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#2000字のホラー参加小説「オンラインゲーム」

 コンビニで買ってきた弁当を腹に収めたら、PCの電源を入れて、部屋の電気を消す。それから、いつものサイトにログイン。

 俺は社畜のゲーマーだ。

 最近のお気に入りは、うっかり広告バナーをクリックして、偶然見つけたオンラインゲーム「エンカウンター・アンド・バトル」。

 初めて見たときは、「ゲーム紹介サイトでもSNSでも聞いたことがないゲームだし、どうなんだろ」と思ったけど、実際にやってみたらめっちゃ面白くてすぐにハマってしまった。

 一番いいのは、ログインごとの強制ガチャで一緒にバトルするチームが決まるんだけど、毎回いい感じにどのチームも実力が同じレベルになるところ。どういう仕組みかはわからないけど、このチーム設定のおかげで、勝つか負けるかわからいギリギリの勝負になり、毎回絶妙なスリルが楽しめるのだ。

 ログインする度に、「現在ログインしているユーザー数」として四万以上の数が表示されているから、他の人から見ても魅力があるのだろう。

 おかげでここのところ、ずっと寝不足だ。残業で帰るのが遅くなっても、深夜にログインしてしまうから。ゲームに課金したいから、金も節約している。電気代が勿体ないので、電気まで消して暗い部屋でゲームをやっているのだ。

 さて、今日もいい調子だ。

 初めて組んだパーティとは思えぬくらいに、仲間たちとの連携はバッチリで、邂逅するモンスターも敵チームも、次々撃破して、スコアを伸ばしていく。

 しかし、敵のレベルも徐々に上がっていく。

 と、画面に虫が止まった。丁度、スコアやHP値や攻撃値が表示される部分だ。プレイの邪魔になるので払いのけたが、その瞬間に相手に隙をつかれてダメージを喰らった。大事なところで痛恨のミス。致命傷になる前に味方がフォローしてくれたが、大失態だ。その時、通信機能を通じて仲間の一人がこう言ってきた。

「網戸が空いているから虫が入ってくるんだよ」

 ――え? 何?

 振り返って後ろを見ると、PC画面からこぼれる薄い明かりの中、確かに網戸が少し空いているのが見えた。俺は腕を伸ばして網戸を閉めた。

 ……。

 なんだろ。このモヤモヤ。っていうか……え? 何で網戸が空いてるってわかったの? 意味がわかんないんだけど。

 とはいえ、ゲームは続いている。次のバトルが始まった。あ、ヤバいヤバい。俺は思いきりキーを連打し、その拍子にPCがずれて、横に置いてあったカップのコーヒーが零れてしまった。

 と、またしても。

「飲み物をPCのそばに置いておくと危ないよ」

 え……何? ってか、お前ら、誰? 何が起きているの?


 怖くなった俺は、一回ログアウトして、別のユーザー達とパーティを組み直した。

 それでも。

 ゲーム開始早々、同じパーティの奴が言った。

「あれ? ログインしなおしたの?」

 鳥肌が立った。

 一回ユーザー名を変えようか。それとも……。いや、その前に。

「ね、なんで俺のこと知ってるの?」

 思い切って聞いてみた。

 すると、パソコン画面の中の仲間のアバター達が、ざっと一斉に振り返って俺の方を見た。

 銀髪でひらひら衣装の女性、棍棒を持った原始人風のもりもりマッチョ、中世の甲冑を纏い剣を携えた騎士、黒いマントの魔導士、ウサギのぬいぐるみを抱えた小さな子。

 画面の中の全てのキャラクターが、俺の方に顔を向け、ア二メーション独特の、光のない真っ黒い目で、真っ直ぐに俺を見ている。あるいは赤、青、緑色の、どこを見ているのかはっきししない目で、俺を射抜いて来る。

「何だよ……」

 俺がモニタの前で呟いたのが聞こえたかのように、俺の声が合図になったかのように、全員が一斉に身体の向きを変えて、俺の方へと近づいてくる。一歩、また一歩と。

 近づいてくる間にも、アバター達はその数をどんどん増している。どこからともなく新たなアバターが現れ、その群れが大きく膨らんでいく。百、千、万のアバターの群れが、俺の方へとその密度を高めながら詰め寄ってくる。

 そうして、一番近いアバターが俺の方へと手を伸ばしたとき――

「うわひゃぁアアア!」

 叫んだ俺は、画面右上の×印をクリックして、画面を閉じた。心臓がバクバクしていた。それから、PCの電源ケーブルを引っこ抜いた。
 部屋を照らしていた唯一の明かりであるPCの画面が消えたことで、部屋は真っ暗になった。
 俺は立ち上がり、手探りで電気をつけた。誰もいない。何も、特に変わったことは起きていない。それでも、俺は落ち着かない気分で、そのまま布団に潜り込んだ。

 眠れそうもなかった。
 頭の中に、最後の瞬間、画面を閉じる寸前の光景がよみがえってきたから。

 ギリギリのところで、見えた気がしたんだ。ほんの一瞬だったけど。PCモニタから、指先のような「何か」が出て来たのが。

(終わり)

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