"一番好きな曲を聞かれたら、まず間違いなくこれだね"と、バート・バカラックは言った
「ハル・デヴィッドが書いたいちばん素晴らしい作品で、自分としてももっとも好きな曲であり、音楽史に残る傑作だ」と、作曲者のバート・バカラックがコメントした「アルフィー」。1966年の同名イギリス映画の主題歌として、ハルが作詞、バカラックが作曲した。
映画を観る前から、歌を知っていた。初めて聞いたのは、アニタ・カー・シンガーズのヴァージョン。高校生の頃だから、もう50年以上も前のことになる。そういえば、主題歌の方が有名になり、くり返しカバーされているうちに、映画の方が忘れられている典型的な一曲かも知れない。ならばと、ふと思い立って映画を観てみた。
マイケル・ケイン扮する主人公、アルフィー・エルキンスは身なりだけはスマートなものの、貧しいアパートに暮らしながら、美しい女性を追いかけプレイボーイを気取る女たらしの独身男性。やがて本気で愛する彼女を見出すも、結局のところ「若い男の方がイイ」と言われて捨てられる。ひとりでトボトボと家に戻るエンディングに、「それでいいの?生きるって何だろう?」と問いかけるほろ苦い歌が流れる。それが「アルフィー」だ。
映画のイギリス公開版ではシラ・ブラックの歌唱が用いられ、全英9位を記録。アメリカを含むインターナショナル公開版ではシェールの歌唱が用いられ、全米32位。翌67年にディオンヌ・ワーウィックが歌うシングル盤が発表されると、こちらは全米15位を記録した。
「アルフィー」の歌が好きで得られるものを感じているんだったら、映画を観ない方がいいかもしれないというのが、見終わってのまず最初の感想だった。少なくとも、くり返したくなるような映画じゃないなと思った。だって僕は、アルフィーを可愛らしい女性の名前だろうと、勝手に思い込んでいたからだ。それがこんなにしがない男の名前だったなんて。
ただし、ほどなく気づいたことがある。それはハル・デビッドの歌詞が、映画のストーリーを裏切らず、主題歌としての役割を誠実に果たしていることだった。適度に具体的でありながら、それでいて微妙に映画との距離が保たれている。そのことが、ひとつの歌として独立していく可能性を持たせていることにも思い当たる。バカラックのメロディが持つ力も、素晴らしく大きい。なるほどそうか、やっぱりこの歌は傑作だぞと思った。
とこう書いているうちに、もう一度、映画を観てもいいかなと思い始めた。いや、観たくなってきた。う~む、主題歌って不思議だ。