃させる
顧客自身から見た顧客経験
寒かったら服を変えるなど、荷物の詰め替えを道端でしていました。
その結果、荷物の詰め替え場所や簡易的なシャワーを設置した。
GPSデータを集計すると、9割近くがコンビニに寄ってまずスナックと地図帳を買い、車の中で小腹を満たしながら、疲れをリセットしてました。
その結果、営業所の中にスナックコーナーを作って副収入を増やした。端末で、地図をプリントアウトできるようにしました。
企業は価値提案しかできない(Vergo and Lusch, 2004, p.3)
企業ができることは価値を提案することだけ
『サービスドミナントロジック』という概念で、顧客の感じる価値や体験・経験に焦点を置いた考え方です。
価値提供と価値提案何が違うのか?
3. ユーザエクスペリエンス(UX)の構造・モデル
ピーター・モービル(Peter Moville, 2005)の「UXのハニカム構造」では
UXの要素を以下の7つに分けています。
便利か(Useful)
利用できるか(Usable)
望まれるか(Desirable)
発見できるか(Findable)
信用できるか(Credible)
アクセスできるか(Accessible)
価値があるか(Valuable)
ユーザエクスペリエンス(UX)のモデル
ジェス・ジャームス・ギャレット(Jesse James Garrett, 2003)が提唱した有名なモデルのThe Elements of User Experience
ユーザエクスペリエンス(UX)の構成要素を、
『Strategy(戦略)』、『Scope(要件)』、『Structure(構造)』、『Skelton(骨格)』、『Surface(表層)』の5つとした、UXの5段階モデルを提唱しています。
Web構築時に考慮すべきことは、ユーザにとってのエクスペリエンスであるとしています。
ノーマンの行為の7段階サイクル
ハッセンツァールのUXモデル
UX白書
4. ユーザエクスペリエンス(UX)の期間
UXの対象とする期間
UXの対象とする期間は、一時的UX、エピソード的UX、累積的UXの3種類に分けられます。それ以前のUXは予期的UXです。
一時的UX
インタラクション中に感じる感情の特定の変化
エピソード的UX
特定の利用エピソードに関する評価
累積的UX
特定のシステムをしばらくの期間利用した後の見方
予期的UX
ユーザにとって初めての利用よりも前の期間、上述の3つの期間よりも以前のUX
5. ユーザの使う意欲と利用態度
UXに影響するユーザのモチベーション
インタラクティブ製品のUXに強い影響があることが知られているモチベーション
製品利用の自己効力感(SE:self-efficacy)
製品関与(PI:product involvement)
この2つのモチベーションの組み合わせにより、1人ユーザの製品に対する態度を明確に位置付けることが出来ます。
これは、UXをより詳細に理解するために役立ちます。
製品利用の自己効力感
インタラクティブ製品の場合、自分のやりたいことを実現するために自分で操作したり、取扱説明書を読んだり、トラブルにあった時には自分で対処したりとさまざまな対処をしなければなりませんが、そうした努力をどれくらい頑張れると思うか、と言う自分の能力の度合いが製品利用の自己効力感になります。
製品の操作が苦手な人は、この自己効力感が低く、使いこなせる人は自己効力感が高いことになります。
右の製品関与の測定尺度を使うことで、インタラクティブ製品に関しては、特定の製品によらず製品利用の自己効力感を測定することが出来ます。
※実際には20問あり、7段階の測定尺度で把握します。
評定は、「とてもそう思う(7点)」「まったくそう思わない(1点)」とし、すべての評定値の素点を合計した値を個人の自己効力感得点として用います。
製品利用の自己効力感尺度の項目
電子機器をよく使うために、自分なりに利用法を工夫したりする
やりたいことがあれば、自分から進んで機能や使い方を探す
電子機器が備えている機能のうち、どの機能を使えばやりたいことができるか、大体わかる
トラブルが起こった時、慌てずに原因を推測して、対処の仕方を考える
機能や操作がわからなくなった時、自分で取扱説明書やマニュアルを読んで理解できると思う
もっと効率的な方法や使い方ができないか、調べたり考えたりする
どんな電子機器であっても、自分がやりたいことは操作できる自信がある
電子機器を使うこと自体が楽しいと感じる方だ
どのボタンを操作すればどうなるかが、大体わかるので、操作に不安は感じない
自分には操作が難しいと感じても、あきらめないで、できるまで頑張る
製品関与
製品関与尺度の項目
使う楽しさ
1. この製品を使うことが、楽しいと感じる
2. 自分の趣味や興味に関する製品・サービスである
3. 自分が積極的に使いこなしたり、活用したりする様子を想像できる
4. 自分らしさが反映できる
情報感度
5. 新しい機種が出たら、欲しいと思う
6. 新しい機種が出ると、とても気になる
7. 新しい機種に搭載されている機能について、大体知っている
利用効果の認識
8. この製品を使うとどんな効果が得られるか、想像できない
9. 使い方や利用の仕方が分からない
10. どんな風に使えば、自分のためになるか、想像できない
利用意欲で分かれる4つの利用態度
例)オンラインでの音楽配信サービス
インタラクティブな機器やサービスに対する自己効力感が高く操作が得意な人であっても、音楽そのものにあまり興味がなく音楽配信サービスに対する製品関与が低い場合は、そのサービスを使いこなそうという意欲はわきにくいです。逆に、自己効力感が低く操作が苦手な人でも、音楽好きの人であれば、難解な操作でも製品関与が高くなり、頑張ってでも操作を覚えて使いこなす意欲が湧いてきます。
2つの意欲を組み合わせることで、ユーザの利用態度を分類することができることが分かりました。
そこで、製品利用の自己効力感(SE:self-efficacy)の高・低と、製品関与(PI:product involvement)の高・低の組み合わせで4つのグループに分けると、利用意欲の異なるユーザがどのように製品と関わろうとしているか、利用態度を把握することが出来ます。
この分類法を『SEPIA法』と呼びます。この手法は、インフォーマント(調査協力者)の選定を行い際に用いられたり、簡易なペルソナを作る際のフレームワークとしてUXデザインにも活用されています。
実際、特定のユーザを調査すると、マニアユーザとミニマム利用ユーザを合わせて6割ほどになることが多く、期待先行ユーザや冷静・合理的ユーザがそれほど多くない場合が多いです。
利用行動や評価への影響
6. ユーザエクスペリエンス(UX)とユーザビリティの手法
💡 人間中心の基本の4つ(調査、分析、設計、評価)のプロセスとプラスで(改善、反復)のプロセスに必要になる手法をまとめました。
調査:利用の状況の把握と明示
利用状況の把握
利用状況の調査
アンケート(質問紙)
フィールドワーク
エスノグラフィ
ダイアリー法
インタビュー
分析:ユーザの要求事項の明示
グランデッドセオリー法
動線分析図
シナリオ法
ステークホルダーマップ
カスタマージャーニーマップ(Before)
サービスブループリント
品質機能展開
KJ法
ワークモデル分析
統計解析
提供価値分析 / KA法
UXマップ
設計:要求事項を満たす解決策の作成
コンセプト設計
プリンシパル
発想法
ペルソナ
ビジネスモデルキャンバス
パターンランゲージ
共感型デザイン
参加型デザイン
課題リスト
カスタマージャーニーマップ(ToBe)
ユーザシナリオ
ストーリーボード
機能モデル
アクティングアウト
ユーザーストーリーマッピング
UIクラス図・画面遷移図
プロトタイピング
ワイヤー・UI
評価:要求事項に対する設計の評価
ユーザビリティテスト
ログ分析 / NEM
インスペクション法
シナリオ共感度評価
UXカーブ / UXグラフ
主観評価分析
心理的尺度
生理学的手法
長期的な計画
改善:評価結果をフィードバックして解決案を改善する
テストFB会議
改善計画書
反復:評価と改善を繰り返す
共創
アジャイル開発
反復デザイン