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「これ、うちがつくったんです」

ひょんなことからJAPAN MOBILITY SHOW 2023に行くことになった。
前日の昼まで予定になかった。
ニュース番組でその映像を見ても行こうという発想にはならず、「すごい混雑だねぇ」「並んでる人達、大変だ」と口にするばかりだったのだ。
その後たまたま入場券を下さるという方が現われても、「え?行かないよね?あの人混みだよ??」と思っていたのだが、夫は気持ちが乗ったようで、じゃあ折角だから、となった。

前身である東京モーターショーには、若い頃に何度か行ったことがある。
自動車への興味がゼロではないものの、さほど知識も執着もないという立ち位置ではあったが、参加各社が本気で挑む大きなイベントというのは、それだけで面白いものだ。
当時はいろいろな意味で華やかな時代で、ピカピカの自動車の傍らには、ごく小さな布きれで作られたコスチュームを身に着けた、抜群のプローポーションの女性がすらりと立っていた。
女性には、立派なカメラのレンズを向ける男性達が大勢侍っていた。
彼らは車には見向きもしないようだった。
数々の新車の脇、或いは前に立つ女性に向けて熱心にシャッターを切り続ける。
すごい世界だ、と思った。
その近くには、展示された車に大きなカメラを向ける男性達もいた。
もちろん私の目で見ても美しく見栄えの良いフォルムの自動車だ。
けれど彼らの動きは、格好いいから撮るというレベルではなかった。
車のドアと本体の接続部分、車体の下にもぐらないと見えない部分、等々、細かい部分に、カメラのレンズをフォーカスし続けているのだ。
すごい世界だ、とまた思った。

ところで、私は義肢義足等を作る工場(こうば)で、オーダーの医療用コルセットを作っている。
同僚には服飾関係の仕事経験者が多いのだが、中に「東京モーターショーのコンパニオンの衣装を縫っていました」という女性がいる。
「あのビキニみたいな?」「そうです!」
裏話というのは何でも興味深いものだが、それはさておき。
そのビキニみたいな衣装が現地で破れたりほつれたりした時の為に、彼女達はミシン持参で会場に常駐していたと聞いたときには目の覚める思いだった。
華やかな舞台の裏には、必ずそういうひとがいる。

さて、車に関する興味がゆるい私の「東京モーターショー」に纏わる記憶はこの程度のものだ。
こんな私が大人気のJAPAN MOBILITY SHOWに向かったいうのは、行きたくても行けなかった人々には申し訳ないことこの上ない。
とはいえ、無欲とも言えるテンションで行ったからこそ、目にする何もかもが新鮮であり楽しくもあったのも確かだ。

印象に残ったシーンをひとつだけ書き留めておきたいと思う。
それは、人が最も多く集まったであろう、完成車メーカー・次世代モビリティやモータースポーツのエリアではなく、部品・機械器具のエリアでのことだ。
ボディと内装を外しスケルトンのように部品機械を見せた一台の電動車は、自動車を構成する多くの見えない部分をその展示メーカーが担っていることを誇らしげに示していた。
しげしげと眺めていると、こんな言葉が耳に届いた。
「これ、うちがつくったんです」「はい」
声の方に目をやると、ひとりの男性がドア枠のあたりに触れながら、もう一度担当者に言った。
「これ、うちがつくったんです」
その言葉の意味が、伝わったらしい。
当たり障りのない接客モードで微笑んでいた担当者が、深々と頭を下げた。
「お世話になっております…!」
それはそうだ。
まばゆい完成車メーカーがいて、自動車部品のほとんどを手がけていると胸を張る部品機械メーカーがいて、けれど、その部品機械のそれぞれには、更に多くのメーカーが関わっている。

日々私達が作る医療用コルセットも、まっさらなサラン(合成繊維)にパターンをひいてイチから完成品を縫い上げているような気になっているけれど、実のところ、サラン、糸、金属支柱、マジックテープ、等々、他社の「完成品」がなくては何もできないではないか。

普段忘れていることを思い出させてもらった展示場だった。

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