「クワイエット・ヴィレッジ」で、暑い毎日の納涼を
久しぶりにマーティン・デニーの「クワイエット・ヴィレッジ」を聞いた。1959年に全米4位、16週間ホット100に在位して、ゴールド・ディスクを獲得したエキゾ音楽のオリジナルのひとつとされる曲だ。
定期的に出演していたハワイのホテルラウンジで、デニーのグループが「クワイエット・ヴィレッジ」を演奏していた時のこと。会場近くの池のカエルが大きな声で鳴いた。これを真似しながらデニーがピアノを弾き続けると、会場が大いに湧いた。その後、パーカッション担当のメンバー、オージー・コロンが声色も担当するようになり、積極的に演奏に鳥や動物の声色を織り込んで、ジャングル風味を色付けたエキゾな音楽を演奏するようになったと、伝えられる。
もとはと言えば「クワイエット・ヴィレッジ」は、アメリカのオーケストラ・ポップの音楽家、レス・バクスターのアルバム「リチュアル・オブ・ザ・サヴェージ」収録の一曲。これを取り上げようとバンマスのデニーに提案したのは、オージー・コロンらしい。
ジョゼフ・ランザ著 「エレベーター・ミュージック」 (1994年)では、レス・バクスターを「エキゾティカ・ブームの創始者兼ツアー・ガイド」と記している。同書には「最高!必読の一冊」と、バクスターがコメントを寄せていることもあり、となるとこれにはなかなか異論を唱えにくい。つまりエキゾ音楽の定説は、始祖にレス・バクスター。マーケッターがマーティン・デニーということになるのだろう。
ただしこの意見には、素直に承服しがたい面もある。ひとつには1910年代後期から製作されていたアメリカの秘境映画において、ジャングル描写音楽のサウンドトラックが盛んに用いられていたからだ。例えば、ターザン映画。音楽と現実音(≒現実音風に加工されたサウンド)の組み合わせを、大胆に実現している。ターザン映画は、おそらくアメリカ人の多くが一度は目にしていると思われるほどの大ヒット・シリーズだった。
マーティン・デニーの方法は、ターザン映画のサウンドトラックと似ている。ターザン映画の視聴経験を持つ聴衆には、映像が脳内に喚起されることになるだろう。その一方で、コンパクトにまとめて独創的な音楽エンターテイメントとする点では、はるかに抜きん出ている。
エキゾ音楽が親しまれ普及した背景には、このほかにもいくつかの理由が想像される。例えばステレオとLPを用いる「自宅でエキゾ」の広がり。クラシックは歴史的にエキゾチズムを扱っており、イージー系音楽家はクラシックの素養を持っていた。レス・バクスターがそうだ。世界旅行が一般化し、その旅行先として秘境がよりリアルに浮上して来たこと。1959年にハワイがアメリカの一州として加わるに際して起きた、米国内でのハワイ・ブームなどだ。
今日も暑かった。暑い季節には、亜熱帯の音楽がよく似合う。
まずはひとまず、「クワイエット・ヴィレッジ」で、この暑い毎日の納涼を。
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