ツヤツヤほっぺに道を聞かれた話
明るい日差しの下、道を歩いていたら白いTシャツの男児に声を掛けられた。
「5丁目広場ってどこですか!?」
高くて元気のいい声。
ここは確かに5丁目だ。
小さな広場や公園があちこちにあるのは知っている。
けれど、どれが「5丁目広場」なのかはわからない。
「ちょっと待ってねぇ」と言いながら、男児の前でスマホを開いた。
地図アプリに「○○(町の名)ごちょう…」とフリック入力を始めると、男児も私の指の動きに合わせて「ごちょうめ、ひ、ろ、ば」と言ってくれた。
(音声入力の方が早かったのでは、というのは今気付いたことで。)
「おお、あそこか! 教会の向こうだ。教会わかる?」などと言いながら、アプリが教えてくれた「5丁目広場」に向かって歩き出す。
クセのないツヤツヤの髪と、パンパンに張ったまあるいほっぺたの男児は、よく響く声で友達と待ち合わせしているのだと教えてくれた。
「この辺、公園とか広場とかいっぱいあるよね」と言う私に、男児は「ぼくが行くのは公園じゃなくて広場だよ!」と念を押す。
「5丁目広場、行ったことあるの?」
「うん、2回、パパと! フェンスあるよね!」
「フェンスあるね! ほら、近付いてきたよ。あそこじゃない?」
思わずふたりで走り出し、やがて男児は首をひねる。
「もっと高いフェンスだったけど…」
「違う?」
「違う」
そうかぁ、とつぶやいた瞬間、幸運にも高いフェンスに囲まれた場所が思い浮かんだ。
「あ! もしかして! そこ、野球とかサッカーとかの練習している人いっぱいいる?」
男児の顔が輝く。「うん! ぼくそこでサッカーするの!」
「わかった! ゴメンね、遠回りさせちゃって! お友達、待ってるねぇ」と言いながらUターン。
「たぶん友達も遅れてくるから大丈夫!」と言ってくれる男児と、大きな通りに面したその場所へ向かう。
男児は近くの小学校に通う3年生だと言った。
「そっか! 3年生になったばっかりだね!」と言うと、嬉しそうにうなずいて、担任の先生の話をしてくれた。
やがて「公園」でも「広場」でもなく「遊び場」と名付けられたその場所のフェンスが見えてきた途端、男児は大きな声で友達の名前を呼びながら走り出した。
「気を付けてねー!」私はその背中に向けて声をかける。
友達が一番だ。
もう返答なんか要らない。
けれど、
「ありがとうございましたー!」真っ白な背中から、澄み切った声が飛んできた。
こちらこそありがとう、と思った。
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