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【研究紹介】マタイ効果とマーケティング
今回は、マタイ効果という現象について、紹介したいと思います。
マタイ効果は、「富めるものはより富んでいき、貧しいものはより貧しくなっていく」という効果になります。
もともとは社会学で提唱された概念らしいのですが、最近ではマネジメントやビジネスの観点からも研究成果が発表されています。
では、「富めるものはより富んでいき、貧しいものはより貧しくなる」とは、どういったことでしょうか?
マタイ効果とは?
マタイ効果は、一度高い評価を築いた人が、より有利な環境を得ることができる効果になります。
マタイ効果は、恋愛や教育など、様々なジャンルでみられると言われています。実際に、2014年にManagement Science誌に掲載された論文では、マタイ効果が実証的に分析されています(※1)。
この論文の著者たちは、MLBのストライク・ボールの判定データを用いて、マタイ効果を分析しました。
野球では、球審の誤審として、
①実際はボールの球を、ストライクとコールする
②実際はストライクの球を、ボールとコールする
というものがあります。
この研究では、高い評判を築いた投手(周囲から優れていると思われている投手)は、そうでない投手に比べて、有利な判定をしてもらえるのではないか?ということを検証しています。
実際にMLBのデータを分析すると、周囲から優れていると思われている投手は、実際にはボール球をストライクとコールしてもらいやすい一方、実際にはストライクの球をボールとコールされる確率は低いことが分かりました(※2)。
これによって、一度評判を確立した投手はより有利な立場を築くことができ、そうでない投手との格差が広がっていく可能性が示唆されます。
ビジネスにおけるマタイ効果
では、ビジネスの観点でも、マタイ効果は観測されるのでしょうか。
私が探した限りですが、マーケティング関連の研究において、実証的にマタイ効果を分析した研究はまだありません。
しかし、事例としてはいくつか考えられるものが存在します。
一例として、美容室などにおける指名率が挙げられます。
初めて行く美容院において、指名率ナンバー1という表記のある美容師とそうでない美容師では、前者を指名してみたくなる方が多いと思います。
すると、ナンバー1の美容師はより指名を集めやすくなり、そうでない美容師は指名を集めることに苦労してしまいます。
同じようなことは、他の製品・サービスにも当てはまります。
例えば、「香川で一番売れている」という謳い文句がついたお土産は、そうでないお土産よりも、観光客に手に取ってもらいやすくなるでしょう。
このように、私たちは買い物をする際、「ナンバー1」と聞くと、その製品・サービスの品質が、なんとなく優れていると思い、その製品・サービスを購買する傾向にあります。
すると、ナンバー1の称号を持っている製品・サービスはより販売数が増え、そうでない製品・サービスとの差が広がっていきます。
別の例としては、アイドルにおける「選抜制」もマタイ効果が観測される一例かもしれません。選抜に選ばれたアイドルは、新曲の発表に伴ってメディア露出が増え、より多くのファンを獲得できる可能性があります。一方で、選抜から漏れてしまったアイドルは、人気を獲得するための工夫が必要になります。
まとめ
ここまで見てきたように、マタイ効果は、一度高い評価を築いた人が、より有利な環境を得ることができる効果となっています。
実は、マタイ効果を実証的に分析することは難しいといわれているのですが(※1)、メジャーリーグのデータを使って実証した研究のアイディアは、かなり斬新で驚きました。
今回紹介した研究以外にも、マタイ効果に関する論文はいくつかあるため、関心のある方はぜひ色々と検索してみてください。
※1: Kim, J. W., & King, B. G. (2014). Seeing stars: Matthew effects and status bias in major league baseball umpiring. Management Science, 60(11), 2619-2644.
※2: つまり、投手にとって有利な判定をしてもらえる確率が高いということが言えます。また、野球に詳しい方であれば、打者の影響は?フレーミングの影響は?といった点も気になるかもしれません。そういった点も考慮されているので、ぜひ論文を参照してみてください。