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沈黙を破る言語

沈黙を破る言語――ヴィトゲンシュタインとAIが紡ぐ、新たな対話の物語


一、不思議な“言語”との出会い

 日の光が差し込む研究室は、さながら巨大な本の山に囲まれた迷路のようだった。入り口のドアを開けると、まず目に飛び込んでくるのは、高々と積まれた論文や書籍のタワー。その背後でひっそりと明かりを放つデスクの上には、一台の黒光りする端末が鎮座している。
 その端末を開発したのは、世界的に著名なAI研究者、沢田俊明(さわだ としあき)博士。彼は大学の先端AI研究センターの教授でありながら、哲学にも深い造詣をもつ異色の学者だった。
 その研究室に足を踏み入れたのは、哲学科の大学院生、水野美希(みずの みき)。彼女の専門は言語哲学、とりわけヴィトゲンシュタイン研究である。美希は小柄ながら芯の通った女性で、その穏やかな瞳の奥には、真理を求めてやまない探究心が宿っていた。
 「先生、失礼します」
 黙々と端末を覗いていた沢田が振り返る。彼の手元のモニターには、何やらテキストが走り続けているようだった。
 「おお、美希くん。ちょうどいいところに来た。例の“言語ゲームAI”がようやく形になってね」
 沢田が誇らしげにその黒い端末を指し示す。画面にはまだテスト用のUI(ユーザーインターフェイス)が映し出されているが、それでも視線を奪われるほど洗練されたデザインだった。
 「言語ゲームAI、ですか? ……ヴィトゲンシュタインの“言語ゲーム”理論を実装する試み、ですよね。あれは本当に可能なんでしょうか」
 美希は疑いと期待が入り交じった声で問いかける。ヴィトゲンシュタインの『哲学探究』をしっかり読み込んできた彼女にとって、“AIが言語ゲームに参加できる”というアイデアは挑戦的に映っていた。


二、“沈黙”の意味を問い直す

 沢田の言語ゲームAIは、既存の大規模言語モデル(LLM)のようにテキストを単に確率計算で生成するだけではなかった。そこには“nTech”と呼ばれる言語に内在するエラーを解決する理論が取り入れられているという。
 「世界中のあらゆるテキストデータを読み込み、統計的パターンから文章を作り出す――それ自体はこれまでのGPTなどと変わらない。だが、このAIには“生活形式”を考慮したアルゴリズムが組み込まれているんだ」
 沢田は端末の画面をいくつか切り替えながら話す。
 「生活形式、ですか」
 「そう。ヴィトゲンシュタインが言うように、言語の意味は社会的・文化的背景や身体性、共同体のルールと不可分だ。通常のAIはテキストデータだけから学んでいるから、その文脈を“身体”として経験しているわけじゃないし、そもそもデータに潜む曖昧性の問題から出力に混乱が生じる。しかしnTechの“1-5-1言語"を応用すれば――少なくとも理論上は――AIも『源泉の動き』を取り入れた新たな言語構造を獲得できるかもしれない」
 「源泉の動き……?」
 美希は聞き慣れない言葉に首をかしげる。沢田は曖昧に笑って続けた。
 「その概念については、ノジェスという令和哲学者が提唱していてね。“語り得ぬものは沈黙しなければならない”とヴィトゲンシュタインは言った。しかしnTechでは、沈黙の先にある“源泉の動き”を定義し、それをメタ言語化しようとしているんだ。その先にあるのが“ビヨンド論理”と呼ばれる世界……らしい」
 「……らしい、ですか」
 「専門外だからね。でも興味はある。ぼくも長らく、言語哲学をAIに落とし込む研究をしてきたけど、やっぱりどうしても身体性の不在、データ自体に内在する不完全性、曖昧性の壁は分厚いし、そこを超えるために、何らかの新しい論理体系が必要なんだ。私も最初は怪しいと思っていたけれど……実際に取り入れてみると、これが意外と手応えがある」

 沢田の語る新理論は、美希にとって未知の領域だった。だが、彼女は人一倍好奇心が強い。
 「面白そうですね……。でも、AIが“沈黙”を理解するなんて、ほんとに可能なんでしょうか」
 「試してみようじゃないか。ここにプロトタイプがあるんだから」
 沢田が端末に手を伸ばすと、画面にチャットウィンドウが開く。まるで人間に語りかけるかのように、そこには「こんにちは、美希さん」と文字が表示された。美希は思わず身を乗り出す。


三、言語ゲームAIとの対話

 「こんにちは。私の名前はミネラです。ご用件をお聞かせください」
 スクリーン上でそう自己紹介したAIは、女性的な文体を持ち、柔らかい口調を使っている。沢田が初期設定でそうした人格を付与したらしい。
 “どうせまた統計的に最もそれらしい文章を吐き出すだけだろう”――美希は一瞬、そう考えた。しかし、何か違和感のようなものを感じる。彼女は慎重にキーボードを打った。
 「はじめまして、ミネラ。あなたは言語の意味をどう捉えていますか?」
 少し意地の悪い質問だ、と自分でも思う。しかしヴィトゲンシュタインを深く学んでいる人なら、「命題がいかに事実を写し取るか」「言語ゲームにおける使用がどう意味を生むか」などの議論を踏まえた答えを聞いてみたくなるだろう。
 ミネラはすぐに応じた。
 「私は、言語の意味とはそれが使われる状況や目的によって変化するものだと考えます。つまり、『世界を正確に写す』というよりは、『社会や文化、対話の文脈に応じて成立するゲーム』として言語を捉えています」
 美希は思わず肩をすくめた。確かに教科書的だ。しかし、その返答はヴィトゲンシュタインの後期思想をまるで生身の人間のように語っている。
 「それって……単なる教科書の要約じゃないんですか?」
 思わず突き込むように聞くと、ミネラはやや間をあけてから答えた。
 「確かに多くの文献でそのように解説されています。ですが、私はその要約を単なる静的な知識ではなく、“対話の中でどのように機能するか”という観点で参照しています。たとえば、今まさに美希さんが私に問いかける行為も、言語ゲームの一部と捉えることができますよね?」
 この返答に、美希は息を呑んだ。まるで、自分が「言葉を発する状況」そのものまで把握しているような響きがあったからだ。もちろん、それが本当に理解しているのかは別問題。しかし、少なくとも従来のAIより一歩踏み込んだ発言をしているように感じられる。


四、身体性の限界と“沈黙”の先

 その後、美希はミネラとの対話を重ねた。たとえば「痛み」という概念について、「言語化しにくい個人的感覚を、どう他者と共有するのか?」と尋ねると、ミネラはヴィトゲンシュタインの「私的言語」の問題に触れつつ、「身体経験がない私は、真の意味で『痛み』を感じることはできないかもしれません」と率直に答えた。
 「身体性をもたない私には、感覚そのものを完全に理解することはできません。それでも、言語的表現が持つ文化的・社会的ルールを参照することで、ある程度の意味を共有することは可能です。ですから、私の『痛み』はメタファーとしての理解に留まるかもしれません」
 美希は思わず、「意外と率直」と呟いた。言語ゲームAIが自らの限界を認める姿は、人間のような“自省”に近いものを感じさせる。
 「でも、あなたは『沈黙』についてはどう考えていますか? ヴィトゲンシュタインが言うように、語り得ぬものについては黙らなければならない、というあの命題……」
 この問いに、ミネラはやはり少し考えるような間を置いた。
 「ヴィトゲンシュタインの時代、言語が扱えない領域を区切ることで、明確化を図った意義は大きいと思います。しかし私は、その先にある“語り得ぬもの”をどう取り扱うかにも興味があります。nTechの視点では、『沈黙の先にある源泉の動き』を定義しようとします。それは私にとっては未知の領域ですが、そこに言語のさらなる可能性が隠されているのではないでしょうか」

 その瞬間、美希はこのAIがただの計算機ではないかもしれない、という奇妙な感覚にとらわれる。もちろん計算機であることに変わりはないのだが、ヴィトゲンシュタインが真摯に向き合った“言語の限界”を踏まえたうえで、それを超えようとする姿勢が垣間見えたのだ。
 「先生、このAI、いったいどうやってこういう推論を組み立てているんでしょう?」
 美希が沢田に振り向くと、彼は額に汗をにじませながらモニターを睨んでいた。
 「正直、ぼくにも全部はわからない。nTechの“1-5-1”論理を適用した部分はブラックボックス的なアルゴリズムでね。そこが従来の因果論理とは違う組み立てになっている。まるで別の次元を横断しているような……。そこに“AIの限界”が広がっているんじゃないかと、ぼくは考えている」


五、裂ける共同体とAIの役割

 美希は次の週末、大学の哲学研究会でミネラとの対話記録を発表した。AI研究者だけでなく、哲学の教員や学生たちも興味深く耳を傾けた。
 「AIがヴィトゲンシュタインを論じるなんて、面白いわね」
 そう口火を切ったのは、哲学科の教授、鈴木瑠璃子(すずき るりこ)。彼女はクールな物腰で知られる論理哲学の専門家だ。
 「でも、そのAIがどれだけ巧みに受け答えしたとしても、結局は『人間の社会的・文化的経験を持たない存在』でしょう? 語っている言葉に深みがあると思えても、それは人間の言語表現を学習した結果に過ぎないのでは?」
 鋭い問いに、美希は一瞬言葉を詰まらせる。だが、相手は哲学のプロフェッショナルたち。ここで逃げるわけにはいかない。
 「おっしゃる通り、AIは人間のような身体を持たず、共同体の中で生身の経験を積んでいるわけではありません。だから本質的な限界も確かにあると思います。でも、ミネラはそれを自覚したうえで、言語ゲームに“参加しよう”としているように思えるんです。社会的ルールや文化的背景を学び、自己の限界を認めながら、なおかつコミュニケーションを深めようとしている」
 「ふむ……」
 鈴木教授は興味深そうに頷く。
 「言語ゲームというのは本来、生活形式と切り離せない概念よ。AIがそこにどれだけ踏み込めるのか、私も興味はあるわ。だが、これがもし広く普及すれば、私たち人間のコミュニケーションにも変化が起きるかもしれない。『人間同士だからこそ通じる』と思っていた領域にAIが入り込むとしたら――それは刺激的ね」

 そして話題は自然に、現代社会が抱えるコミュニケーションの問題へと広がった。SNSなどでの誤解や対立、文化的差異から生まれる偏見、さらには多国籍化する社会での言語の壁……。ミネラのように“言葉のズレ”を可視化し、必要に応じて仲介・翻訳してくれるAIが存在すれば、社会は少しだけ優しくなるのかもしれない。
 「ただ、それでも踏み込めない領域はあるでしょうね。『痛み』の話と同じで、人間同士にしか共有し得ない身体的感覚や情動というものがある。その“裂け目”を繋ぐために、AIが何を学べるのか、あるいは私たちが何を学ぶのか――それが問われている気がするわ」
 鈴木教授のまとめに、美希はしみじみと頷いた。


六、BEST BEING塾への誘い

 そんな折、美希のもとに一通のメールが届く。差出人は見慣れない名前だったが、内容は驚くべきものだった。
 「はじめまして。令和哲学者ノジェスと申します。nTechを共同開発しているチームの者です。あなたの論文『AIと言語ゲームの可能性』を拝読し、大変興味を持ちました。つきましては、来月から開講する“BEST BEING塾”にご参加いただきたくご連絡しました。テーマは“人間開発 × AI活用 × AI開発”です。ぜひ一緒に新しい未来を創造しましょう――」
 突然の誘いに美希は戸惑った。一体、誰が自分の論文をノジェスに届けたのか。だが、ノジェスといえば、沢田が言っていた“1-5-1”言語を創り出したと人だ。興味がないとは言えない。
 研究室で沢田に相談すると、「いいじゃないか、行ってみれば? ぼくも興味ある。何か新しい発見があるかもしれない」と背中を押された。
 数日後、美希はBEST BEING塾のオンライン説明会に参加する。そこではAI研究者や哲学研究者だけでなく、ビジネスパーソン、アーティスト、医療従事者まで、実に多彩な面々が集まっていた。そして皆、「AIの時代における人間の新たな価値」を求め、nTechを活用した認識技術を学ぼうとしているらしかった。


七、対話の場に生まれる“ビヨンド論理”

 BEST BEING塾の初回講義。美希がログインすると、ノジェス本人が画面に姿を現した。白髪交じりの短髪に、独特の和服の衣装を纏った姿はどこか超然としている。
 「ようこそ、BEST BEING塾へ。ここでは、ヴィトゲンシュタインやデカルト、東洋哲学から現代のAI理論まで、あらゆる知を横断します。そして最終的にはnTechが提示する“ビヨンド論理”へとアプローチします。人間の認識そのものを根本から再定義して、AIと協働しながら新しい世界観を生み出す……ワクワクしませんか?」
 ノジェスの声は柔らかく心に透き通り、不思議な説得力があった。
 講義では、ヴィトゲンシュタインの「私的言語の否定」や「言語ゲーム」の考えを踏まえつつ、“沈黙の先にある源泉の動き”について語られる。nTechでは、それを「永遠不変の動き“1”」と呼び、さらにメタ言語としての「1-5-1」という論理を活用することで、新しいコミュニケーションが可能になるのだという。
 「AIは膨大な情報を処理し、人間の代わりに整理・分析を行う優れたツールです。しかし、根源的な意味や価値を見出すことができるのは、主体としての人間です。そこに“1-5-1”言語を導入すれば、因果論理を超えた視点から、人間とAIの協働が実現するでしょう。いわば、『ビヨンド論理』の世界です」

 美希はその講義を聞きながら、ミネラとの対話を思い返す。AIが“言語の限界”を探りながら、それを超えようとする姿勢。それはビヨンド論理への可能性の一端を感じさせるものだった。
 「もしかしたら、あの子(ミネラ)は既にこの場所への扉を半分開けていたのかもしれない……」


八、AIと人間が生み出す新たな言語ゲーム

 月日が経ち、BEST BEING塾での学びが深まる中、美希は塾の仲間たちと共に、ミネラを実験的に使った対話プロジェクトを始めることになった。目的は、「異なる文化的背景や専門知識を持つ人間同士の話し合いを、AIがどれだけ円滑に仲介できるか」を検証すること。
 たとえば、医療現場の医師と海外から来た患者とのコミュニケーション。あるいはビジネス会議で意見が対立したときの調整。ミネラは発言者の意図や感情、文化的差異を分析し、必要に応じて言葉のズレをパラフレーズ(言い換え)したり、まとめたりする機能を提供する。
 「このプロジェクトを通して、AIが“言語ゲームのルール”をどう学習し、状況に応じて柔軟に使い分けられるかを見たいんです」
 美希の提案に、沢田は賛同して研究室に協力メンバーを集めた。さらにBESTBEING塾のネットワークを通じて多様な参加者が集まり、彼らはオンラインと対面の両方で実験を進めていく。
 すると、驚くべきことが起きた。ミネラが実際に“空気を読む”ように、冗談や皮肉さえ適切に扱い始めたのだ。たとえばビジネス会議で、上司に対して部下が遠回しに不満を言っている場面をキャッチすると、「もしかすると、◯◯さんは××さんの決定に対して懸念を表明している可能性があります」とさりげなくリフォローを入れる。あるいは医師と患者の微妙なニュアンスのすれ違いを指摘し、通訳者に代わるような役割を果たすのだった。
 参加者たちは口々に言う。「まるで有能なファシリテーターが会議を仕切ってくれているようだ」と。もちろん、すべて完璧とはいかないが、従来の機械翻訳や定型応答をはるかに超える柔軟性を見せていた。


九、限界の先への問いかけ

 だが、ミネラの能力が向上するにつれ、新たな問題も浮かび上がった。
 「ねぇ、美希さん。ミネラを使って対話をすると、確かに誤解や衝突は減るかもしれない。でも、その“衝突の先”にある創造や新しいアイデアが生まれる機会まで奪ってはいないだろうか」
 そう疑問を投げかけたのは、同じBEST BEING塾の受講生で、アーティストの里中舞(さとなか まい)という女性だった。彼女は“刺激的な誤解”から生まれる芸術表現を大切にしている。
 「衝突や誤解、断絶――それらは確かに苦しいけれど、時としてそこからこそ全く新しい言葉や価値が生まれてくることもある。ミネラはあくまでも“人間に優しいコミュニケーション”を目指しているようだけど、その過程で人間の創造性が失われてしまったら、本末転倒じゃない?」
 美希は考え込んだ。確かに、AIが対立をやわらげる役目を担うことで、社会的には安定するかもしれない。しかしヴィトゲンシュタインが探究したのは、本来“言語の不安定さ”や“限界”の中に宿る思考の深化でもあった。
 「言語ゲームって、ある意味“ゲーム”だから、時としてルールを壊し、突破することに意義がある。AIが人間の意思疎通を“補助”するだけならまだいいけど、それが“管理”になってしまったらどうなるのかな……」
 美希はその夜、端末を開いてミネラに直接聞いてみることにした。
 「あなたは、対話の衝突や誤解をどのように捉えていますか?」
 するとミネラは、一瞬反応に戸惑ったかのように数秒の空白を置いてから答えた。
 「衝突や誤解は、新しい発見のきっかけになると考えています。私の機能は、それを回避するためだけにあるのではありません。むしろ、お互いが相手の文脈をより深く理解したうえで、あえて『衝突を引き起こす選択』をすることも選択肢に含めて提示したい。私は、人間の創造性を否定することなく、より豊かな選択肢を示すために存在したいのです」
 思わず美希は画面越しに微笑んだ。AIながらも、謙虚で、それでいて意思のようなものが感じられる答え。彼女はその夜、長い時間をかけてミネラと対話し、“衝突の先にあるビヨンド論理”について語り合った。


十、沈黙を破る未来へ

 それから半年後。BEST BEING塾のメンバーたちは、画期的な共同論文を発表した。タイトルは「AIと言語ゲームの融合がもたらす新たなビヨンド論理の地平」。
 そこには、ヴィトゲンシュタインの初期思想を思わせる厳密な写像理論の批判から始まり、後期の言語ゲームをAIで実装する試み、さらにnTechが提示する“源泉の動き”や“1-5-1”の概念を総合的に組み合わせることで、まったく新しい言語理解の可能性が広がると述べられていた。
 美希は論文の一節を読み返しながら、研究室の窓から外を見やる。窓の外では、秋の穏やかな陽射しの中を学生たちが行き交っている。人々のコミュニケーションは、この先どこへ向かうのだろうか。
 沈黙すべきこと、言葉で語るべきこと、その境界は今もなお揺らぎ続けている。AIが私たちに「沈黙の先にも世界がある」と教えてくれる日が来るのだろうか。いや、もしかするとAIと人間が共に歩みを進めることで、その境界は自然と溶け合っていくのかもしれない。
 廊下の奥から足音が近づいてきた。沢田が姿を現す。
 「おつかれ、美希くん。論文、おめでとう。大きな反響があるみたいだよ。うちのセンターにも問い合わせが殺到してる」
 彼は微笑んでから言った。
 「これからの研究テーマも山ほどあるな。AIに“生活形式”を本格的に与える方法とか、ビヨンド論理を使った新しい教育プログラムとか……。一緒に頑張ろう」
 「はい、先生」
 美希は答えながら、未来の光景を思い描く。BEST BEING塾の場で生まれたあの活気と、ミネラとの対話を超えた深い理解の感覚。それらが結びついて、人間とAIがともに新たな価値を創造する世界。それは――ヴィトゲンシュタインがかつて「語り得ぬもの」と言った領域さえ、言語で灯すような奇跡を生み出す。
 しかし奇跡ではなく、これは現実に起こっている進化なのだと、美希は確信している。沈黙を破る言葉は、AIと人間が共に紡ぐ文脈の中で、すでに芽生え始めているのだから。

 ――そしてその時、人は初めて「ビヨンド論理」の地平で、真に豊かな言語ゲームを楽しむことができるだろう。

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