『moonriders アンコールLIVEマニア・マニエラ+青空百景』
2022年12月25日 恵比寿The Garden Hallで行われた『マニア・マニエラ』と『青空百景』の完全再現ライブのBlu-Rayを鑑賞。
オープニング、会場脇から客席通路をアコギ一本で「鬼火」(かな?)を歌いながら出てくる鈴木慶一さんというハプニングでスタート。
通路を横切って、会場から捌けると今度はステージには白井良明さんと今回のサポートのオープンリールアンサンブルの3人が。
電子音楽のフリーセッションのような演奏。
この音楽性の振り幅よ!
これがムーンライダーズだ、といきなり見せてくれる。
そして、再度、「X」と書かれたプラカードを頭上に掲げる白井さんを先頭に全員真っ白の衣装でステージへ。
このプラカードは前半の曲間で、終始白井さんが何かのテーマ曲らしきフレーズを口笛で吹きながら掲げることになる。
「X」から「△」「□」、そして最後は「◯」と文字が変わっていく。
うーん、シアトリカルというか何というか。
何か意味があるのか?それとも何も意味を成していないのか!?
謎の深まる演出もこれがムーンライダーズのライブなのか?
なにせ、これまでムーンライダーズのライブを観たことがないので、この演出が特別なのかどうかの判断がつかない。
***
前半は『マニエ・マニエラ』、後半は『青空百景』のアルバム全曲完全再現。
『マニエ・マニエラ』は一度お蔵入りになっている幻のアルバムというイメージがあってちゃんと聴いたことがなかった。
テーマが「労働」で難解すぎるというレコード会社の反対があったそうだが、
それが今の時代にむしろ合っているのかもしれない。
『青空百景』と比べるとポップさよりも前衛的な印象が強い曲が多い。
演奏は、全体的にサポートのエスパー矢口こと矢口博康さんのサックスとオープンリールアンサンブルの3人の効果音がめちゃくちゃハマっていて効いている。
ラストのかしぶち哲郎さん作曲の「スカーレットの誓い」はサポートメンバーとして参加しているスカートの澤部渡さんから歌い出す。
全共闘世代に少し間に合わなかった団塊の世代らしい歌詞だなぁ。
前半のステージを観ての感想は、
ポップとアバンギャルドは同居できる
ということ。
平均年齢70歳近いバンドのこの独創的なサウンドはすごいかも。
前半の『マニエ・マニエラ』が終わり、いったんメンバーがステージ上からはける。
しばらくして、カラフルな衣装にチェンジしたメンバーが再登場して青空百景の後半ステージへ。
サポートメンバーの2人を含むバンドメンバーだけの演奏ではじまる。
『青空百景』はとても思い入れのあるアルバム。
1983年に解散した大阪が誇るバンド、サザンクロスのバーボンハウスでのファイナルライブで、ボーカルの大辻さんが最近ハマっている新譜として紹介していたのが、
エコー・アンド・ザ・バニーメンとこのムーンライダーズの『青空百景』だった。
特にサザンクロスという名前の通り、リトルフィートのコピーバンドとしてアマチュア時代から有名だったサザンクロスと、当時認識していたムーンライダーズのバンドイメージが全く合わなかったので意外だったのだ。
それで、興味を持って聴き始めたらハマってしまったという訳で。
僕にとってのムーンライダーズはだから『青空百景』にはじまって『青空百景』に終わるのです。
後半ステージは、アルバム1曲目の「僕はスーパーフライ」から「青空のマリー」へ。
大好きなアルバムの再現を期待する気持ちが大き過ぎたせいか、
「なんだか緩い演奏だなぁ」
と感じたのが正直な気持ち。
後から思えば、この2曲はバンド編成で演奏しやすい曲なので、スタジオ版アレンジそのままだったのがむしろ逆効果だったのかもしれない。
次の「霧の10m2」はあえてアレンジをライブ用に変えたことが功を奏していた。
イントロの澤部渡さんと白井良明さんが目配せしあってはじめるギターのイントロ、そして白井さんのギターと矢口さんのサックスの間奏のインプロビゼーションが痺れる。
アウトロもカッコいい。
「真夜中の玉子」もスタジオ盤より疾走感あふれる演奏だった。
鈴木慶一さんのボーカルパートがかなり早口過ぎて苦しそうだったぞ(笑)。
前半『マニラ・マニエラ』パートでの曲間のテーマ曲をリプライズしてからの「トンピクレンッ子」へ。
白井さん作曲のノリの良い明るい曲。
ラストいったんサポートの弦2本のアンサンブルになってから再びサビで盛り上がる。
この2曲がステージを通して一番の山場だったかな。
完全再現なので、この2曲をラストに出来ないのがね、少し残念。
「二十世紀鋼鉄の男」はほぼスタジオ盤のアレンジのままで威勢のいい演奏だけど、途中で入る矢口さんのサックスが効いているなぁ。
そして、ラストの白井さんギターソロはなんとクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」のフレーズも出てきてクイーンリスペクトにあふれた演奏が涙。
うん、やはりライブならではの演奏はちゃんとぶちこんでくるベテランだなぁ。
「アケガラス」は澤部渡さんのボーカル。
オープンリールアンサンブルもここで再登場。
スタジオ版ではアウトロでのトランペットが効いていたんだけど、ライブでは再現されていなかったのが少し残念。
「O.K.パ・ド・ドゥ」
これもちょっと演奏が緩かったかな。
「物は壊れる、人は死ぬ 三つ数えて、眼をつぶれ」
ドラマチックな曲調でテンポ的にもライブ再現が難しそうな曲だけど、弦2本とサックスがかなり効いていたから思ったより良かった。
だけど声が全員ハイトーンのところが声が出ていなかったよ。
まぁ仕方ないか。
いよいよラスト曲「くれない埠頭」
これも思い切ってスタジオ盤のモチーフだけ活かしてアレンジを変えて、より一層ロマンチシズムが増した演奏ですごく良かった。
客席一体になってスマホライト点灯が雰囲気も満点。会場で聴きたかったかな。
最後は弦のアンサンブルだけになり、1人づつ退場。
鈴木慶一さんの「どうもありがとう」の後、武川雅寛さんが最後に退場。
再現ライブはスタジオ盤完全コピーを聴きたいものだけど、場合によってはライブならではの違う演奏もいいものだなと再認識した。
アンコールは鈴木慶一さんのアコギ弾き語りでオープニングと同じ「鬼火」。
そしてバンド演奏になり、アウトロもバンドとサポートメンバー全員の即興演奏風で締める。
オープニングとエンディングを『マニラ・マニエラ』でも『青空百景』でもない『モダン・ミュージック』収録の「鬼火」を持ってきたのはどういう意図なのだろう。
コアなファンではないのでわからないけれど何か意味があるんだろうな。
オーラスは鈴木慶一が「さん」付でメンバー紹介。
「本田選手に倣ってさん付けにしました」とのこと。
最後までユーモアのあるおじいちゃんなんだから(笑)。
岡田徹さんが紹介された時、ご本人から「社会復帰までもう一息」というMCも。
体調がおそらく優れなかったであろうに、2時間超えのライブをしっかり演奏されていた勇姿が見れました。
それにしても鈴木慶一さんはかなり老け込んだ印象だったな。
山下達郎さんがほぼ同じ年なので、そう考えたら昨年観た山下達郎さんのライブでのあの姿はやはりバケモノだなと改めて実感したり。
あと白井良明さんのギタリストとしてのスキルと幅の広さに改めて思い知り、さらにギタリストの枠を超えたサウンド。
今のライブのバンドサウンドの中心は白井さんなのかな。
ライブバンドとしてのムーンライダーズ、そして70歳を超えても懐メロなんかにとどまらない現役の表現者としての底力を見せてもらいました。
このライブの翌年、かしぶち哲郎さんに続いて岡田徹さんも逝去した訳だけど、生き残ったムーンライダーズ、まだまだ息の続く限り頑張って欲しい。
言われなくても鈴木慶一さんは続けるだろうな。
自分が言うのはおこがましいけれど、皆さんを見習っていくつになっても表現する心は忘れないでいたいと勇気をもらったライブでした。
やっぱり、リアルで会場で観たかったなぁ。
<了>