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聖公会と聖歌

前回の原稿でも書いたように、まこと保育園の母体は、キリスト教の教会「聖救主教会」です。宗派は「聖公会」。カトリックやプロテスタントと比べると聞き慣れないかもしれませんが、イギリス国教会と呼び方を変えれば、ご存じの人も多いことでしょう。
そのイギリス国教会が世界に広がって、聖公会(アングリカン・チャーチ)と呼ばれるようになりました。立教大学や聖路加病院も「聖公会」の施設です。

聖公会は聖歌を大切にしています。
まこと保育園の子どもたちは、主に朝のお集まりや礼拝で聖歌をうたいます
そうした聖歌は、たとえば「うるわしき朝も」や「おそらでひかる」などで、シンプルで美しいメロディの曲ばかり。子どもたちが屈託なくうたう聖歌には素朴な力強さがあって、聴き惚れてしまいます。
保育者がピアノやオルガンで伴奏すればクラシックっぽく、ギターで伴奏すればトラッドやカントリー音楽っぽくも響くので、「あー、ポップスの源流(の一つ)だなあ」と感じます。

聖公会に限らず、教会での集まりが地元の音楽スクールとして機能しているのも、キリスト教の伝統ですね。演奏の腕やコーラス感覚を子どものころから教会で鍛えたミュージシャンは、いまでも少なくありません。

たとえば、今年(2022年)の4月に新作『ジャスト・ワン・ヴォイス』をリリースした、カナダ人シンガーソングライターのミシェル・ウィリスもそうした一人です。
同作はソウルっぽさとジャズっぽさを持ち合わせたポップ・ミュージックで、歌も演奏も曲もすこぶるつきによい作品。熱心な音楽ファンの注目を集めました。

『ジャスト・ワン・ヴォイス』

彼女はルーツをイギリスにもつ、イギリス国教会の信徒で、幼いころから聖歌隊(クワイア)に入ってうたっていた、聖歌の合唱をとても愛している人です。
なので、聖公会で用いる聖歌集(赤本と青本があるそう)からの自作への影響を、インタビューで熱っぽく語っていました

私は9歳から19歳まで主に教会のクワイアで歌ってきた。歌っていた中で一番大規模のクワイアーは、約20人編成のアングリカン・チャーチ(英国国教会)のクワイアー。13歳頃からはセクション・リードを担当していたから、意識していたかどうかはわからないけど、そこでものすごく多くのことを学ぶことができた。コーラスの世界は私の大好きな場所。そうやってハーモニーを担うことで耳も鍛えられたし、後に知り合ったミュージシャン勢から彼らにそういった経験がないことを聞いた時、ハーモニーのトレーニングを積むことができた自分がいかにラッキーだったかを実感ししたりもした。

もともと私が地元トロントの英国国教会へ通うようになったのは、うちの母がクワイアで歌いたくて、一緒に行くようになったのがきっかけ。英国国教会では賛美歌を沢山歌うから。あの『ブルー・ヒム・ブック』(Blue Hymn Book)のハーモニーは、私のソングライティングに多大な影響を与えている。今でもヴォーカルのコードに取り組んでいる時間が一番好きだと思う。

interview Michelle Willis:『Just One Voice』からクワイア、カナダ由来の影響まで|柳樂光隆 Mitsutaka Nagira|note

彼女がこれまで聴いてきたポップスを土台に作曲しつつ、宗教的な要素もその深部にうまく溶け込ませている。そのバランスが、一定のシリアスさと普遍性を持ち合わせたサウンドを生んでいるのでしょう。これから先も長く聴かれるマスターピースになること間違いなしです。

ウィリスは元バーズ、CSNYのデヴィッド・クロスビーにその才能を認められ、彼のソロ作にもメンバーとして参加。ライヴではたびたび共演もしています。そのことも、彼女のハーモニー感覚の鋭さ、歌唱力の高さの裏付けとなるでしょう。


なお、ウィリスの1作目『シー・アス・スルー』はよりクワイアからの影響が直接的で、アコースティックな響きのコーラスが堪能できます。そちらも良作です。

アメリカを中心に、信仰的な内容を同時代的なポップ・ミュージックにのせてうたうCCM=コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック、というジャンルも存在しますし、宗教と芸術との距離感はその国の歴史や文化とも深く関係していますね。

以上、個人的に聖公会が身近に感じられた例を書いてみました。
まこと保育園にも音楽好きが多くて、行事でバンド演奏を楽しんでいます
(近頃はコロナの影響で自粛中なのがさみしい限り!)

                     (文・まこと保育園 渡邉)

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