川ほどにたくさん泣きなさい
ジュリー・ロンドンが歌う「クライ・ミー・ア・リヴァー」。バーニー・ケッセルのギターに、レイ・レザーウッドのウッドベースのみという渋いバック・サウンドなのだが、なにしろ彼女のヴォーカルが強烈だ。「あなたは寂しくて夜通し泣いたと言う。不実で悪かったと言う。それなのに今頃また、好きだなんて。川ほどにたくさん泣きなさい。私もあなたにさんざん泣かされたのだから」と、女が男を冷たく突き放す。”私を捨てて他の女の元に走ったくせに、今になって泣きながら戻って来て、よりを戻したいなんて冗談じゃないわよ”と、復縁を望む男の身勝手が一蹴される。
1955年にデビュー・アルバム「Julie Is Her Name」(邦題:彼女の名はジュリー)からカットされたシングル盤が発表されると、全米9位にチャート・イン。ゴールドディスクを獲得するヒットとなった。
そもそもは同年製作のアメリカ映画「皆殺しのトランペット」(原題:Pete Kelly's Blues)のために、アーサー・ハミルトンが書き下ろした3曲のうちの1つだった。ところが映画には用いられなかった。
映画に使わないことが決まるや、主演で監督のジャック・ウェッブが、ジュリー・ロンドンに曲を紹介した。このジャックとジュリーの二人、なんと2年前に離婚したばかりの元夫婦だった。
こちらの予告編で、映画の紹介をしているのが、ジャック・ウェッブ。
ジュリー・ロンドンは、1944年から10年ほど、その美貌をかわれ映画俳優として活動したものの、目が出なかった。歌手に転向した第一弾が、ヒットの幸運を得たことになる。
それにしても「川ほどにたくさん泣きなさい」という歌詞がコワイ。こういう歌を聴いていると、アメリカの女性ポップ歌手が歌い描く女性像をさかのぼってみたくなる。
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